今ここに、\20,000の樹脂と鉄パイプでできた衣装箪笥と、職人が作った\200,000もするしっかりしたチェストがあります。旦那さんは35歳で、一家のあるじで、奥さんと一緒に衣装入れを探しています。奥さんは、店内を歩いていて一目見てチェストが気に入ってしまいました。デザインだけでなく、作りがしっかりしています。引き出しをひっぱり出して、上下ひっくり返してみると、その作りの良さがよくわかりました。そのことを旦那さんに話しても、どうも聞いてもらえそうにありませんので、彼女は黙っていました。結局、その日は、\20,000の衣装箪笥を抱えて家に帰りました。旦那さんは、価格もさることながら、その日のうちに買って帰りたい、待つなんてまっぴら、という性分なのでした。
5年ほど経ったある日、以前購入した衣装箪笥がさすがにみすぼらしく、安っぽくみえるようになったので、家族そろって家具を見にでかけることになりました。店に着くと、奥さんの目にはあのチェストが飛び込んできました。まだ、作られていたのです。驚いたことに、旦那さんもそのチェストに気づいたようで、そちらの方にどんどん歩いてゆきます。そして言いました。「このチェストはとても高価だけれど、何十年も使えそうだし、これにしてはどうだろうか」と。
彼女は心の中で叫びました。「ああ、あのチェストだわ。私がこの5年間ずっとあこがれていた。」でも、賢明な彼女は、彼を傷つけないようにこう言いました。「いいわねえ。あなたは目が高いわ。あなたさえよろしかったら、私は喜んで賛成するわ。」
店主によれば、そのチェストはその店の定番で、いまでも作り続けているとか。良い素材を使ったしっかりとした作りなので、何十年使っても狂いがないそうで、表面が痛めばいつでも工場で修復したり塗り直してくれるのだそうです。残念ながら注文生産なので、納品まで2ヶ月かかるとのこと。店主のひとことひとことに旦那さんはうなずいていますが、そんなことは彼女は5年も前から知っていたのでした。
その2ヶ月がたったある日、そのチェストは彼らの家に届きました。今まで使っていた衣装入れは、ごみに出すのはちょっと気が咎めましたが、どうひいき目に見ても、これを引き取ってくれるような人はいそうにありませんでした。仕方がないので、燃えないごみに出しましたが、そのことはやがて忘れてしまいました。チェストを見るたびに、これなら、一生涯にわたって使い続けることがきるなあ、と旦那さんは思いました。
でも、それは彼の計算違いでした。彼と彼女がこの世を去ったあとも、この夫婦の娘さんがそのチェストを大切にずっと使い続けていたのでした。
(このお話は、ある家庭で起こった実話をもとに、内容を整理して書き換えています。もちろん、その家庭というのは・・・)
さて、経済のお話です。ここに2軒の家具屋さんがあります。
1軒目の家具屋さんは、2万円の家具を毎年10個、50年間売り続けて、売上げの総額は家具500個分すなわち1000万円になりました。工場が使った資源は家具500個分になり、買ったお客さんが出したごみの量は家具450個分になりました。最近5年間に売れた家具50個はまだ使われていたからです。
売上総額=2万円×500個=1000万円
消費資源=500個分
ごみ総量=500個−50個=450個分もう1軒の家具屋さんは、20万円の家具を毎年1個、50年間売り続けて、売上げの総額は家具50個分すなわち1000万円になりました。また、家具の修繕のために家具5個分の資源を使い、その売上げが100万円程になりましたし、引き取った家具が中古で10個ほど売れて、その売上げは100万円でした。売上げの総額は1200万円となりました。結局、工場が使った資源は家具55個分になり、買ったお客さんが出したごみの量はゼロでした。なぜならば、この家具を手放した人もいましたが、家具はごみになることはなく、誰か別の人の手に渡ったからです。(不幸にして、売れた家具がすべてごみになったとしても、ごみの量は全部で家具50個分にしかなりませんが。)
売上総額=(20万円×50個)+100万円+100万円=1200万円
消費資源=55個分
ごみ総量=0個〜50個分この2つのケースでは、経済規模は基本的に同じか、後者の方が20%ほど大きくなりました。そして、後者の方が生活内容は豊かで、しかも使った資源は1/9で、なんとごみがほとんど出ていません。
電気製品や自動車では、これほどううまくはゆきませんが、1/1.5〜1/2くらいまでならやれそうに思います。耐久性を高めた電気製品は、部品にお金がかかります。少々年式が古くなっても、みすぼらしくなりにくい車を作ろうとすると、デザインにお金がかかります。でも、そういうお金のかけかたは、経済規模を大きくすることはあっても、資源を消費したり廃棄物を大量に排出したりしにくいものです。
そうなるためには何が必要か。それは、消費者の目がもっともっと肥えて、贅沢にならなければいけません。贅沢な目を持った消費者は、50年間に2万円の家具を10回買い替えたりせず、最初から20万円(あるいは20万円相当の中古)の家具を50年間使い続けるにちがいありません。なに、今そんなお金なんかないって?でも、あなたが今からそれをやっておけば、あなたの次の世代の若い人達は、お金がなくてもいいものがたくさん中古でありつけるようになるんですよ!そして、何よりももっと大切な・・・
消費大国、ことばを返せば、物を見る目がない国のことです。