邪道クラシック音楽とは・・・ドイツの某オーケストラのメンバーが何人か集まって、室内楽を楽しんでいました。ベートーヴェンには七重奏曲がありますし、シューベルトも八重奏曲を書いていますから、彼らは、このようなプログラムを中心に、演奏会を開いたり、時には録音もするようになりました。ある日、リヒャルト・シュトラウスの曲の話題になり、彼の曲は大規模なオーケストラでないと曲にならない、いや、なる、という議論が始まりました。そう言うんなら「ティルオイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」という曲を小編成の曲にしてみろ、なんていう話になり、よっっしゃ、やったる、と言ってしまった御仁がおりました。
さて、翌日、彼は8人編成の室内楽に編曲したリヒャルト・シュトラウス「もうひとりのティルオイレンシュピーゲル」と題した楽譜を持ってやってきました。そして、演奏して皆がびっくり。とても素晴らしい出来だったのです。編曲者の名は、ハーゼンエール。その曲を演奏したのは、ベルリン・フィルハーモニーのメンバーで結成されているベルリンフィルハーモニー八重奏団です。この曲は一躍有名になり・・・何故かといいますと、彼らは、演奏会のアンコールでこの曲を好んで演奏したからです・・・日本での公演でもたびたび演奏されました。さて、皆さん。当のリヒャルト・シュトラウスがこの「もうひとりのティルオイレンシュピーゲル」を聞いたら、一体何と言ったでしょうか。ご機嫌を損ねたかもしれませんし、大喜びしたかもしれません。しかし、そんなことはどうでも良いのです。聴衆は大喜びしたんですから。
このような、元の曲を異なる楽器や楽器編成で演奏できるように楽譜を書き換え演奏することを「トランスクリプション」と言います。今でいうところのカバーにあたります。トランスクリプションの大家として有名なのはF.リストとA.シェーンベルクとその弟子ですが、S.ラフマニノフもさまざまな楽曲をピアノ用に編曲しています。J.S.バッハも自己の作品のトランスクリプションを多く行っていますし、L.v.ベートーヴェンも本人や弟子によるトランスクリプションがあります。
ピアノによる「愛の歌」
- J.Brahms / Love Songs
- J.ブラームスは合唱のためのワルツ集を2つ書いています。
- そのひとつがこのアルバムに収録されている「愛の歌」ですが、
- このCDは合唱ではなく2台のピアノ版なのです。
- ピアノ版の編曲はこのCDを企画したViola奏者でもあるRazvan Popoviciが中心になって行われました。
- 合唱のみなさんには申し訳ないですが、私はこのピアノ版の方が好きです。
- CD: SOLO MUSICA / ------
弦楽六重奏による協奏交響曲
- W.A.Mozart / Grande Sestetto Concertante
- W.A.モーツァルトの名曲、シンフォニア・コンチェルタンテK.364です。
- ソロを弾いているのはウィーンフィルの名手の二人、そしてオーケストラは弦楽カルテット。
- 編曲者不詳のこの曲は人気があるらしく、じつに多くの録音があります。
- このCDはアンサンブルウィーンのものでウィーンのCDショップで見つけました。
- 聞き心地抜群なので我が家では食事時によくかかっています。
- CD: KOCH / ------
ブラームスのトロンボーン三重奏曲って?
- Beethoven & Brahms Trio & Sonata for Trombone
- イアン・バウスフィールドの名を知っている人はウィーン通。
- そういう人なら、当然ヴァイオリンの和樹・ヘーデンボルグもご存知ですね。
- 世界一のオーケストラの団員が、ホルンやファゴットのかわりにトロンボーンでやっちゃうところがミソ。
- 真の音楽家は野暮なことは決して言わないものだ。
- CD: CAMERATA / CMCD-28209
10人でやるブルックナーの交響曲第7番
- Thomas Christian Ensemble / Bruckner, arr Stein, Eisler, Rankl - Symphony No.7
- これも小編成でやるブルックナーの交響曲第7番。
- でかいオーケストラばっかり聞いてないで、こういうのもどうぞ。
- リーダーのThomas Christianは魅力的な録音をたくさんやっています。
- こちらも、チェロはわれらがNaoki Hedenborg。
- CD: DABRINGHAUS UND GRIMM / MDG 603 1313-2
13人でやるマーラーの交響曲第4番
- Thomas Christian Ensemble / Mahler, arr Stein - Symphony No.4
- Erwin Steinの編曲によるマーラーの交響曲第4番。
- こういう編曲活動の発起人といえるのがシェーンベルクです。
- Erwin Steinはシェーンベルクの良きアシスタントを務めた人。
- これは音楽を身近に楽しもうというウィーン人による貴重な成果のひとつです。
- チェロはわれらがNaoki Hedenborg。
- CD: DABRINGHAUS UND GRIMM / MDG 603 1320-2
アンサンブル・プラネタ
- Ensemble Planeta / '麗しのアリア'
- 声楽やっているムスメがみつけてきたCD。
- 珍しい女声だけのアカペラ・グループです。
- 編曲が秀逸、優れたアンサンブル、とても良い録音。
- できるだけ良いオーディオ・システムで聴いてほしいですね。
- CD: PONY CANYON / PCCA-01884
ウィーン・フィル・メンバーによるイージーリスニング
- Corso Wien / 'Von Lanner zu Lennon'
- Alfons Eggerというヴァイオリン弾きをご存知でしょうか。
- フィルハーモニア・シュランメルンを主宰しているウィーン・フィルのヴァイオリニスト、と言ったら「ははーん」とわかる人はかなりのワルツ好き。
- 抜群のヴァイオリンの腕を持ちながらいつも後ろで弾いている完全にマイペースの人でもあります。
- これは、Josef Lannerのワルツやポルカから、ルロイ・アンダーソン、ジョン・レノンにジャズ・ナンバーと、一昔前のイージーリスニング・ナンバーまでカバーした不思議なアルバム。
- ライブ録音なんですが、場所はこともあろうに楽友協会大ホール。
- Corso Wienのメンバーの過半数が現役および引退組のウィーン・フィルおよび国立歌劇場管弦楽団の団員、加えてウィーン交響楽団やフォルクス・オパーの団員によって構成されています。
- CD: CW 4 00 A (ORF)
モーツァルト 声楽のためのカノンと重唱
- W.A.Mozart:「静かにそっと」、「歌のおけいこ」、「ああ君、ろばのマルチンよ」、「リボンのテルツェット」、「プラータに行こう」etc.
- 欧州におけるモーツァルト好きのインテリの間では知らぬ人はないと言っていいくらい有名なエリカ・ケート、ペーター・シュライヤー、ヘルマン・プライ、ワルター・ベリーによる名録音。
- レコードにするのに流石にまずいと思ったのか歌詞に編集がはいっていますが、原詩は「おれのケツでもなめろ」であり「うんこころころのプラター公園」な曲ばかり集めてあります。
- 歌詞カードには「もう8時、でないと私たちは・・・ああ」と記されていますが、その真意は「もう夜の8時なので、コンスタンツェとウォルグガングははやくベッドインしたい、でないと漏れてしまう・・・(すいません、露骨な表現で)」なのであります。
- 先日、中古レコード屋でみかけた1枚にはなんと1万円以上の値がついておりました。
- CD: EMI TOCE-6596
フリードリヒ・グルダ ゴロヴィンの森の物語(J.シュトラウス2世へのオマージュ)
- F.Schubert:即興曲Op.90、楽興の時Op.94、F.Gulda:ゴロヴィンの森の物語(J.シュトラウス2世へのオマージュ)
- グルダが亡くなる少し前に、自宅のスタジオでプライベートに録音されたもの。
- いろいろなことがあったグルダですが、やっぱりウィーンの人だった、ということを感じさせる曲であり演奏です。
- 曲は、グルダ流の冗談音楽で、ヨハン・シュトラウスからの引用、ベートーヴェンをスパイスに最後はウィーンの民謡でしみじみとしめくくっています。特に、最後のところでグルダ本人がウィーン訛りで歌う「おいらがいつか死んだら」は、感傷に弱い私などは聴くたびについ涙ぐんでしまうのでした。
- CD: EMI TOCE-13091
ベートーヴェンのエコセーズ・・・ピアノのための舞曲集
- F.Schubert:ワルツ Op.18、L.v.Beethoven:アルマンド イ長調〜2つのコントルタンツ〜ワルツ ハ長調、F.Schubert:貴婦人方のレントラー Op.67より、8つのエコセーズ、感傷的なワルツ Op.50、J.Haydon:4つの小品・・・笛時計のための小品より、L.v.Beethoven:ワルツ ロ長調、エコセーズ、F.Schubert:ワルツ ヘ長調 Op.127より、トリオ ホ長調、8つのレントラー、グレッツァー・ギャロップ、2つのドイツ舞曲
- ワルター・クリーンがピアノを弾くこのLPを持っている人は幸福です。ピアノによるウィーン風の舞曲集の中で、このLPはほとんど最高の1枚だといっていいのではないでしょうか。
- ベートーヴェンはシューベルトに劣らず実に多くの舞曲を書いています。後に楽聖と呼ばれるようになって神格化されてしまった作曲家達のほとんどは、その音楽経験のベースにはこのような舞曲や民謡が存在します。生まれてから突然のようにあのような交響曲が出てきたわけではありませんし、四六時中あのような構成美に満ちた大曲ばかりかかわっていたわけではありません。
- ベートーヴェンの12のコントルタンツを聴けば、この田舎風舞曲の中に彼の交響曲の重要なモチーフをいくつも発見できることでしょう。
- LP: WARNER PIONEER VOX H-4902V
サン・マルコ広場のカフェとサロン音楽
- G.Verdi:歌劇「椿姫」前奏曲、J.Offenbach:「カンカン〜天国と地獄」、A.Piazzolla:「リベルタンゴ」、J.Brahms:「ハンガリー舞曲第5番」、G.Verdi:歌劇「トロヴァトーレ」より「見よ、薪の恐ろしい火を」、E.Kalman:「チャルダーシュ侯爵夫人〜メドレー」、P.Mascagni:「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲、J.StraussII:「チク・タク・ポルカ」、E.Morricone:「ウェスタン77」etc.
- ヨーロッパには、サロン音楽という文化があります。カフェで演奏されるおなじみの旋律は、オペラあり、ブラームスあり、ピアソラあり、ポルカあり、映画音楽あり、それはもうなんでもありなのです。暮れ行く広場の喧騒のなか、カフェのテーブルでコーヒーカップ片手に語らいながら聞く、楽師達が次々と奏でてゆく古今の調べは、音楽文化の奥深さを物語っています。
- なかでも、カールマンのオペレッタ「チャルダーシュ侯爵夫人」のメドレーはサロン音楽の定番らしく、ここでご紹介するヴェネツィアのサン・マルコ広場のカフェのみならず、スイス、フランスのカフェのサロン・オーケストラも必ずレパートリーに入れています。
- CD: Winter&Winter 910007-2 / Made in Germany
ダニー・ケイとニューヨークフィルの夕べ
- G.Rossini:歌劇「どろぼうかささぎ」序曲、J.Strauss:「トリッチ・トラッチ・ポルカ」、P.I.Tchaikovsky:組曲「くるみ割り人形」から、J.Strauss:オペレッタ「こうもり」より、G.Verdi:歌劇「アイーダ」より、M.Merrick:「ルック・シャープ・マーチ」、L.v.Beethoven:交響曲第5番より・・・etc.
- このレーザーディスク、騙されたと思ってお買いなさい、決して後悔なさらないでしょう。腸がよじれるほど笑えるでしょう。音楽の楽しさ、奥の深さを思い知るでしょう。ダニー・ケイという役者の音楽に対する愛情に心打たれることでしょう。彼は楽譜が読めません。指揮法も知りません。それなのに、見事にニューヨークフィルを思いのままに振っています(たまに振り間違えていますがこれはご愛嬌)。ニューヨークフィルのメンバーも心から楽しんでいます。
- 音楽家達の老後の基金をつくるために開かれたこのコンサートで一体何が起こったのか。それは、これを見るまでのお楽しみです。
- LD: SOHBI SLK-1004
トビアス・ライザー合奏団
- W.A.Mozart:舞曲のかずかず、歌劇「魔笛」からパパゲーノのアリアほか
- 映画「サウンド・オブ・ミュージック」の中で地元の音楽コンテストの場面がありますね。主人公であるフォン・トラップ・ファミリー合唱団は見事1位を獲得しますが、誰が2位になったか記憶にありますか。映画では、トビー・ライザーと紹介されている合奏団が2位でした。
- 実は、この合奏団は実在します。実在するどころか、音楽の都ザルツブルグの名物合奏団なのです。映画の中で賞をもらいに舞台上に出てきたおじさんと、左の画像の中央でツィターを弾いているおじさんは同一人物です。映画の中では、コンテストのリハーサル場面で、彼らが演奏する様子を垣間見ることができます。
- LP: Telefunken 6.25589 AS / "MOZART und die Volksmusik"
オリジナル編成による「ジークフリート牧歌」
- オリジナル〜R.Wagner:「ジークフリート牧歌」
- 今日、ワグナーの「ジークフリート牧歌」はオーケストラ編成で演奏されるのが普通です。数多く売られているレコードやCDも同様にオーケストラ編成で演奏されていますから、「ジークフリート牧歌」とはそういう響きの音楽であるとの認知が一般化しています。しかし、ご存知のように、この曲は演奏会用ではなく、愛妻コジマの誕生日プレゼントのために秘密裏に作曲されました。1870年12月25日、コジマは、ルツェルンの自宅において、階段に陣取った15名の楽員(但し、ヴィオラとトランペットは兼任だった)によって初演されたこの美しい音楽で目を覚まします。
- さて、ショルティ/ウィーンフィルによるブルックナーの交響曲第7番に「おまけ」としてカップリングされていた「ジークフリート牧歌」は、ウィーンフィルのコンサートマスターであるワルター・ウェラー率いるウィーンフィルの首席奏者達によるオリジナル編成+1名によって演奏されています。はじめて聴かれた方は、室内楽のような、あたたかかく、こじんまりとした響きに驚かれるかもしれません。(私の場合は、こちらがメインで購入し、ブルックナーがおまけでついてきました。)
- LP: LONDON SLC 1758-9, LP: LONDON L25C-3138
グレン・グールドによるワグナー
- 原曲〜R.Wagner:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲・・・Arr. by Glenn Gould
- 原曲〜R.Wagner:「神々の黄昏」から「夜明けとジークフリートのラインへの旅」・・・Arr. by Glenn Gould
- 原曲〜R.Wagner:「ジークフリート牧歌」・・・Arr. by Glenn Gould
- こういうのこそ邪道だと言われそうな気がします。ワグナーの音楽に特別な何かを感じていない私にとっては、生粋のワグネリアンが何を考えているかは想像もつきませんからねえ。しかし、「ジークフリート牧歌」を聴いてみればわかることですが、音楽の面白さがこれほどに凝縮している演奏もまた珍しいと思うのです・・・こんなことを書くと、またまた誰かに叱られそうなので、この辺にておわりにしておきます。
2つの木管楽器のためのハルモニームジーク
- 原曲〜W.A.Mozart:オペラ「ドン・ジョヴァンニ」から・・・Arr. by Anonyme
- 原曲〜W.A.Mozarti:オペラ「フィガロの結婚」から・・・Arr. by Anonyme
- 原曲〜W.A.Mozarti:オペラ「後宮からの誘拐」から・・・Arr. by Anonyme
- 原曲〜W.A.Mozarti:オペラ「魔笛」から・・・Arr. by Anonyme
- ハルモニームジークの最もシンプルなものは、2本のフルート用だったようです。ほんの50年前までは、編曲者不詳のこういった作品は「オリジナルでない作品は死に値する罪」だということで冷や飯を食らっていたようですが、今はおおらかで良い時代になったものだと思います。
- 左側の缶入りのCDは、フルート2本による「魔笛」と「後宮からの誘拐」が収録されており、缶の蓋の図柄がすてきだったので買い求めたものですが、演奏も録音も噴飯もののひどい出来でした。ま、18〜19世紀にも、そういうへたくそな楽師もいたということで・・・。右側のCDは4つのオペラを収録したもので、演奏はウィーンフィルのW.シュルツ(fl)とベルリンフィルのH.J.シェレンベルガー(ob)のデュオで、なかなか素晴らしい演奏です。
- CD: PILZ 44 7446-2 / Made in Germany、CD: Grammophon F32G 20293 / 423 611-2
ハルモニームジークを残した宮廷楽長達
- 原曲〜W.A.Mozart:オペラ「フィガロの結婚」・・・Arr. by Georg Sartorius(c.1800)
- 原曲〜G.Rossini:オペラ「セビリャの理髪師」・・・Arr. by Wenzel Sedlak(c.1800)
- さきほど(↓)、ハルモニームジークのためのモーツァルトのオペラの編曲で有名なものに、Johann Nepomuk Wendtによる「フィガロの結婚」があると書きましたが、このような編曲を残した音楽家はたくさんいました。たとえば、19世紀に活躍した宮廷楽長達で、ダルムシュタットのGeorg SartoriusやウィーンのWenzel Sedlakなどです。
- Sartoriusは、モーツァルトの「フィガロの結婚」を、Sedlakはロッシーニの「セビリャの理髪師」をハルモニームジークとして編曲しています。居ながらにして、こういった楽しいオペラの場面場面を思い浮かべながら、ハルモニームジークとともに時を過ごした貴族達と同じ生活を、CDを手にした私達は楽しむことができる時代になりました。
- CD: SONY SRCR 9429
W.A.Mozart:「ドン・ジョヴァンニ」(ハルモニームジーク)
- 原曲〜W.A.Mozart:オペラ「ドン・ジョヴァンニ」・・・Arr. by Jopseph Triebensee(1772-1846)
- W.A.モーツァルトが「ドン・ジョヴァンニ」を書いたのが1787年のことですから、木管合奏(ハルモニームジーク)版を書いたTriebenseeはすでに15歳くらいの青年になっていました。この編曲はまさにモーツァルトとほぼ同じ時代を生きた人によってなされたわけです。当時は、著作権の概念がなく、他人の曲を編曲して出版するのは自由でした。木管合奏による編曲で有名なものに、Johann Nepomuk Wendtによる「フィガロの結婚」がありますが、彼はJopseph Triebenseeの義父にあたります。
- ところで、「ドン・ジョヴァンニ」の第二幕のなかでドン・ジョヴァンニが食事をする場面があり、舞台上で木管合奏による舞曲や「フィガロの結婚」の部分が演奏されますが、まさにこれがJohann Nepomuk Wendtによるハルモニームジーク版「フィガロの結婚」であるわけです。当時、食事のためのBGM(ターフェルムジーク)はもっぱら木管合奏で演奏され、かなり流行していたようなのです。それは、管楽器の方が機動性があって音量もはるかに大きかったからでしょう。
- CD: ORFEO C 063-841 A / Made in Germany
W.A.Mozart:「音楽の冗談」ヘ長調 K.522
- オリジナル
- W.A.モーツァルトは、実に多くの遊びの音楽を書いていますが、この「音楽の冗談」は、ふざけたというよりは、当時のろくでもない作曲家達を小馬鹿にした風刺と諧謔の音楽といえると思います。
- 冒頭、7小節で完結してしまう間抜けな主題ではじまり、ひたすら弾きまくっているのに一向に盛りあがらない中間部。最後は、おもいっきり調子っぱずれのカデンツァで締めくくられます。
- このCDはかのゲアハルト・ヘッツェルが遺した超名演です。
- CD: DENON / COCO-70770
J.Brahms:ピアノ四重奏曲第1番ト短調 op.25 (オーケストラ版)
- 原曲〜J.Brahms:ピアノ四重奏曲第1番ト短調 op.25・・・Arr. by A.Shoenberg
- まさかブラームスの室内楽曲がオーケストレーションされるとは意外でしたが、シェーンベルクは、見事に曲の持つ深みをオーケストラという編成に生かしきっています。冒頭の、深々と包み込まれるような響きは、まさにブラームスの世界です。私は、若杉弘氏がヨーロッパで指揮をしたライブの存在しか知りませんが、もし、この曲のレコードかCDが存在するのでしたら、是非教えいただきたいと思っています。
A.Tibizen:「運命の衝撃」
- 原曲〜L.v.Beethoven:交響曲第5番ほか
- 冗談音楽には、W.A.モーツァルト「音楽の冗談」のように、オリジナルのモチーフを題材にしたものと、ホフナング音楽祭「コンチェルト・ポポラーレ」のように名曲の旋律の寄せ集めで笑わせてくれるものの2タイプがあります。木管五重奏で演奏されるこの曲は後者に属します。
- L.v.ベートーヴェンの交響曲第5番を中心にして、いろいろなオペラの旋律を拝借し、なかでも、J.シュトラウスのオペレッタ「こうもり」のワルツになだれ込むあたりは爆笑間違い無しです。ウィーンとベルリンの木管楽器奏者で構成されるアンサンブル・ウィーン・ベルリンが好んでアンコールに演奏しています。
ウィーン・ハイドン・トリオのワルツ
- 原曲〜J.StraussII:「南国のバラ」「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」ほか
- ウィーン・ハイドン・トリオといえば、L.v.Beethovenのピアノ三重奏曲が広く知られています。彼らが日本に来た時、アンコールでJ.StraussIIのワルツ「ウィーンの森の物語」の素晴らしい演奏を聴かせてくれました。ピアノが刻む三拍子はまぎれもないウィーン風のあのワルツのリズムであり、彼らがいかにワルツ好きであるかが伝わってきました。もしかして、ウィーン・ハイドン・トリオによるワルツの録音はないものか、と探しましたがそういうCDはなさそうです。ううむ、残念。
- ところがある日、サンフランシスコの街をうろついていた時、このCDを見つけてしまったのです。もう、うれしいのなんの。ここに収録されている「ウィーンの森の物語」は、まさにあの時のアンコールそのもので、二度びっくりです。
- CD: ARABESQUE Z6657 / Made in USA
J.Lanner:ワルツ「モーツァルト党」op.196
- 原曲〜W.A.Mozartのさまざまな作品から拝借
- このワルツは、モーツァルトの歌劇の旋律が次ぎから次ぎへとメドレーのように登場します。みなさん、一体何曲が使われているか、わかりますか。
- 「魔笛」から「助けてくれ」、同「僧侶の行進」、同「ザラストロのアリア」、「ドン・ジョヴァンニ」から「お手をどうぞ」、「魔笛」からパパゲーノとパミーナの二重唱「恋を知るほどの殿方には」、「魔笛」パパゲーノの鈴の音で踊る動物達、「ドン・ジョヴァンニ」から「酒の歌」、同「第一幕のフィナーレ」等々、そしてコーダは「魔笛」序曲から・・・
- ところで、この合奏団の編成は、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、コントラバス1でチェロがいません。何故かというと、酒場等で流しで演奏することの多い彼らにとって、「椅子」に座らないと演奏できないチェロがいてはなにかと不便だからです。
- 演奏しているアンサンブル・ウィーンの素性ですが、ヴァイオリンがP.グッゲンベルガーとG.ザイフェルト、ヴィオラがP.ゲッツェルときたら、ウィーンフィル・ファンのあなただったらピンときますね。
- CD: SONY SRCR 8738
L.v.Beethoven:ピアノ三重奏による交響曲第2番
- 原曲〜L.v.Beethoven:交響曲第2番ニ長調 op.36・・・Arr. by Beethovenご本人または弟子(氏名不詳)
- CDや放送のなかった当時、著名な作品を聴こうとするならば演奏会に行くしかありませんでした。しかし、今日ほど多くの演奏会の機会などありませんでしたし、交響曲ともなるとオーケストラの団員を揃えねばなりませんでしたから・・オーケストラの団員なんてみんな日雇いの時代です・・そう簡単に交響曲を楽しむなんていうことはできません。そこで、中産階級の家庭演奏会需要をあてこんで、ベートーヴェン氏は、彼自身が手を下して編曲版を書いたり、弟子に交響曲の室内楽版の編曲を指示します。このような音楽をハウスムジークといいます。オーナー自身が演奏する目的の音楽であるという点で、雇われ音楽であるハルモニームジークとは一線を画します。
- 私がはじめて友人からこのピアノ三重奏による交響曲第2番を聴かされた時、これが交響曲であるということに気づかずに、愚かにも「室内楽はよく知らないんだ。ベートーヴェンの曲であることくらいしかわからないな。」と答えてしまったことがある因縁の曲です。
- ベルリンフィルの首席奏者T.ブランディス、W.ベッチャーとE.ベッシュのピアノによる演奏が、ARCHIVによって録音され、レコード化されていますが、中古レコードの入手はきわめて困難かもしれません。
- LP: ARCHIV 2533 136
L.v.Beethoven:ピアノによる交響曲第5番/第6番
- 原曲〜L.v.Beethoven:交響曲第5番ハ短調 op.67・・・Arr. by F.Liszt *
- 原曲〜L.v.Beethoven:交響曲第6番ヘ長調 op.68・・・Arr. by F.Liszt
- ピアニストであり作曲家であり、当時のご婦人方のアイドルでもあったフランツ・リスト氏は、実に多くの編曲の作品を残しています。特に、リスト氏が最も尊敬していたベートーヴェン師匠の作品に多くの編曲作品がみられます。
- オーケストラ曲をピアノ曲に編曲した場合、多くの楽器が受け持っている旋律やオブリガート、リズムが失われることは防げません。考えようによっては、神聖なる原曲の破壊ともとれる行為です。しかし、そこが音楽の神秘といいましょうか、ベートーヴェンが書いた交響曲はやはりそのままピアノに姿を変えて、私達の目の前に広がってくれるのです。
- CD: harmonia mundi 901195 / *のみ
L.v.Beethoven:弦楽セレナーデ op.131/op.135
- 原曲〜L.v.Beethoven:弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調 op.131
- 原曲〜L.v.Beethoven:弦楽四重奏曲第16番ヘ長調 op.135
- ベートーヴェンは、嬰ハ短調とヘ長調と2つの弦楽セレナーデを残しています。・・・な、な、なんだと。
- レナード・バーンスタインは、2つの弦楽四重奏曲を大規模な弦楽オーケストラで演奏してしまいました。それも、ウィーン・フィルなんかを使って。実は、ウィーン・フィルがこういうことをやったのはこれが初めてではありません。前科があります。ウィーン・フィルという名ではありませんが、ウィーン・フィルのメンバーによって構成される合奏団が来日した時、op.131を演奏しているのです。
- 4人編成のために書かれた曲が、立派に大規模な弦楽オーケストラで通用してしまうというところが、ベートーヴェンという作曲家のすごいところだと思うのです。ところで、「弦楽セレナーデ op.131/op.135」という呼称は私が勝手につけました。
- CD: Grammophon POCG-1614 / 435 779-2
L.v.Beethoven:弦楽とピアノのための四重奏曲変ホ長調 op.16
- 原曲〜L.v.Beethoven:ピアノと木管楽器のための五重奏曲変ホ長調 op.16
- ベートーヴェンの室内楽にちょっと詳しい方であれば「弦楽とピアノのための四重奏曲変ホ長調 op.16」と聞いて「あれっ」とお思いになるでしょう。op.16といえば「ピアノと木管楽器のための五重奏曲変ホ長調」ですからね。
- しかし、この情緒あふれる美しい曲を、ヴァイオリンやチェロで演奏したらどんなにかいいだろうか、と思うのが我々門外漢なわけですが、実際、そういう演奏があるのです。それも、イェルク・デムスのピアノにウィーンフィルの首席奏者達というこの曲に最もふさわしいメンバーによってです。
- この曲が、ベートーヴェンご本人によってピアノ+弦楽四重奏化されたのは、当時、木管合奏よりも弦楽重奏版の方が需要が多かったためであろうことは容易に想像ができます。ちなみに、同じ内容を持つこの2つの曲はともに、初演ではベートーヴェンがピアノを受け持っています。
- CD: DENON 28CO-1859
A.Berg / A.Schoenberg / A.Webern
- 原曲〜J.StraussII:ワルツ「酒・女・歌」op.333・・・Arr. by A.Berg
- 原曲〜J.StraussII:ワルツ「皇帝円舞曲」op.437・・・Arr. by A.Shoengerg
- 原曲〜J.StraussII:ワルツ「Treasure」op.418・・・Arr. by A.Webern
- 近代ウィーン作曲家の3人組といえば12音階で知られるこの3人です。彼らの作品を聴くと、ウィンナワルツで知られるヨハン・シュトラウスとはかけ離れた世界のように感じられますが、何を隠そう、彼らもウィンナワルツで育ったウィーンっ子であったのです。
- まだ若き頃の3人組は、誰もがお金に困っていました。そこで、ウィンナワルツを小編成に編曲した曲をお金持ちに売って、お小遣いを稼ごうということになったわけです。ちょっと風変わりな編成、いかにも彼ららしく曲の骨格をしっかり捉えた編曲、しかもその音楽はウィーンの音楽そのもので、美しくソノリティに満ちたものでした。
- アルバンベルク四重奏団がウィンナワルツを演奏する(左画像)、なんてちょっと驚かれるかもしれませんが、ウィーンのアーティストのほとんどは好んでワルツを演奏するということを忘れてはいけません。中央画像はコレギウム・アウレウム。右画像のは2009年の録音でThomas Christian Ensenble。
- 左画像 CD: EMI CDC 7 54881 2 / Made in Holland、中央画像 LP: harmonia mundi ULS-3286-H、右画像 CD: MDG 603 1590-2
フィリッパ・ジョルダーノ
FILIPPA GIORDANO
- ERATO 3984-29694 (輸入盤) 1999年録音
- V.Bellini:オペラ「ノルマ」より「Casta Diva」
- Saint=Saen:オペラ「サムソンとデリラ」より「S'apre per te il mio cuor」
- G.Puccini:オペラ「トスカ」より「Vissi d'arte」
- G.Bizet:オペラ「カルメン」より「Habanera」
- G.Puccini:オペラ「ジャンニ・スキッキ」より「O mio babbino caro」
- J.S.Bach原曲、C.Gounod編曲:「Ave Maria」
- G.Verdi:オペラ「椿姫」より「Addio del passato」
- 曲名だけみると「なんだ、オペラのアリア集か。」くらいにしか思いませんが、CDのジャケットと見て「あれ、こんな歌手いたっけな。こんなキュートな顔でノルマなんか歌うのかな。」とちょっと首をかしげてしまいます。そして、演奏を聞いて椅子から転落するのでした。官能的でドラマティック、キュートでエモーショナル。
- CD屋では、該当するジャンルが無いため、クラシックコーナーにあることが多いです。
- CD: ERATO WPCS-10430
「もうひとりのティルオイレンシュピーゲル」
- 原曲〜R.Strauss:「ティルオイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」・・・Arr. by ハーゼンエール
- 冒頭でご紹介したようないきさつによって、この曲が書かれ、ベルリン八重奏団のアンコール曲の定番になりました。。
- CD: ORF ------
Wiener Philharmoniker Oper und Kammermusikに戻る