「シーズン」って何?
音楽のシーズンを楽しむ


シーズンとは

クラシック音楽の世界では「2015〜2016シーズン」という風に、2つの年にまたがった言い方をします。毎年、シーズンのはじまりは毎年9月初旬で、終わりは翌年の6月末前後です。

ウィーン国立歌劇場・・・2014年9月3日ワーグナー「さまよえるオランダ人」が初日で、2015年6月30日ヴェルディ「リゴレット」まで。
ウィーン・フィルハーモニー・・・2014年9月10日グスターヴォ・ドゥダメルが初日で、2015年6月23日マリス・ヤンソンスまで。
新国立劇場・・・2014年10月2日ワーグナー「パルジファル」で開幕し、2015年6月30日松村禎三「沈黙」まで。
このように、秋から夏の前までをひとつのシーズンとして全公演プログラムが企画されて発表されることになっています。欧州ではあたりまえですが、日本ではあまりなじみがありませんね。それでも新国立劇場も「2015〜2016シーズン」という言い方をします。NHK交響楽団の会員券にもシーズンの考え方があって、9月〜6月を一シーズンとしています。

要するに、夏休みはみんな田舎に遊びに行ってしまい、街は誰もいなくなってしまうのでコンサートやオペラができないわけ。そのかわり、田舎ではさまざまな音楽祭が開かれます。

どの劇場やオーケストラも、次のシーズンの全プログラムが発表されるのは4月頃です。その頃になると楽友協会から次シーズンの分厚いプログラムが送られてきます(右画像)。こういうのを見てにやにやしながら、いつ頃行こうかなあと飛行機のチケット代など調べつつ、シーズンの幕開けを待つわけです。


夏休みとお祭り

シーズンが終わって次のシーズンが始まるまでの間には「夏休み」があります。この期間は夏休みですから、歌劇場はお休みです。新国立歌劇場も7月と8月はオペラやバレエの公演はありません。では音楽家達は夏休み中はずうっとバカンスで休んでいるのでしょうか。いえいえ、主に8月ですが音楽のお祭りがたくさんあるので結構忙しいのです。

ザルツブルク音楽祭・・・2013年の場合は、7月18日〜8月30日に開催され、ほぼ毎日コンサートやオペラが上演されました。世界中からさまざまな音楽家がやってきますが、常連のウィーンフィルの場合、ほとんど毎日休みなくプログラムが組まれていました。
ということは、ウィーンフィルの団員達がゆっくりと休めるのは、シーズンが終わった7月の始めからザルツブルク音楽祭がはじまる7月中旬までのほんの2週間ということになります。もっとも、シーズン中はウィーン国立歌劇場管弦楽団の仕事とウィーンフィルという自主的活動の両方がありますから本当に多忙ですが、ザルツブルク音楽祭の期間中はコンサートかオペラのどちらかしかありませんからかなり楽になるだろうと思います。ウィーンフィルの団員の多くは家族揃ってザルツブルクの夏を楽しむそうです。

夏休み期間中には各国でさまざまな音楽のお祭りがあります。

ルツェルン音楽祭・・・スイス、8月中旬〜9月中旬
バイロイト音楽祭・・・ドイツ、7月下旬〜8月末
プロムス・・・英国、7月中旬〜9月上旬
ヴェローナ・オペラ・フェスティバル・・・イタリア、6月中旬〜9月上旬
草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル・・・日本、8月中〜下旬
ウィーンフィルのスケジュールを見てみると、毎年ルツェルン音楽祭とプロムスにも出ていますから、夏は結構忙しいといえるかもしれません。しかし、お祭りはお祭りなので団員達も結構楽しんでいる風があります。

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルは、小規模ながら歴史も実績のあり、海外から優れた演奏家が講師としてやってくるので、講師陣によってかなり充実したコンサートが毎日のように開かれます。ウィーンフィルの現役およびOBの首席奏者が何人もやってくるので、私はこれを聞きに草津までクルマ走らせることがあります。もっとも、これに来てしまうとザルツブルク音楽祭には出られなくなるわけで、それもあってか来日する講師は1年おきに交代でやって来るルールを作ったそうです。


海外遠征

そして、夏のお祭りが終わるか終らないかのうちに次のシーズンに突入するのですが、9月〜11月というのは海外遠征の季節でもあります。クラシック音楽で年間の来日アーティストの数は、10月と11月がダントツに多く、次に多いのが6月です。つまり、シーズン初めとシーズンの終わりが来日しやすいということなのでしょう。

7月からは夏休みでコンサートはありませんから、6月中は次のコンサートのためのリハーサルがありません。それで海外に出やすいというのがあります。

秋に来日が多いもうひとつの理由は、日本の企業やお役所の予算制度が関係しています。日本では、多くの組織で事業の新年度は4月から始まるため、予算の実行も4月からという制約があります。来日公演のためのプロモーションや準備ではかなりの費用がいりますが、それが使えるのは4月以降になります。9月〜11月のコンサートのチケットの発売は5月〜6月頃ですから、新年度予算がプロモーションになんとか間に合うわけです。

あるアーティストに「なんで毎年秋に日本に来るの?」と聞いたら「別にこの季節に来たいわけじゃないよ、コンディション的には2月くらいがベストなんだけどその時期は日本からは全く声がかからない、だから米国に行く」という返事でした。

ウィーンフィルが日本にやってくるのはいつも秋ですね。早くて9月、遅くて11月です。8月はザルツブルク音楽祭がありますから来れません。来れるのは、早くてルツェルン音楽祭が終わる9月中〜下旬からです。ルツェルン音楽祭で演奏したプログラムをそのまま日本に持って行けば、リハーサル回数を節約できます。ルツェルンの後にルーマニアのエネスク音楽祭が挟まることもあります。海外遠征は9月〜6月のオペラシーズンと重なりますから、ウィーンフィルの場合、国立歌劇場で毎日オペラをやる留守番組と、海外に出っ放しになる遠征組とに分かれます。ウィーンフィルの北米ツァーは2〜3月が多いです。

12月に来日がないのは、多くの団員がクリスマス前後に休暇を取りたがるそうなので、人手不足で海外に行けるような余裕がないからだと思います。それに年末から元旦にかけてニューイヤーコンサートがありますからね。


季節と音楽

年末の第九

年末の音楽的行事として、年末の第九(L.v.Beethoven 交響曲第9番 ニ短調)のコンサートがあります。何故、日本で年末に第九が演奏されるようになったのかというと、どうやらオーケストラのボーナス捻出が目的のようです。ですから、オーケストラはプロですが、合唱は金がかからない音大生や市民合唱団が多いのです。ちなみに、第九歌いで有名なある声楽家は、年収の50%を12月の第九出演で稼ぐそうです。しかし、年末に第九を演奏するのは日本の専売特許ではありません。ウィーンでも12月30日と31日にウィーン交響楽団が第九を演奏します。

「くるみ割り人形」と「ヘンゼルとグレーテル」と「ラ・ボエーム」

・・・と言えば、クリスマスを思い浮かべる音楽ファンは多いと思います。私も、年末になるとこの3つのどれかを観に行きたくなります。P.I.Tchaikovskyのバレエ「胡桃割り人形」はまさにクリスマスの夜のファンタジーですから、クリスマスにやらずにいつやるの?という感じがします。雪景色の中に建つ立派なお屋敷に、大人や子供たちが集まってくるオープニングは何度見てもわくわくします。E.Humperdinckのオペラ「ヘンゼルとクレーテル」も欧州ではクリスマスの定番のひとつです。ストーリー中にはクリスマスらしいものは全く出てきません。これはHumperdinckがこの曲を婚約者にクリスマス・プレゼントしたこと、そしてクリスマスの前々日に初演されたこと、子供も楽しめる内容であることが理由のようです。G.Pucciniのオペラ「ラ・ボエーム」は第一幕がクリスマスイヴの場面で開くこと、第二幕もクリスマスの街の喧噪場面ではじまることで、クリスマスにふさわしいオペラという感じがします。

大晦日に「こうもり」

このオペレッタの場面設定は、「1874年の大晦日から元旦までの1日のできごと」を描いたものです。ですから、ウィーン国立歌劇場とフィルクスオパーでは大晦日の定番になっています。わくわくする音楽、華やかな舞台、すてきな衣装、どきどきはらはらな男と女の駆け引き、いたるところで笑わせてくれる最高傑作ですね。日本ではなかなか年末の上演がないのが残念です。大晦日だけでなくお正月に入ってからも上演があります。

ウィーンフィルのニューイヤーコンサート

元旦といえばウィーンフィルのニューイヤーコンサートですが、実はこれは同じプログラムで、12月30日のプレビュー、12月31日のジルべスター、そして元旦のニューイヤーの3回があって、テレビで生中継される元旦のは最終回なのです。なお、ホールを飾る花が設置されるのは30日のプレビューの後なので、30日はまだ花はありません。

これを模して、日本でもそれっぽいコンサートがいくつも開かれますし、ウィーン・フォルクスオパー管弦楽団は毎年サントリーホールにやってきますね。日本のお正月でおなじみのウィーンリングアンサンブルは、じつは年末にウィーンの楽友協会ブラームスザールで同じプログラムでコンサートをやりますから、年末年始のウィーンに行く機会がありましたら、これを逃す手はないでしょう。

・・・(工事中)



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