<簡単なのにハイエンド ひさびさの改訂>

FET式差動ヘッドホンアンプ Version 3
Simple FET Differential Headphone Amplifier


「OPアンプで遊ぶのもいいけど、そろそろディスクリートの音聞いてみない?」というところから始まった本シリーズですが、FET差動ヘッドホンアンプを発表してそろそろ8年が経ちます(2014.8現在)。基本特性に変化はありませんでしたが、ポップノイズの防止や低域側の特性改善などにおいて地味な改良をしてきました(Version1Verision2)。いろいろな方にいろいろな場面で使っていただき、多くのコメントをいただきました。それらをふまえてVersion3(本機)では、主に基本特性において地味ながら若干の改善を試みました。十分な結果が得られたと思いますので公開することにします。製作画像は、手元にあるVersion2をベースに中味を入れ替えましたので、外観はVersion2と同じです。

■FET差動ヘッドホンアンプの基本的なことについて

このヘッドホンアンプの前身は、JFETを2個だけ使ったシンプルなFET差動ラインプリアンプです。このプリアンプを製作した方から「音が気に入ったのでヘッドホンを鳴らすことはできないか」という要望があり、「それなら簡単です、後ろにバッファアンプをつけたらいいだけです」と申し上げてサンプル回路を組んでみたらこれが結構いい音で鳴った、というのがことの発端です。今どきの一般的なオーディオアンプの回路の常識からみると一見間の抜けた妙に単純な回路ですが、決して簡略化するために性能を犠牲にしたわけではなく、私なり過不足のないバランスがとれた構成になったと思っています。

このFET差動ヘッドホンアンプの増幅回路は、FET差動回路(ブロック1)とバッファアンプ(ブロック3)とに分けて考えることができます。FET差動回路は入力信号を増幅する役目があり、その後ろに続くバッファアンプは数十Ωという低いインピーダンスのヘッドホンを鳴らす役目があります。この役割分担は、他のパワーアンプやヘッドホンアンプにも共通しています。ヘッドホンアンプの自作記事にはよくOPアンプという集積回路(IC)が使われますが、OPアンプも中を開けてみればやはり差動回路をベースとした増幅回路とバッファアンプとに別れていますから、基本的な構成は同じです。

OPアンプの増幅回路は非常に複雑で、20個以上のトランジスタによって構成されています。増幅率も100,000倍以上あるのが普通です。本機の差動回路では、トランジスタは4個しかありませんし、増幅率はたったの40倍です。しかし、本機の帯域特性はOPアンプと張り合って見劣りしない能力があります。歪み率特性は、基本性能としてみるとOPアンプにはかないません。バッファアンプもトランジスタは4個だけですが、ヘッドホンを駆動する能力はこちらの方がOPアンプよりも圧倒的に優れています。OPアンプは600Ω以下の負荷では特性がどんどん劣化しますが、本機のバッファアンプは多くのヘッドホンで採用されている32Ω〜200Ωくらいの負荷でも特性はほとんど劣化しません。

回路設計の細かい点については、Version2のページに詳しく書いてありますので参照してください。

アンプ作りの常として、帯域特性や歪み率特性はすこしでも良くしたいと思うのが人情です。ですから本機においても、与えられた制約条件の中で最大限の低雑音化、広帯域化、低歪み率化を意識して設計しています。しかし、もっとも大切なことは、どんな音に仕上げられるか、自分自身で音を聞いてOKが出せるかにあります。物理特性は圧倒的に優れているのにいい音がしないオーディオ機器ならいくらでもありますから、物理特性の向上が必ずしも良い音を約束してくれるわけではありません。オーディオグレードと称する部品で固めたからといって音が良くなるわけでもありません。そこにアンプ作りの難しさ、面白さがあります。

もうひとつ重要なことは、Web上に発表し、作り方のガイドまで公開する以上は、誰が作っても失敗しにくく再現性があることです。幸いにしてこのFET差動ヘッドホンアンプは、特殊な部品や高価な部品を使うことなしに設計どおりの音が出ますし、きわめて高い安定性と、少々変な作り方をしても劣化しない雑音性能を持っています。難しい調整箇所もありません。手持ちの部品を流用していただいてかまいません。

オーディオアンプを良くする近道は、音楽に近いところにいるいろいろな人々に使ってもらい、彼らからフィードバックをもらうことです。幸運なことに、演奏家、作曲家、レコーディングエンジニア、PAエンジニア、放送局のスタッフといった人々がさまざまな場面で使ってくださり、そうした現場からも多くの意見をいただくことができました。このような音のプロではなく、本機を使って自宅で音楽を楽しんでいる多くの音楽ファンからも意見をいただきました。Version3は、Version2以前の弱点をいくつか改善できたのではないかと思います。


■各バージョンの違い

Version 2とVersion 3との最も大きな違いは電源電圧が12Vから15Vに引き上げられたことです。Version 2以前の設計では、12Vという制約の中でやりくりしていたという側面がありました。たった3Vですが電源電圧を高くしたことで回路の動作に余裕ができました。しかし、実際に15Vに引き上げて試作機を作ってみると、やはりその制約の中でやりくりをするという結果になりました。

VersionRelease Date回路方式電源供給電圧変更点
1.02006.9.9FET差動+ダイヤモンドバッファ12V---
2.02009.4.11FET差動+ダイヤモンドバッファ12V電源OFF後のポップノイズ対策、安定度改善。ローエンド特性改善。
3.02012.11.1FET差動+ダイヤモンドバッファ15Vパワーアップ、歪み率改善、残留雑音改善。ローエンド特性さらに改善。
3.02013.9.18FET差動+ダイヤモンドバッファ15Vマイナーチェンジ。ダイヤモンドバッファ回路定数変更。パワーアップ。


■Version 3全回路

以下にDC15V版差動ヘッドホン・アンプVersion 3の全回路をご紹介します。本回路は最新のものですので、これから製作しようという方は本ページの回路をお使いください。

ご注意・・・本ページの記事を書いた後でダイヤモンドバッファ部の回路定数を以下のとおり変更しています。記事自体は変更前の回路定数で取ったデータをもとに書いてあります。

・1.5kΩ → 1kΩ。
・82Ω → 33Ω。
・10Ω → 5.6Ω。


■改良その1・・・電源電圧15V化の検討

真空管式・半導体式を問わず、増幅回路は電源電圧が高めの方が設計が楽になり、無理をせずに済むのであらゆる特性が向上します。Version1および2では、最も一般的な12Vという電圧を採用しましたが、当初から設計で苦労した面があります。たとえば、Version2のマイナス電源は-1.5Vくらいしかありませんが、この電圧で定電流回路を養うのはなかなか苦労させられます。特に、本機のように差動回路を不平衡入力で使うと、入力信号にともなって共通ソース電圧が上下変動するため、定電流回路には一定量の遊び電圧が必要になります。マイナス電源の電圧を欲張るとその分だけプラス電源の電圧が下がってしまうというぎりぎりのところで決定しています。Version3では、思い切って12Vという選択を改め、15Vに引き揚げる判断をしました。19Vや24Vにするという選択肢もありましたが、アルミ電解コンデンサの耐圧を相当に上げなければならなくなり、アンプ全体が大型化してしまうのでなんとか15Vという条件下でやりくりするようにしました。そういう意味では、15Vという電圧もやはり制約になっています。

Version2では、電源のアルミ電解コンデンサに耐圧が16Vのものを使っていますから、電源供給電圧を15Vに上げても耐圧オーバーにはなりませんので改造が容易になります。15VのスイッチングタイプのACアダプタは、秋葉原の秋月電子などで廉価に容易に入手できます。

最初に行ったのは、Version2の回路を一切変更せずに電源供給電圧を15Vに上げたらどうなるか、そして回路定数を15V用にアレンジしたらどうなるか、という実験です(下図)。

左上のデータは手元にある12V版(Version2)の歪み率特性です。中央上は12V版の回路を全く変更しないで単純に15Vの電源をつないだ時の結果です。最大出力電圧はほんのわずかしか増えていませんが、同じ出力電圧における歪み率はそれなりに低くなっています。最大出力があまり増えない理由は2つあって、回路内部の電圧バランスが最適化されないでいることと、マイナス電源の低さが制約になっていて差動回路の動作を邪魔しているためです。右上のデータは、初段差動回路のドレイン負荷抵抗を2.2kΩから2.4kΩに変更して動作条件を最適な状態に近づけた時のもので、こうすることで最大出力がアップしています。別の見方をすると、同じ出力の時の歪み率がおおよそ3/4に減少しています。


■改良その2・・・マイナス電源電圧の制約の解消

差動回路を本機のように不平衡で使った場合、つまり、差動回路の片側だけに信号を入力し、反対側には負帰還信号を入力するような使い方をした場合、差動回路は少々無理が動きをします。

右のグラフは、電源供給電圧を15Vにして、負帰還定数を変えて利得を変化させた時の歪み率を取ったものです。マイナス電源はダイオード2個の-1.5Vです。利得が最も高いのが43Ωの時で、51Ω、62Ω、75Ωの順に負帰還量が増えて総合利得は減ってゆきます。赤い線は後で説明しますので、今は4本の黒と青の線にだけ注目してください。

出力電圧が1Vのあたりに着目すると、いちばん上が黒で下が水色ですから、総合利得が減る(負帰還量が増える)につれて負帰還のセオリーどおり歪み率が減ってゆく様子がよくわかります。ところが、最大出力電圧をみると様子が逆転し、総合利得が減る(負帰還量が増える)につれて最大出力電圧が下がってしまい、75Ωの時が最低になるという不思議な現象が現れます。

今度は赤い線です。これはマイナス電源のダイオードを3個に増やして-2.3Vとした場合のデータです。ダイオードを1個増やしたためにプラス側の電源電圧は0.8Vほど低下してしまいましたが、最大出力電圧はぐんとアップしています。同じ75Ωで水色の線と比べてみてください。

何故、こんなことが起きるのかというと、秘密は差動回路の動きにあります。

負帰還がかかった差動回路の左側の2SK170のゲートに信号が入力された時、右側の2SK170のゲートには負帰還された信号が入力され、その振幅はほぼ同じです(厳密には右側の方が少しだけ小さい)。2つのゲートに入力される信号の位相は同じです。左側の2SK170のゲートがプラスに振られた時、右側の2SK170のゲートも同じだけプラスに振られます。この時、共通ソースも同じだけプラスに振られています。つまり、差動回路の2つのゲートと共通ソースはすべて入力信号に追従するようにほぼ同じ振幅で上下に振られているわけです。

(平衡入力の時はこのようなことは起きず、2つのゲートには位相が逆の信号が入力されますし、共通ソースはプラスにもマイナスにも振られることがなく、ほとんど一定の電位を保ちます。)
負帰還抵抗が75Ωの時の本機の利得は実測で2.54倍でした。ヘッドホン出力側に2Vの出力が出ている時の入力信号は0.79Vです。ピーク値に換算すると1.11Vになります。無信号時の共通ソース電圧は約0.2Vですから、2Vの出力を出している時の共通ソースは0.2Vを基準にして±1.1Vくらいの振幅で上下します。プラス側では1.3Vとなり、マイナス側では-0.9Vになるわけです。しかし、マイナス電源は-1.5Vしかありませんし、定電流回路が正常に動作するためには最低でも0.6Vが必要なので、マイナス側が-0.9Vというのがぎりぎりの限界ということになります。このことを踏まえて右のグラフを見ていただくと、何故、利得が低い時の方が最大出力電圧が下がってしまうのかおわかりいただけると思います。

マイナス電源のダイオードを3個に増やしてマイナス電源電圧を-2.3Vにしてやれば、共通ソースが少々上下に暴れたとしても定電流回路が飽和して足を引っ張ることがなくなるので、結果的に最大出力電圧が大きくなるわけです。その結果が赤い線です。赤い線は、マイナス電源のダイオードを2個から3個に増やしてマイナス電源電圧を-1.5Vから-2.3Vに変えた時のデータです。マイナス電源電圧が0.8Vほど高くなった分、プラス電源の電圧は0.8V下がってしまったにもかかわらず、最大出力電圧はアップしています。


■アンプ部の最適化設計

これらの実験結果をふまえて、以下の改良方針を立てました。 12Vから15Vにアップしたとはいえ、相変わらずぎりぎりのところでの最適化の設計になります。インピーダンスが32Ω以下のヘッドホンであれば12Vで問題ありませんが、150Ω以上の高インピーダンスのヘッドホンとなると15Vでもきついので、0.1Vも無駄にしないように追い込んでゆく作業がはじまりました。

差動回路の2SK170に無駄のない動作をさせるためには、ドレイン電流とドレイン〜ソース間電圧とドレイン負荷抵抗値のバランスを取る必要があります。プラス側の電源電圧は9.3Vから11V+αくらいまでアップできそうです。約20%のアップですがこれをどう使うかがポイントになります。考え方は2つあって、ドレイン負荷抵抗の2.2kΩはそのままにしてドレイン電流を増やす方法と、ドレイン電流は変更せずにドレイン負荷抵抗値を2.7kΩくらいに増やす方法です。試行錯誤を繰り返した結果、負荷抵抗値を大きくする方向が利得も増えるし歪みも減って良さそうだということになったのですが、実際にやってみると2.4kΩでは小さすぎ、2.7kΩではちょっと大きすぎるという微妙な結果になりました。そこで、ドレイン負荷抵抗は2.4kΩにとどめておき、定電流回路の160Ωを150Ωに変更してドレイン電流を少し増やすということで最終決定しました。


■電源回路の再設計

電源回路は、すでに述べたように供給電圧を12Vから15Vに引き上げることと、マイナス電源用のダイオードを2個から3個にするのが基本です。しかし、プラス側の電源電圧をもう少し上げられないものかと思案した結果、Version1/2の電源の入り口のところにある4.7Ωの抵抗を1mH(直流抵抗2.7Ω)のインダクタに変更することで、スイッチングノイズの除去効果を高められる上に、電源ロスを0.14Vほど減らせることがわかったのでインダクタを採用することにしました。また、左右チャネルへの振り分けを行っている33Ωの抵抗値も27Ωに減らすことにしました。ここでも0.22Vほど稼ぐことができます。ここで使うインダクタには電源ON時にかなりの過渡電流が流れます。小型で電流容量が0.15Aほどのものを使ったところ、焦げ臭いにおいを発して焼け切れてしまいました。ここでは電流容量が0.3A以上のものを使う必要があります。

なお、このインダクタを載せるスペースが平ラグ側にないため、連動スイッチ付きのDCジャックの空き端子を流用して実装することにします。DCジャックの連動スイッチは内部でマイナス側につながっているため、インダクタもマイナス側に挿入するという変則的なことになっています。この連動スイッチは、DCプラグを差し込んでいない時にON(導通)となっていて、差し込むとOFF(断)になる仕様ですので、空き端子を流用しても問題ありません。実装スペースに余裕がある場合は、このインダクタはプラス側に入れても効果は同じです。

左右各チャネルの電源〜アース間にはオリジナルでは2200μF、増量版では3300μFのアルミ電解コンデンサを入れていましたが、まだスペースに余裕があるので思い切って4700μFに増やすことにしました。これはバランス型FET差動ヘッドホンアンプで使用しているのと同じものです。頒布しているのは通常タイプでこの大きさがぎりぎりです。低ESRタイプやオーディオグレードのものはもっと大きいので平ラグにはいりませんのでご注意ください。

電源電圧が高くなったことで、このままですとLEDがちょっと明るくなりすぎるので、LEDの点灯回路の2個の抵抗値にも若干の修正があります。また、電源の入り口のところのコンデンサは耐圧が16Vのものだと余裕が1V以下になってしまうので、25V耐圧のものに変更することにしました。この耐圧アップは余裕を取っただけのことでして、アルミ電解コンデンサは耐圧16Vのものに15Vをかけ続けても何ら問題はありませんので、Veersion2かを改造される場合はこのコンデンサを25Vのものに交換する必要はありません。


■Version2をVersion3に改造する

すでにVersion2を製作されていて、これを改造する場合は以下のようにしてください。

  1. 差動回路の4個のドレイン負荷抵抗を2.2kΩから2.4kΩに変更する。
    すでに取り付けた抵抗器をはずす場合は、先にニッパでリード線を切って2つに分けてしまった方が引き抜きやすい。
  2. 定電流回路の2個の160Ωを150Ωに変更する。または、160Ωを残したまま並列に2.2〜2.4kΩを抱かせる。
  3. 定電流回路の2個10kΩを12kΩに変更する。しかし、ほとんどというか全くというか影響ないので変更しなくてもよい。
  4. 電源回路の2個の33Ωを27Ωに変更する。または、33Ωを残したまま並列に150Ωを抱かせる。
  5. 電源回路の2個の2200μFを4700μFに交換する。または、1000〜2200μFを追加で並列に抱かせる。
  6. マイナス電源用の2個のダイオードのうち1個の足をはずして、空中配線でもう1個割り込ませる。
  7. 電源回路の4.7Ωを1mHのインダクタに変更する。
  8. ACアダプタを12Vから15Vに変更する。

■部品と製作

<製作>

製作手順は以下のようにしたらいいでしょう。

  1. 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
    1. このページ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm)をしっかり読む。
    2. 平ラグのパターンシート(http://www.op316.com/tubes/tips/data/20p-large.pdf)をダウンロードする。
    3. 本サイトの回路図と平ラグパターンを見ながら自分で描いてみて、頭に入れる。
    4. 平ラグの端子穴ごとに作業手順が違うので、どんな手順でハンダづけしてゆくか考える。
  2. 平ラグを使ってアンプ部+電源部ユニットを作成する。
    1. まず、穴と穴をジャンパー線でつないでおく。ジャンパー線は0.3〜0.5mmの銅単線か抵抗器のリード線の切り落としなどを使う。
    2. 部品を取り付けてハンダづけする。1つの穴に複数の線が集ま場合は、ハンダづけは1回で済むように手順を工夫する。
    3. 20P平ラグのセンターの穴を固定するスペーサは、配線する前取り付けておいた方が作業がやりやすい。穴と周囲のラグとが接近しているので、接触事故にならないように工夫する。
    4. トランジスタの向き(裏・表)を間違えないように・・・。
    5. 部品を取り付け際、アルミ電解コンデンサなどがケースに収まるかどうかをチェックしておく。
    6. 周囲とつなぐ線を長めに引き出しておく。
  3. 穴あけ加工する。
    1. 各部品および作成したユニットをケースの実物に当てて穴あけ位置を決定する。ゴム足はケース付属の貼り付け式と、当サイトで頒布しているようなネジ留め式があり、ネジ留めで取り付ける場合は穴も忘れずに。
    2. パネルは傷がつきやすいのでテープを貼るなどして養生すること。(パネル面に傷がついたら泣きます)
    3. ユニット取り付けにT-600(貼り付け式)を使う場合はラグ板の取り付け穴は不要。
  4. ボリューム関係の加工。
    1. ボリュームシャフトを適当な長さに切断する。
    2. ツマミ穴の内側にバリが出てシャフトがスムーズに入らない場合は、細い丸やすりで内側を削る。
    3. ボリュームの端子側に長めに切った配線材をつないでおくと後が楽。
  5. 部品の取り付け。
    1. ボリューム、スイッチ、ヘッドホンジャック、入力RCAピンジャック、DCコネクタをパネルに取り付ける。
    2. ボリュームのシャフトがパネルと電気的に接触して導通していることを確認する。(導通がないとノイズが出る。菊座金を使うと接触が確保しやすい。)
    3. アンプユニットをシャーシに取り付ける。
  6. 配線を仕上げる。
    1. 取り付けた部品間の配線を仕上げる。
    2. すべてのアース間で導通があり、シャーシとも導通していることを確認する。
全体のレイアウトおよびアースの引き方は以下の画像を参考にしてください。基本的にはVersion2を踏襲していますが、細かいところで異なっています。2SA1358は印字面をこちら側にした表向きですが、2SC3421は裏向きなのでつるつるの面になります。

重要・・・平ラグの製作についてはこちらに具体的なガイドがありますので必ず見てください。→ http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm

<アースに関する重要なポイント>

下図はアース配線の構造です。厳密にいうとこれがベストというわけではないのですが、ステレオオーディオ回路の常としてあちらを立てればこちらが立たずな中でこういうことになりました。ヘッドホンジャックへの接続は私は集中アースポイントにつなぎましたが、点線のように短く最寄の平ラグに接続するのがベストだと思います。

タカチのHENシリーズは、上下ケースと前後パネルの4つで構成されています。上下の2つのケースは表面がアルマイト加工された凹凸を合わせるだけなので導通しません。 前後2枚のパネルは、2個ずつのビスで上下の2つのケースと接触します。上下の2つのケースにはネジ穴が切ってあるので、ビスとケースは導通します。問題は、ビスと前後パネルの導通です。前後パネルのサラネジのすり鉢状の穴はアルマイト加工されているので、ビスをゆるく締めただけでは導通しません。ビスが前後パネルの穴をこするようにしてきつく締めるとようやくアルマイトが削れて導通してくれます。8個すべてのビスをきつくこすりつけて導通させないと、上下ケースと前後パネルの4つすべてが互いに導通してくれません。

ケースを組み立てたら、アンプのアースラインと上下ケースと前後パネルの4つが互いに導通しているかテスターで確認してください。アルマイト加工された表面にテスターを当てても導通しませんので、ボリュームシャフトやボリュームを取り付けているナット、電源スイッチの金属部分、前後や底面のネジの頭などで確認したらいいでしょう。

金属ケースではない場合は、ボリュームのシャフトや筐体がアースから浮いてしまうので、そのまま実装するとノイズに悩まされることになります。アンプ部のアース・ラインとボリュームのシャフトや筐体が電気的に導通するような工夫がいりますが、なかなか有効な方法がありません。アースラインからの線をボリューム・シャフトの首に巻き付けてナットで締め付けるか、ボリュームの筐体に強引にハンダづけするくらいしか思いつきません。

<実装ガイド>

下の画像は背面パネルの配線と電源部の様子です。1/4インチサイズのヘッドホンジャックは連動スイッチが内臓されていないタイプで、しかも取り付けネジ部分が樹脂製の絶縁タイプを使いました。取り付けネジ部が金属製のものは、回路のアースがここを伝ってパネル→シャーシへと導通されますので、ここがシャーシ・アース・ポイントを兼ねることになります。絶縁タイプを使う場合は、ここ以外のどこかでアースラインをシャーシにつながなければなりません(本機ではボリュームに近いスペーサに金属製を使ってそこをシャーシ・アース・ポイントとしています)。ヘッドホンジャックは通常根元に近いところにある端子が左右共通のアースです(画像では黒い線がつながっている)。紫色の線をつないだ方が右チャネルで茶色の線をつないだ方が左チャネルです。

奥に見えるのがDC12Vの2.1mmタイプのDCジャックで端子が3つ出ていますが、そのうち1つは差し込んだ時にOFFになるスイッチなので間違えてそこにつながないようにしてください。ここでは空き端子を流用して電源ノイズフィルタ用のインダクタ(黒い筒状の部品)を取り付けています。接続のしかたは右下の画像のとおりです。製作ではこれを同じにする必要はなく、どこかにラグ板を立ててそこにインダクタを取り付けてもかまいません。ノイズをアンプ内に入れたくないのでインダクタの位置はDCジャッに近いことが望ましいです。

2つあるRCAジャックは白い樹脂でアース側とパネルとが絶縁されるタイプです。アース端子側は互いに黒い線でつなぎ、一方からボリュームにつないでいます。紫色が右チャネルで茶色が左チャネルです。

Version1ではLED内臓のロッカースイッチなるものを使いました。このスイッチはなかなか格好が良いので部品頒布もしていますが、ひとつ重大な欠点があります。それは、穴あけが面倒でしんどいということです。14mm×19mmの四角い穴を正確に開けなければなりません。そんなの慣れているよ、という方は別としてケース加工に慣れていない方は小さな丸穴で済むトグルスイッチをおすすめします。Version2およびVersion3では初心者でも加工が容易なごく一般的なトグルスイッチを使いました。電源スイッチのタイプはお好みで選んでください。本機では後面パネルに取り付けていますが、もちろん前面パネルでかまいません。もっとも、本機のようなACアダプタを使ったアンプでは、スイッチ付きのテーブルタップなどを使ってACアダプタごと電源をON/OFFするのがお約束ですから、前面パネルに電源スイッチをつける意味はあまりないですね。

なお、このトグルスイッチにはLEDは内臓されていませんので、別途LEDブラケットがないとヒカリモノがなくなります。LED周辺の画像が漏れてしまいましたが、ブラケット仕様でない裸の標準タイプのLEDは直径が3mmなので、3mmドリルでパネルに丁寧に穴を開け、LEDを差し込んで裏からエポキシ系ボンドで固めてしまいます。LEDのリード線は長短の区別があり、長い方がプラスで短い方がマイナスです。その際にLEDのリード線がパネルに接触しないように配慮してください。

画像をクリックすると大きくなります。

下の画像はボリュームまわりの配線方法です。ボリュームまわりの配線はわかりにくいので初心者を悩ませますし間違いも多いです。ボリュームの6つある端子のうちアース側の2箇所を単線でつないでから配線作業をはじめました。ボリューム本体に隠れてよく見えませんが、入力RCAジャックからの左右の信号ケーブルが裏を回りこんでボリュームの端子につながっています。センターの端子はアンプ入力につなぎます。いずれもシールド線は使っていません。

ボリュームの手前に集中アースの卵ラグが見えますが、このラグを留めたスペーサだけは金属性を使っているのでこのスペーサを経てシャーシと導通があります。この集中アースからは黒い線が3本出ていますが、1本はボリュームへ、1本はアンプ部(平ラグ)へ、そしてもう1本はヘッドホンジャックにつながっています。


アンプ内部の全体の様子です。Version2のシャーシを流用し、平ラグのみ新規に入れ替えています。そんなに太い線材は使っていません。基本は0.18sq(AWG24〜25相当)です。LEDは細めの0.08sq(AWG28相当)を使いました。熱くなる部品もないので放熱の配慮は不要です。ただ、電解コンデンサは高さがあるので、1cm以上の高さのスペーサを使うとケースの天井に当たってしまいます。常に高さを確認しながら部品調達・実装してください。このケースは表面をアルマイト処理がしてあるので単にパネルと本体を接触させただけでは導通せず、アースから浮いてしまってシールド効果をしなくなります。パネルを固定している4個の皿ビスをちょっときつめに締めてやると、アルマイト面が削れてうまく導通するようになります。ケースに触れた時に不安定なノイズが出た場合はケース〜パネル間の導通不良です。

15P平ラグ、20P平ラグともにに取り付け穴が3つありますが、15Pのセンターの穴は使わなくても強度が出せるので遊ばせてあります。20Pはセンター穴にもスペーサを使っていますが、周囲のラグ端子が接近しているため、金属製のスペーサやナットを使うと接触ショートの危険があります。できればここだけは樹脂製のスペーサとナットを使ってください。部品の頒布では、プラスチックナット+金属製スプリングワッシャです。

画像をクリックすると大きくなります。


<部品について>

抵抗器はすべて1/4Wタイプで足ります。精度は5%級のカーボン抵抗器で十分ですが頒布では1%級の金属皮膜抵抗器です。なお、残留雑音は金属皮膜抵抗器の方が若干少なくなります。

負帰還抵抗の受け側にある半固定ボリューム(100Ω)を調整することで負帰還量が変わり、それに応じて利得が変わります。調整機材がない方は、これを68Ωくらいの固定抵抗に置き換えるか、テスターで測定して左右の値を揃えます。利得が足りなければ47Ωくらいに減らし、多ければ82Ω以上にしてやります。インナーイヤータイプのイヤーモニターは非常に感度が高くノイズが目立ちますので、半固定ボリュームを最大(100Ω)にした上で150Ωの負帰還抵抗を82Ωくらいまで小さくしてください。

半固定ボリュームは比較的入手しやすいBOURNSの25回転タイプの足を右画像(クリックすると大きくなる)のように加工してから取り付けました。センターの足を一方の足にからませてハンダづけしています。利得(=負帰還)調整の時の回転方向が入れ替わるだけのことなので、どちら側にからませてもかまいません。取り付け向きもどちらでもかまいません。

初段で使う2SK170はBLランクを指定します※。無調整で差動バランスを取らなければなりませんので、バイアス特性が揃ったペアが必要です。暫定的にはIDSSが揃ったものであればなんとか実用になります。当サイトでは精密にペア取りしたものを頒布しています。自力で精密な選別をするには専用の器具が必要です。作り方はこちら(http://www.op316.com/tubes/toy-box/tester2.htm

※2SK170はIDSSが4mA以上であればよいので、GRランクでもほとんどのものが使えます。

初段定電流回路で使う2SC1815はhFEが低めのYランクを指定します。hFEが高すぎると自己発振することがあるためです。ダイヤモンドバッファで使う2SA10152SC1815はhFEが高い方が有利なのでGRランクが望ましいです。出力段の2SA13582SC3421もhFEが高い方が有利なのでYランクを指定します。Oランクでもちゃんと動作しますが、特性がわずかに劣化します。代替としてはTTA008BTTC015Bが使えます。トランジスタのコンプリ・ペア(2SA1015と2SC1815、2SA1358と2SC3421)のhFEは同じにはなりません。hFE値が異なっていても特性には悪影響はありません。

下図は、本機で使用したJFETおよびトランジスタの接続です。いずれも、印字面を手前にした状態あるいは下から見た図です。上からではありませんので間違えないでください。2SK170は、回路図でいうと、上からドレイン(D)、ゲート(G)、ソース(S)の順ですが、実物は左からドレイン(D)、ゲート(G)、ソース(S)の順です。おなじみ2SK30とは左右が逆ですので注意してください。トランジスタは回路図で矢印がついているのがエミッタ(E)、横に出ているのがベース(B)、斜めに出ているのがコレクタ(C)ですが、実物は左からエミッタ(E)、コレクタ(C)、ベース(B)です。

JFETやトランジスタの足の配置図は、下から見た(bottom view)順序で表記されています。はじめてトランジスタで自作する方はよく上から見た図と思って配線してしまいますのでご注意ください。2SK170は、印字面に向かって「D-G-S」、2SA1015/2SC1815/2SA1358/2SC3421すべて印字面に向かって「E-C-B」の順です。

2SK170 2SA733 / 2SC945
2SA1015 / 2SC1815
2SA1358 / 2SC3421

マイナス電源用の3個のダイオードは順電圧を使って一定の電圧を得ていますので1Aタイプのシリコン・ダイオードが適します。10DDA10あるいは10E1を使いましたが、1N4002〜1N4007はすべて使えます。SBD(ショットキバリアダイオード)は順電圧が非常に低いので使えません。

ヘッドホン・プラグ/ジャックの結線は右上図のとおりです。先端をTipと呼んで「左チャネル」、真ん中をRingと呼び「右チャネル」、根元がSleeveで「アース(共通)」です。Top-Ring-Sleeve構造のプラグ/ジャックのことを略して「TRS」とも呼びます(画像出典:Behringer社)。ジャック側の端子の配線は部品によってまちまちなので、実物を見て、テスターで導通をみて判断してください。お持ちのヘッドホンをジャックに差し込み、Ωレンジにしたテスターで端子を触るとジリジリとノイズが聞こえますから、それで左右を判断したらいいでしょう。

電源スイッチはVersion1ではLED内臓のロッカースイッチを使いましたが、Version2および3では穴あけ加工が容易なトグルスイッチとLEDの組み合わせです。このあたりの部品選定は全く趣味の世界ですので、製作にあたっては好みで決めてください。使用したLEDは通常品とは異なった形状で先が丸くない筒状のものです。通常品はチカッと光りますがこれはつや消しなので全体がいい感じで光ります。スタンレー製で3889Sシリーズといいます。秋葉原の店頭でもまずみかけることはありませんが手持ちがありますので希望される方にはお分けします。部品頒布ページからどうぞ。

ケースは、タカチHEN110420Spdfカタログ)を使用しました。サイズ(外形)は、幅11.15cm、高さ4.36cm、奥行き20cmです。20Pのラグ板に加えてボリュームやヘッドホンジャックを入れようとするとぎりぎりのサイズです。図面だけで設計すると失敗するので、必ず部品の現物を当ててからレイアウトを決めてください。秋葉原では、奥澤エスエス無線で購入できます(いずれも地方発送あり)。タカチからのメーカー直送なので早いです。

DC15Vスイッチング電源は秋月電子のDC15V/0.8Aタイプまたは1.2Aタイプ(750円くらい)です。きわめて廉価ですがスイッチングノイズが非常に低く、特性的にも申し分のないものです。これに適合するDCジャックは外径5.5mm/内径2.1mmの標準タイプです。

ボリュームは、左右精度が非常に良く、雑音性能・耐久性に優れたアルプス製のボリュームRK27シリーズを使いました。三栄電波が品揃えが良く、品揃えは限定されますがとにかく廉価なのは門田無線小林電機商会です。左右のギャングエラーのリスクがありますが、150円〜300円くらいで売られている廉価なものでもOKです。左右のギャングエラーを自力で修正するにはこちらのページ(http://www.op316.com/tubes/tips/tips21.htm)を参考にしてください。

配線は、ユニバーサル基板に組んでも、平ラグで頑張ってもいいでしょう。間違えても修正しやすく、老眼にも優しいのは平ラグの方です。発熱部品もないのでケースに放熱孔はいりません。

部品入手のお助けページはこちら(http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm)です。

・ACアダプタは秋月電子通商で廉価に入手できます。
・ケースは、秋葉原ラジオデパートB1奥澤、2Fエスエス無線などで扱っており両店ともに地方発送OKです。注文するとメーカー(タカチ)から直送されスピーディーです。


■基本動作テスト

配線ミスや半田し忘れはわたしもよくやります。よくやることだから「かならずどこかでやってる」くらいに思っていた方がいいです。つまり、どんなに簡単なアンプでも一発で音が出るのはよっぽど運がいいということです。それをみつける最短コースがこれから説明する各部の電圧が正常かどうか、という検査です。

基本は対アース電圧ですが、一部、アース以外の2点間の電圧もあります。差動ヘッドホンでは以下の8箇所を測定すれば正常かどうか、設計どおりかどうかを掴むことができます。

  1. 左右各電源の27Ωの両端電圧=1.20V〜1.35V・・・・異常に高い場合はアンプ部に重大なミスがあってとんでもない電流が流れている。5V以上の場合は抵抗器が焼けるのですぐに電源をOFFにすること。
  2. プラス側の電源電圧(対アース)=11.0V〜12.0V・・・・電源回路にミスがある。異常に低い場合はアンプ部に重大なミスがあってとんでもない電流が流れている。
  3. マイナス側の電源電圧(対アース)=-2.2V〜-2.4V・・・・アンプ部が正常に動作していないと、この範囲からはずれた電圧になる。-2.5以上だったら過大電流、-2.1V以下だったら過少電流。
  4. 初段2SK170の共通ソース電圧(対アース)=0.15V〜0.32V・・・・定電流回路、初段周りあるいはダイヤモンド・バッファの配線ミスなどで動作が正常でない。
  5. 2つのドレイン電圧(対アース)=5.8V〜6.6V・・・・同上。初段周りあるいは定電流回路の配線ミスなどで動作が正常でない。気温が低いと低め、気温が高いと高めになる。
  6. 初段2SK170の2つのドレイン間電圧(ドレイン〜ドレイン)=±0.6V・・・・2SK170のペアが揃っていないか配線ミス。頒布している選別ペアなら±0.6V以内になる。
  7. 出力段センター電圧(対アース〜5.6Ωと5.6Ωの中間)=5.7V〜6.5V・・・・ダイヤモンド・バッファが正常に動作していない。
  8. 出力段無信号時電流(5.6Ω+5.6Ωの両端電圧を測って20で割る)0.34〜0.39V÷11.2Ω=30〜35mA・・・・出力段のアイドリング電流がわかる。
  9. アンプ部の全消費電流(電源27Ω抵抗の両端電圧を測って27で割る)1.20〜1.35V÷27Ω=44〜50mA・・・・アンプ部のチャネルあたりの全消費電流がわかる。
冒頭の回路図を見ていただくと、このキモとなる箇所の電圧はすべて記載されています。そして、異常な電圧が現われた場合、そのほとんどは部品の異常ではなく配線の不良(し忘れ、半田がちゃんとのってない)です。そしてもう一つの可能性は購入した(とりつけた)抵抗器の値の間違いです。本機のような低圧回路の場合、耐圧破壊の可能性は非常に低く、また、電源回路に27Ωがあるため少々の回路ショート事故が起きてもトランジスタが破壊することは希です。部品を疑う前に、ご自分の作業を疑いましょう。

■利得の調整

負帰還量(利得)調整用の半固定抵抗器は、約50Ωを中心に増減させることで負帰還量を変化させ、仕上がりの利得を調整することができます。

調整範囲・・・39Ω〜100Ω。
・約70Ωの時・・・ほぼ設計どおりの利得(2.7倍)になる。iPodやPCのオーディオ出力端子など、信号レベルが低いソース機材でも十分な音量が得られる。半固定抵抗器を頒布のおまけで入れてある82Ωくらいの抵抗器に置き換えておけばほぼ汎用的に使える。
・39〜56Ω・・・負帰還量は減少し、利得は増加する。感度が低い高インピーダンスタイプのヘッドホンの場合。
・82〜100Ω・・・負帰還量は増加し、利得は減少する。据え置き型のCDプレーヤや標準的なPCオーディオインターフェース(本サイトのUSB DACも含む)の場合はこれくらいで適正な音量になる。
・非常に高感度なイヤホンの場合は、半固定抵抗器を最大(100Ω)にしてもまだ音が大きいので、150Ω側を68〜100Ωに変更する。

測定装置を使った精密な利得の測定をしなくても、テスターを使って半固定抵抗器の抵抗値を揃えておくだけでも十分な精度を出すことができます。Ωレンジにセットしたテスターを半固定抵抗器の両端に当てて、左右の抵抗値が揃って70Ωとなるように調整すれば完了です。この時、ヘッドホン・ジャックには何もつながないようにしてください。ヘッドホンをつないだ状態だと測定値に誤差が出てしまいます。

ボリュームをかなり絞っても音が大きい、9〜10時くらいで大音量になってしまう、100Ωの半固定抵抗器を端から端まで(25回転あります)回しても感度が変化しない場合は、負帰還回路に配線ミスや接触不良があって負帰還がかかっていない可能性があります。


■測定

測定結果は以下のとおりです。この結果は少々の配線がへたくそでも誰が作っても再現性があり、このスペックが出ます。それがこのアンプのいいところでもあります。

まず残留雑音ですが、負帰還抵抗=68Ωの時では7μV以下という記録的な低雑音になって、Version2の11μVをさらに下回りました※。これくらいになると、いかなるヘッドホンを持ってきても本機で発生するノイズは聞こえません。もし、何らかの雑音が聞こえたとしたら、それはソース側の機材で発生したものだと思っていいでしょう。秋月の750円のスイッチング電源のノイズや他の部品が発生するノイズの影響の懸念はないということでもあります。Version2でも十分に静かなアンプでしたが、Version3になってさらに静粛なアンプになりました。

※4.7kΩの入力抵抗から生じるジョンソンノイズは約2.48μV(帯域80kHz)ですので、それを2.7倍すると6.7μVですから本機の残留ノイズはほぼ理論値であり、物理的にこれ以下にはならない限界値にあたります。指定のACアダプタ(秋月電子製)を使う限り、スイッチング電源由来のノイズはほとんどないとみていいでしょう。
周波数特性はVesion2とほとんど同じだったので、下のデータは(不精をして)Version2のものを流用しています。

歪み率特性における測定条件は、電源供給電圧=15.2V、負荷=33Ω〜240Ω、LPF=80kHzです。左側がVersion3初期のもので、中央と右側が回路定数を変更した改訂版(本機)のものです。中央は出力電圧で表示していますが、右側は負荷インピーダンスに応じて何mW出るかに換算した表示です。同じ出力電圧でも負荷インピーダンスが2倍になればパワーは1/2になります・・・・オームの法則ですからあたりまえ。高インピーダンスのヘッドホンで大きな音量が得られないのはこれが理由です。ヘッドホンを買うときはインピーダンス値に注意しましょうね。


Version3初期版(左)、Version3改訂後・・・出力電圧V表示(中)、Version3改訂後・・・電力mW表示(右)


■レビュー

自分が設計・製作したものを改良しながら8年間使い続けてきたわけですが、飽きることなくずうっと使い続けてきたということがひとつの証明のように思います。音のキャラクタは初期の設計から変わってはいませんが、すこしずつ雑味が取れてきた、ローエンドがきれいに出るようになった、大音量時でもヘタりにくくなった、といった変化があります。雑音性能は最初からかなり良かったですが、これも改良されてきており初期バージョンの1/2になっています。

本機は明確なトーンキャラクタを持っていますので、この音を好む方と好まない方の両方がいらっしゃいます。一般化するのは適切ではないかもしれませんが、しいて言えば、ピュアオーディオにのめり込んだ方は本機とは別の方向の音を好まれるようですし、音楽関係や放送、レコーディング、PA関係の方は本機の音を好む傾向があるようです。そのためかなり多くの業務の現場で本機が使われています。

いつだったか、あるオーディオメーカーの社長さんが本機の音を聞かれてかなりショックを受けたらしく、しばらく無言で聞いていてやがてポツリと「これが製品化されたらヤバイ」とおっしゃったそうです。しかし、コンシューマ用に製品化する話はありませんのでご安心ください。

右の画像は、某放送局の中継現場で活躍中のVersion3です。皆さんが行かれるさまざまなミュージシャンのライブの全国ツァーでも、数十台のVersion3が活躍しています。


■いろいろなヒント for Version3

(1)最大出力を大きくしたい:

対応済み。これ以上となると全体の再設計になります。

(2)2SK170の選別は自力でした方がいいのか:

「本来は自力で選別すべきで、頒布を受けるのはよくないことだ」と思っていらっしゃる方が多いようなので、そのようなことはありません。結論から申し上げると、しない方がいいと思います。その理由は以下のとおりです。
JFETのばらつきは正規分布せず、やや偏りを持ちつつまんべんなくばらつきます。100個買ってきて30分類すると、極端なはなし3.3個ずつに分かれてしまいます。実際、50個買ってきて4個のセットができなかった、という方もいらっしゃいますが取れなくて当然なわけです。運よく100個から5グループの4個セットが得られたとして、残った80個はばらばらに散らばってしまうので結局使えないことになります。そういうのを引き取ったことがありますが、リード線がフォーミングされたものだったりで手持ちのものと混ぜるわけにもゆかず、一部を他の用途に使ったのみで残りの大半はバラバラのまままだ持っています。というわけで、1回の製作ための選別はあまりおすすめしていません。
但し、将来、何台もお作りになったり、別の用途での利用のあてがある方、そもそも選別冶具を作ることが学習の目的である方、音楽など聞きながら選別作業を楽しみたい方はこの限りではありません。

(3)2SK170以外のFETは使えるか:

使えます。完全に代替可能なのは2SK370です。但し、もう売ってないでしょう。2SK117は2SK170の時よりも若干利得が減る程度なので実用範囲です。BLランクを使ってください。Dual FETの2SK389も使えます。2SK30は利得がほとんど得られないため使えません。2SK246も使えません。

(4)何故2SK170をかくも精密に選別するのか:

本機の差動回路はDC帰還がかかっておらず増幅素子(2SK170)のばらつきを自己修正する機能を持っていません。精密なペアを使うことで最適化された動作条件になるように割り切った考えで設計されています。選別しなかった場合、運がよければそのまま問題なく動作しますが、ばらつきがあると最大出力が目減りする、全体に歪率特性がレベルダウンする、といったことが起きます。なお、差動回路の共通ソース側に100Ω程度の半固定抵抗を入れてバイアス特性を修正する方法も考えられますが、欠点としては15Pの平ラグにおさまりきれない、オープンループゲインが3/5くらいに下がってしまう、などが挙げられます。しかし、方法としては悪くないと思います。その場合、50Ωではすべてのばらつきを吸収しきれませんので100Ωのものが適します。

(5)定電流回路トランジスタは選別する必要はあるのか:

2SC1815のYランクの指定がありますが、この回路は個々のトランジスタ特性の精密さは要求されません。しかし、定電流特性を決定づけている左側のトランジスタのVBEはhFE値の影響を受けますので、気持ちの問題として頒布しているものについては半端な値のものは排除し、hFEも一定の範囲内に揃えています。ここで使う2SC1815のhFE値はあまり高くない方が安全ですのでhFE値が高いグループであるGRランクはできるだけ避けてください。

(6)ダイヤモンドバッファ回路トランジスタはペアである必要はあるのか:

トランジスタのhFE(電流増幅率)はばらつきが甚だしいので一定の範囲ごとにランク分けをして出荷されていますが、同一ランクであっても値の幅が広く(2倍くらいの幅でばらつく)、たまに極端にかけ離れた個体が混ざっているといういやらしい現実があります。本回路では、全く選別しなくてもちゃんと音は出ますし、それなりのスペックのアンプに仕上がります。しかし、hFE値が低いと出力インピーダンスは高くなり、最大出力付近の直線性も悪くなります。いろいろな意味で左右の特性の同一性が失われます。耳で聞いてわかるかというと、実はわからなかったりしますが。しかし、部品を頒布する側としては、できるだけかけ離れたものや値が低いものは排除したいですし、お送りするセットごとに揃ったものを入れたいというのが人情ですのでそのように配慮しています。ご自身で選別されるのであれば、hFE測定機能がついたテスターを使い、購入した数十本くらいの中から、hFE値が高くかつよく揃ったものを選んだらいいでしょう。

(7)部品に投資したらもっといい音になるか:

いろいろと試すことはいいと思いますが、そういうことに期待しすぎない方がいいでしょう。コンデンサ類の種類(メーカーや商品ライン)によって音が変化することは本機でも起こりますが、音に対する評価と金額とは相関がないようです。私は廉価な通常タイプまたは低ESRタイプを使っていますが、これで不満はありません。というより、オーディオ用のものの方が音が変だと感じるものが目立ちます。また、部品をどんなに変えても回路方式自体が持っている根本的な音の指向まで変わるものではありません。抵抗器は通常の5%級のカーボン型で十分ですが、頒布では1%級の金属皮膜抵抗を採用しています。なお、こういうものをはじめて作る方は、部品をどうこうするよりも、半田づけがきれいに確実にできるようになることを最優先されたらいいでしょう。その方がいいアンプが作れるようになります。

(8)電源供給電圧は15Vでなければならないか:

はい、15V±0.5Vの範囲で供給してください。12Vで製作したい場合はVersion2にしてください。

(9)スイッチング電源アダプタを使うのと電源トランスを使って電源回路を組むのとで違いはあるのか:

明確な差異は認められない、あったとしてのその因果関係は説明できない、というところでしょうか。アンプに仕上げた時の電源に含まれるノイズも調べていますが有意な差は発見できません。本機の残留雑音は抵抗器が出すジョンソンノイズの大きさとほぼ同じで理論値の限界に迫ります。つまり、スイッチング電源アダプタからのノイズの影響を受けていません。スイッチング電源なんかダメだトランス電源式の方が音が良いのではないか、といった風にものごとをイメージでとらえると道を失います。

(10)スイッチング電源のせいなのかきたないハムが出るが対策はあるか:

本機のスイッチング電源だけが犯人であるとは言い切れません。指定のスイッチング電源を使う限り、電源がノイズの原因となることはないでしょう。もちろん、世の中にはひどい製品もありますのでなんともいえませんが。原因が別のところにあると、本機の電源回路のリプルフィルタを強化しても駄目な場合があります。imacなどで特定の機種のパソコンにつなぐとその種のノイズが大きくなる、という現象も報告されています。電源ケーブルおよびオーディオ信号ラインの両方にフェライトコアのノイズフィルタを入れると効果的なことがあります。入れる場合は本機に近いところで最低でも2ターン巻いてください。

(11)回路定数はオリジナルに忠実であるべきか:

オリジナルでないとまずい箇所と、自由に変更してもかまわない箇所とがあります。抵抗値などが「何故、その値であるのか」がわかるようになると自作の面白さが増します。回路設計の可能性はほとんど無限ですから、本機の回路をベースにしていろいろな工夫、実験、失敗を経てよりよいものをめざしてチャレンジしてください。ただ、本機の回路定数や電圧バランスはかなり追い込んでありますので、一から設計し直すというのでないと少々いじったくらいでは効果はないと思います。

(12)もっぱら16Ωの低インピーダンスのヘッドホンを使うのだが回路はこのままでいいか:

現在のバージョンでは16Ωの低インピーダンスヘッドホンを余裕でドライブする能力を持っています。一般に低いインピーダンスのヘッドホンほど感度が高いので、低インピーダンスのヘッドホンを常用される場合は負帰還回路定数を変更して利得を下げてください。

(13)このヘッドホンアンプをパワーアンプとして8Ωスピーカーを鳴らせるか:

大変興味深いテーマです。12V版ですが、回路は一切変更しないで強引に8Ω負荷をかけたらどうなるかやってみました。結果はご覧のとおりで、0.1Wほども出ませんがそれでも結構な音量で鳴ります。参考になる実験がこちらにあります。→ http://www.op316.com/tubes/hpa/cqhpa-sp.htm。Version3をベースにしたらもっとパワーアップできそうに思えますが、制約条件が複雑なのでやる予定はありません。

(14)このヘッドホンアンプをプリアンプとして流用あるいは共用できるか:

できます。このヘッドホンアンプの出力をそのままパワーアンプにつなげば、ラインプリアンプになります。アンプ部側の回路変更は不要です。ヘッドホンジャックには、ジャックの抜き差しと連動するスイッチがついたものがあります。これを使って出力信号がヘッドホンに行くか、プリOUTに行くか切り替えればいいのです。注意点は、ヘッドホン側に切り替わった時、プリOUTがどこにもつながっていない状態になると、パワーアンプからみて入力がオープンになりノイズを拾ってしまうことです。そこで出力側は以下のように配線します。このようにすると、ヘッドホンジャックを挿入した時はプリ出力が切れて、プリ出力は330Ωで接地されるためパワーアンプの入力がオープンになることが回避できます。ついでに入力側にロータリースイッチをつければセレクタ付きヘッドホン&プリ兼用アンプの完成です。

(15)出力段のトランジスタは放熱板に取り付けた方がいいか:

16V以下の電源電圧で使用する限りその必要はありません。本機の回路定数では、出力段トランジスタが熱暴走することはありません。むしろ、若干温度が上昇してVBEが低下することで必要なA級動作としてのアイドリング電流を得ています。また、若干温度が上昇することでhFE値が高くなるため出力段の動作がより有利になっています。冷却してしまうとA級の動作領域が狭くなってしまうだけでなく、hFEが低下してかえって不利な条件になってしまいます。



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