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■■■レシーバーの試験その1(製品編)■■■


●iPhone8 → NT-BTR1(Olasonic) / HEM-HC-BTRATX(TSdrena) / BT-B20(OEM)

比較的音が良いとされているのNT-BTR1(Olasonic)とHEM-HC-BTRATX(TSdrena)およびamazonで高評価のBluetoothトランスミッター/レシーバーBT-B20の実測試験です。各機のスペックは以下のとおりです。BT-B20はさまざまなブランドから販売されていますが、実験に使用したのはCASAPEと表記されています。いずれも正体不明の商品ではなくメーカーサポート窓口も開設されているのですが、技適マークや技術基準適合証明番号の記載がありません。BT-B20は同型と思われるものが異なるブランドで数多く出回っており、中には技適マーク付のものもありますがテストで使用したものは無表記でした。

左から、NA-BTR1、HEM-HC-BTRATX、BT-B20。


---NA-BTR1HEM-HC-BTRATXBT-B20
基本機能レシーバーレシーバーレシーバー/トランスミッター切り替え
(以下の記載はレシーバー時のもの)
リンクIDOlasonic NA-BTR1HBRX01BT-B20
周波数特性20Hz〜20kHz(44.1kHz再生時)
20Hz〜40kHz(LDAC96kHz、990kbps再生時)
10Hz〜20kHz(+/-0.5dB)記載なし
アナログ出力電圧2.1Vrms(実測:2.1Vrms)記載なし(実測:1.7Vrms)記載なし(実測:約0.7Vrms)
出力インピーダンス記載なし(実測:500Ω、1kHz)57Ω記載なし(実測:12Ω、1kHz)
通信方式Bluetooth標準規格ver4.2Bluetooth標準規格ver4.1Bluetooth標準規格ver5.0
対応プロファイルA2DP、AVRCPA2DP、IOPTA2DP、AVRCP
対応コーデックSBC、AAC、aptX、aptX HD、LDACSBC、AAC、aptX LLSBC、AAC、aptX、aptX HD、aptX LL
電源ACアダプタDC5V(内部で昇圧)ACアダプタDC5V(内部で昇圧)充電池内蔵(USB DC5Vより充電)
形状・筐体プラスチック(安っぽい)金属ケース(カッコイイ)プラスチック(安っぽい)
価格18,980円@anamzon6,980円@amazon4,499円@amazon
私のメモPCのUSBに装着するタイプのトランスミッターとの相性は良くないように思います。iPhone8との接続でPLAYボタンを押すと接続が切れることがありました。残念ながらamazonのレビューを信じたのが失敗だったようです。

送信側にはiPhone8を使用しましたので、iPhone8側の特性の影響も出ています。音源データはWaveGeneで作成したWAVファイル(無圧縮)です。


出力信号レベル:

0dBFSにおける1kHzの出力電圧は、NA-BTR1が2.16Vrms、HEM-HC-BTRATXが1.88Vrms、BT-B20で約0.7V(歪が多すぎて正確な測定ができない)でした。一般的なCDプレーヤやDACの出力信号レベルは2V前後ですのでNA-BT1とHEM-HC-BTRATXは過不足なしですが、BT-B20はかなり低くAKI.DACと同じくらいしかありません。そのままオーディオシステムのライン入力につなぐと他のオーディオソース機器とくらべて音量バランスが不足してかなりボリュームを上げてやる必要があります。

おそらく、NA-BTR1とHEM-HC-BTRATXはDC-DCコンバータを内蔵していてアナログ出力バッファに高い電源電圧を供給しているのに対して、BT-B20は3V程度の低い電源電圧で動作させているのだと思います。


周波数特性:

NA-BTR1とHEM-HC-BTRATXは10Hzあたりからほぼフラットです。BT-B20は最大音量(0dBFS)付近で直線性が悪化するため、0dBに届かず-1dBにずれています(実線ではなく薄くしてある)。加えて10Hzで-3dBほどの減衰があります。高域側は各機ともに差はわずかですが、肩の形状に若干の違いが認められます。


歪み率特性:

歪み率は、素のままの出力と80kHzおよび20kHzのローパス・フィルタを通した3パターンで測定しました。フィルタなしのオリジナルのままの歪み率は黒い線でこれが各機の製品としての実力です。80kHzのローパス・フィルタを通したのが青い線、20kHzのローパス・フィルタを通したのが水色の線で、これと比べることでノイズの分布やアナログ回路の程度がわかるので参考のために書き加えました。

NA-BTR1は、最低歪み率は0.125%であまり良い数字ではありませんが、80kHzのローパス・フィルタを通すと0.054%となり、20kHzのローパス・フィルタを通すと0.016%まで下がります。本来はかなりの低歪みなのにノイズの影響を大きく受けていることがわかります。0dBFSの2.17Vまで歪みの右上がり現象がないため、アナログ出力回路が余裕のある設計であることがわかります。

HEM-HC-BTRATXは、最低歪み率は0.13%でNA-BTR1と同等ですがノイズによる影響が大きく出ています。80kHzのローパス・フィルタを通すと0.09%まで下がりますが20kHzのローパス・フィルタを通しても0.085%どまりなので、このあたりがアナログ回路の限界のようです。0dBFSの1.88Vまで歪みの右上がり現象がないため、アナログ出力回路が余裕のある設計であることがわかります。

BT-B20は、測定を開始してすぐに「データがおかしいのではないか?」と疑ってしまうくらい歪が大きいです。出力信号電圧が0.1Vから0.7Vに向かって歪が直線的に一気に増加しています。アナログ出力回路の電源電圧が低く、能力の限界を超えて無理な動作を強いられています。最低歪み率は1%ととんでもない値ですが、80kHzのローパス・フィルタを通すと0.28%となり、20kHzのローパス・フィルタを通すと0.023%まで下がります。このことから、20kHz〜80kHzの間のノイズがいかに大きいかがわかります。

気になったのでBT-B20の歪みの原因となっている直線性について調べてみた結果が右図です。

デジタルフォーマットの最大振幅(0dBFS)において、直線性に問題がなければ0.754Vが出るはずのところ0.681Vまで下がっていますから、10%ほど潰れていることになります。弱いリミッタをかけたような波形ですので耳障りというほどではありませんが、元の音とは微妙に異なって聞こえます。


雑音特性:

歪み率特性データから得られる残留雑音の大きさは以下の通りです。

---NA-BTR1HEM-HC-BTRATXBT-B20
フィルタなし320μV1200μV2000μV
80kHzのローパスフィルタ33μV140μV800μV
20kHzのローパスフィルタ28μV90μV23μV

なお、iPhone側のプレーヤーを停止状態にした場合はデジタル出力が完全にカットされるため、各機ともにアナログ出力に現れる残留ノイズは20μV以下になります。上記のノイズが出るのは演奏中だけです。デジタル機器ならではの興味深い動きです。


ヒアリング:

NA-BTR1とHEM-HC-BTRATXの第一印象はともに「普通にちゃんと鳴っている」ですが、BT-B20は「良く言えばサワサワと大人しい感じ、悪く言うと迫力がなく腰抜け」です。NA-BTR1とUSB-DAC(トランス式、真空管式、FET式いずれも)を続けて聴いてみると、USB-DACの方が音のなめらかさや深みを感じます。NA-BTR1とHEM-HC-BTRATXともにAKI.DACの実験で感じたのと似たザラつきや荒っぽさが残っており、聴く人によってはこちらの方が元気が良い音に感じるかもしれません。音の素性は悪くないので、LPFを追加して丁寧にチューニングしてやればこの耳障り感はかなり解消できそうに思います。

問題のBT-B20は用途によってはこんなものでも足りるのかもしれませんが、音楽を楽しむには全く力不足です。これでもamazonでダントツ高評価なのですから世の中いろいろだなあと思います。ちなみに、BT-B20の宣伝はこんな感じ。

「aptX HD、aptX LL」規格に対応することで、音がいっそうの深みと滑らかさが感じられ、低域の立ち上がりと滑り出しがいっそうスムーズになり、気持ちよいグルーブ感に包まれるようです。嗚呼・・・

●市販レシーバーにLPFを追加して特性改善する

NA-BTR1やHEM-HC-BTRATXを使う場合は、アナログ出力側に適切なLPF(ローパスフィルタ)を追加すると良いでしょう。
実験データおよび製作記事はこちら。→ http://www.op316.com/tubes/lpcd/bt-add-hpf.htm



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