ダンピング・ファクタの測定法


問題:

『今、ここにダンピング・ファクタがそれぞれ「0.1」と「2」の2台のアンプがあります。このアンプに(さらに)「6dB」のNFBをかけた場合、ダンピング・ファクタは、それぞれいくつになるでしょう?』

答え:

『前者が「1.2」で後者は「5」になります。「0.2」と「4」ではありません。そして、これは暗算で簡単に求まりますし、実測値とほとんど正確に一致します。』
今回は、ダンピング・ファクタと負帰還の関係の話題がテーマです。


計算式

問題を解くための計算式は至って簡単です。(1)元のダンピング・ファクタ値に1を加えてから、(2)NFB倍し、(3)最後に1を引けばいいのです。(下の公式)
DF値={(元のDF値+1)×NFB量−1}

これだったら、暗算で簡単に求めることができます。


例題

たとえば、6V6GTシングルを5KΩ負荷で動作させようとした場合、6V6GTの内部抵抗はおよそ45KΩですから、無帰還の状態でのDF値は、まず、
無帰還時のDF値=5÷45=0.11
となりますね。DF値が「0.11」であるところに、負帰還を6dBをかけた場合と、12dBをかけた場合についてDF値がどのくらいになるのかが知りたい場合は、上記の式により、
6dBの場合・・・{(0.11+1)×2}−1=1.22
12dBの場合・・・ {(0.11+1)×4}−1=3.44
となることがわかります。また、負帰還を6dBかけた状態(すなわちDF=1.22)に更に6dBの負帰還を追加した場合は、
更に6dBを追加・・・ {(1.22+1)×2}−1=3.44
となって、当然、上記「12dBの場合」と同一値になります。つまりこの式は、負帰還を分割してかけたり、段階的にかけた場合でも通用することがわかります。但し、いずれの場合もOPTの巻線抵抗値はゼロと仮定しています。


検証

上記の式がどういう根拠によるものであるかは、皆さんへの宿題です(※↓)。さて、この式がどの程度使えるのかについて、ちょっと意地悪な検証を試みてみたいと思います。真空管アンプ製作記事の中で報告されているデータをあてはめてみて、この式が使い物になるのかどうかを確かめてみようというわけです。

佐藤定弘著「真空管パワーアンプ作品集」ラジオ技術社より
「CZ-504D AB1ppアンプ」

同アンプでは、当初(P152〜)負帰還量6dBでのDF値が「1.0」でしたが、改造版(P160〜)では、負帰還量が14dBに増量されており、実測DF値は「4.0」になっています。DF値が「1.0」のアンプに対して8dBの帰還量の追加を行った場合の計算は、

{(1.0+1)×2.5−1}=4.0

となり、計算値と実測値とがぴったり一致しました。

「無線と実験」1996年10月号、11月号より
長 真弓氏製作「6EM7ppアンプ」

10月号では、無帰還でDF値が「1.5」でした。11月号では、これをベースに負帰還を8dBかけています。このような場合の計算は、

{(1.5+1)×2.5−1}=5.25

となります。記事中の実測値は「5.0」ですから、これも計算値「5.25」とほとんど一致してくれています。

※この宿題の答えは、このHomePageをご覧になった黒川達夫氏が、その著書「現代真空管アンプ25選」(誠文堂新光社)のなかで答えてくださいました。どのページなのか、さがしてみてください。


まとめ

ビーム管や5極管を多極管接続で使用した場合、無帰還のままでのDF値はだいたい「0.05〜0.2」くらいになり、これに20dBの負帰還をかけた場合の計算結果は「9.5〜11」になります。ということは、多極管接続でDF値が「10」くらい欲しかったら、回路構成はともかく「合計20dBの負帰還」が必要であるということがわかります。

3極管の場合では、無帰還のままでのDF値はだいたい「2〜5」くらいですから、これに6dBの負帰還をかけた場合の計算結果は「5〜11」になります。3極管ならばごくわずかの負帰還でいとも簡単に高いDF値が得られることになります。

この式を応用すると、「DF値」と「負帰還量」の両方がわかっていれば、無帰還時の球の内部抵抗も求められることになります。ほかにも、いろいろ使えます。


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