工事中
<いきさつなど>
2011年のある日、秋葉原の春日無線変圧器に買い物に行ったところ、「プッシュプル用の14kΩの出力トランスを作ったんだけど使ってみてほしい」と言われて預かったことがありました。6DJ8の差動プッシュプルに少々無理して8kΩを使っていたから、14kΩというのはありがたいんだけど一長一短。トランスはインピーダンスが高くなるほど特性を整えるのが難しく、インピーダンスは高くなったものの1次インダクタンスは相対的に不足気味になったり、高域側が暴れたりする傾向があるので、正直乗り気ではなかったのですが、とりあえず持ち帰って使ってみることにしました。
早速、本サイトでご紹介している6DJ8全段差動ミニワッターに組み込んでみたところ、一聴して低域側のレンジの広がりを感じ、さらにトランス固有の歪みが低くなっていることに気づきました。高域側の特性の劣化や暴れもありません。完全に予想というか、先入観がひっくり返ったのでした。実は、8kΩ負荷の6DJ8差動プッシュプルをお作りになったあるプロエンジニア氏からも、ローエンドの弱さを指摘されていたところだったので、14kΩタイプを試してもらったところOKが出たのでした。
早速、春日無線変圧器に出向いて行って真相を聞いたところ、KA-8-54P(8kΩ)とKA-14-54P(14kΩ)は同じ「KA-?-54P」を冠してはいるものの設計時期も設計エンジニアも異なるというのです。ならば同じ設計エンジニアで8kΩ版も再設計したらどうか、と依頼したところ快諾してくださり、こたびの改訂となったわけです。本ページでは、簡単ながら旧版と新版の比較をレポートいたします。
HomePageのコメントより。
1次巻線を1ランク細くしターン数を増やし、インダクタンスを増加しました。
重畳最大電流は多少小さくなりましたが、周波数特性の高域、低域の落ち込みが緩やかになり、より使いやすく成りました。
1次インダクタンスは、60Hから70Hくらいにアップしたようです。1次インダクタンスの増加は低域特性を確実に良くしますが、この変化は聞いてみれば明確に認識できると思います。線材を細くしたため重畳最大電流が減っていますがそれでも70mAもあるので、このクラスの出力トランスとしては十分な値だといえます。
<出力トランス単体の実測特性>
下図は出力トランス単体の周波数特性です。実機の条件に近づけるために、発振器の送り出しインピーダンスを3.9kΩに設定してあります。送り出しインピーダンスを変えると高域側の特性はどんどん変化します。わかりにくいかもしれませんが、低域側のフラットネスが向上しており、測定しているとそのことを実感します。高域側は巻き数が増えたために若干の暴れがあります。しかし、実機に組み込むとピークやディップはかなり変化するので、どうなるか興味深いところです。
こちらは、出力トランス単体の歪み率特性です。同じく発振器の送り出しインピーダンスを3.9kΩに設定してあります。測定信号電圧は、2次側(8Ω)で0.1Vです。トランスの歪み率は信号電圧によって不規則に変化しますので、すべての信号レベルでこの値になるわけではありません。このグラフから、低域側で歪が減少していることがわかります。
<アンプ組み込み時の実測特性>
アンプ組み込み時の測定には、6N6P全段差動ミニワッター(市販電源トランス版)を使いました。細い線が旧版を使った時の特性で、太い線が新版の特性です。出力トランス単体の周波数特性の影響を受けて、高域側の減衰特性がうねっています。注目すべきは低域側で、フラットネスの改善だけでなく超低域の飽和レベルが高くなっています。
アンプ組み込み時の歪み率特性は以下のとおりです。細い線が旧版を使った時の特性で、太い線が新版の特性です。0.1W以下の領域で全帯域(100Hz、1kHz、10kHz)にわたって歪み率が下がっています。100Hzでの最低歪み率が0.1%を大きく割るというのは出力トランスとしては相当に優秀で、他の有名メーカーでもなかなかこういうのはありません。トランスは、ブランド名や、見かけや、値段で判断してはいけないという好例でしょう。