2.6F6ファミリーについて


6F6という球のルーツと位置づけ

オーディオ・アンプにおける真空管の歴史は、3極管にはじまり、5極管やビーム管の登場でさらに盛り上がり、その後半導体に主役を奪われたものの、現在でも3極管の地位は(出るところに出れば)確固たるものがあります。シリコン整流ダイオードが出現する前までは、フィラメントは電池で点火するか、ハムを我慢しても交流点火せざるを得ませんでした。同時に、当時の直熱3極管はたいへん大きなドライブ電圧を要求したために、もっと感度の高い出力管出現の要求もありました。

そんな状況で登場したのが傍熱5極管でした。フィラメントからのハムのないクリアーな音と、高い入力感度は、普及しはじめた家庭用電蓄をよりエコノミーなものにするのに大きな貢献をしました。その傍熱5極管の嚆矢となったのが42であり、ヒーターが2.5V化された2A5です。42は、特性をそのままにUSベース化されメタル管6F6になります。以後、6F6G、6F6GTとヴァリエーションを広げてゆきます。しかし、6F6族の天下は長続きせず、もっと効率の良い6V6族、パワーの取れる6L6族にその地位を奪われてしまいます。6F6族の名誉を高めた事件といえば、有名なオルソン・アンプでしょう。しかし、このアンプは6F6を3極管接続にしてパラレルで使用していますから、6F6本来の動作というわけではありません。

6F6という球は、最大プレート損失が11Wで、ビーム管6V6の12W(後に14Wにアップ)よりもひとまわり小さいのに、ヒーター電力は6F6が4.41W(=6.3V×0.7A)、6V6が2.835W(=6.3V×0.45A)で6F6の方が大飯食らいです。格好も茄子管ならいざ知らず、月並みなGT管です。傍熱管ですから、フィラメントの釣り具合なんていう話題もありません。一体、なんでまた6F6なの?と聞かれそうですが、やっぱり、道楽が過ぎるとこんな球に手が伸びるのかも知れません。

6F6ファミリーを集める

6F6と言われて私が最初に思い浮かべるのは、Sylvania製のベースにあのシルバニア・グリーンの文字が打たれた"JAN CHS 6F6GT"です。黒化されたプレートとグリーンの文字がマッチして、私の好きな球のひとつです。数年前なら、秋葉原にはこのSylvania製6F6GTが1本1000円程度でごちゃごちゃころがっていました。今になってみるとウソのようです。あれだけいっぱいあった6F6GTも、すっかり数が減ってしまいました。

同じSylvania製でも、National Electronicsブランドの赤文字の6F6GTは、プレートが四角い行燈状の変な形をしているのがあります。Niftyのフォーラムで知り合ったsy氏(お〜、個人名がでちゃいました)が「これは、6V6のプレートの流用ですよ。」とコメントされたので、気にして探していたらありましたありました、同じ形状のプレートを持ったSylvania製の6V6GTが。

NEC製の6F6GTは、プレート材がアルミクラッド鉄板になっており、我々が見慣れた灰色をしています。Sylvaniaと同じ形なのに、色が違うとこうも雰囲気が変わるものかと驚きます。小沢電気商会のガラクタ(店側は陳列のつもりかも)の中からようやく探し出したものです。

6F6のオリジナルはメタル管6F6です。手許にあるのは、KEN-RAD Bendixブランドのメタル球で、"VT-66 6F6"とVTナンバーもふられているものです。1番ピンがケースに接続されているという点をのぞけば、電気的特性は他の6F6族と同じです。そのほかにも、6F6とは書かれていませんがRCA製の"JAN 1613"という軍用もあります。これは6F6の選別球ですので、中味はまったくの6F6です。6F6族のメタル管は、6L6(メタル)なんかと比べるとずいぶん細身です。

Zaerixというブランドは、6B4Gをはじめ旧ソ連製の球を多く扱っています。ガラス管が妙に縦長で、ゲッタを下に飛ばしているヘンテコリンな6F6GTがあります。頭がツルッ禿げ(まるくて透明)の不思議な形状ですが、内部構造はまぎれもない6F6です。

ウェスターン・エレクトリックにWE349Aという6F6に似た5極管があり、米国の通信事業で利用されました。日本でも旧電電公社が同じ目的でWE349Aのような球を必要とした時代がありました。日本電気が、電電公社の依頼を受けて同様の目的のために製造した球、CZ-504D/CZ-504Vがそれです。UZピンを持ったG管のCZ-504D/CZ-504Vは、6F6をちょうど1.25倍大きくしたような規格を持っています。プレートは、6F6のそれを縦方向に1.25倍長くしたような形をしていますし、プレート損失も、ヒーター消費電力も6F6のちょうど1.25倍です。私は、Elevam製のものをみつけました。(また、このシリーズにCZ-501Dという電圧増幅用5極管がありますが、これはグリッドがトップに出ている点からはじまっていろいろな点でWE310Aに似ています。日本製310Aといってもいいくらいです。)

以下に、6F6族の規格をまとめてみました。歴史のある球だけに、実にいろいろなヴァリエーションがあるもんです。(ほかにもまだありますが、表にはいらないので我慢です。)

数字をみて納得していただけると思いますが、最大プレート損失が11Wなので、シングル動作出力はどんなに頑張っても5Wは無理で、実用レベルは3〜4Wでしょう。それから、プレート電流に対して、スクリーン・グリッド電流が大きめです(Ip=36mAに対してIsg=6.5mA)。6V6が、Ip=45mAに対してIsg=4.5mAですから6F6は決して効率の良い球とはいえません。5極管の場合の入力感度の決定要因であるgmも、主なるオーディオ用電力増幅多極管のなかでは最低の部類にはいります。効率が悪くドンカンな球の代表選手といってもいいでしょう。

6F6族は、3極管接続で使用されることも多く、グリッドをプラス領域まで振るAB2級プッシュプル動作では、なんと最大13Wものパワーが得られるという意外な面を持っています。コントロール・グリッドが丈夫で、しかもプレート側の耐圧が高いためこんなことができるのです。もっとも、3結時の内部抵抗は3KΩほどもあり、A1級ではプレート電圧を350Vまで上げてやってようやく2Wが得られます。今回は、3極管接続動作は考えないのでデータは省略します。


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