このHomePageで、全段差動プッシュプル・アンプをご紹介するようになってから、全段差動プッシュプル・アンプに取り組まれる方がずいぶんと増えてきました。しかし、インターネットWebサイトで、言葉を尽くして全段差動回路についてご紹介し説明したところで、一体どんな音がするのかをお伝えすることだけはできません。全段差動プッシュプル・アンプを作るということは、常にリスクを伴います。高崎にお住まいの小峰(ハンドルネーム:komirin)さんは、オリジナル回路で、6AH4GTを使った全段差動プッシュプル・アンプに取り組まれました。ご本人の許可をいただいて、ここにご紹介したいと思います。なお、以下のコメントは私(ぺるけ)が勝手に書きました。
小峰さん製作による、このSRPPドライブ6AH4GT全段差動プッシュプル・アンプは不思議な仕上がりです。このアンプは、前代未聞、革装シャーシなのです。それも、革かばん店が提供した、上質の革を使用しています。これでは、シャーシ温度が上昇してしまいそうに思えますが、そもそも、消費電力があまり大きくないアンプですので、2時間の動作後であってもボディは軽くあたたまる程度で、革張りで放熱効率が落ちていても問題無さそうだということがわかりました。もうひとつ不思議なことがあります。ステレオアンプなのに、シャーシ上面には、電源トランスのほかにトランスが1個しか見当たらないということです。トランスの数は、電源トランスが1個、出力トランスとチョークがそれぞれ2個、都合5個のトランスが使われていますから、残りの3個はシャーシ内部に隠されています。ますますもって、不思議なアンプです。
なお、上の画像では、異なる高さの6AH4GTが混ざって搭載されていますが、今は、同じ高さの球に揃えられています。
回路構成は下図のとおりで、2段構成の全段差動プッシュプル・アンプです。非常にオーソドックスかつシンプルな構成で、失敗の危険もすくなく、全段差動プッシュプル・アンプの基本構成はこれだ、と言いきってもいいと思います。初段は、双3極管5755(WE420Aと同等)をSRPPにした差動です。12AX7/ECC83といったポピュラーな球でないところがミソです。出力段は、オーソドックスな6AH4GTの差動で、定電流回路にはLM317Tを使用しています。出力トランスはノグチのPMF-15P、電源トランスもノグチのPMC-100ですから、かなりローコストにおさえられています。
5755/WE420Aという球は、ヒーター規格は6.3V/0.36Aと12.6V/0.18Aの本立てで、最大プレート損失は1Wです。ピン接続は12AX7とは違いますしEp-Ip特性も異なりますが、ピン接続さえ変更すれば、回路定数を変えずに差し替えができます。3定数は、μ=70、gm=0.5、rp=140kとなっており、内部抵抗が高いため、この球を単独で使用すると思ったほど利得は得られません。本機では、SRPPとすることで利得ロスを最小限に抑えています。
このアンプで苦労しそうな問題は、内部抵抗の高い5755を動作させるには高い電源電圧が望ましいのですが、一方で、6AH4GTの動作電圧は250V程度とあまり高くないため、電源電圧の設定に関して、あちらを立てればこちらが立たず、ということになってしまいます。本機では、高電源電圧(335V)、少プレート電流(23mA×2)が選ばれています。回路動作条件は、手持ちの電源トランスや出力トランスとの相談になります。
電源は、6CA4による整流の後、チャネルごとに独立したチョークを経て、各段に供給されています。
小峰氏ご本人より:
「今までシングルを使っていましたが、安定の良い、重心の低い音にだつぼーです。」
「音の雰囲気の良さと音の心の揺らがない安定性に妻ともどもに吃驚です。」
「もう、シングルには戻れない気がします。」私より:
「全段差動ならではの、重心の低い低域、中域の厚み、全帯域にわたって安定感のある定位、を十分に感じることができます。」
周波数特性: 15Hz〜100kHz (-3dB) 残留雑音: 1mV以下 (補正なし) クロストーク: 80dB以上 (at 500Hz)
このアンプは、関東からほど近い(私が大好きな)某避暑地の中心部、某皮革工房のお店に設置されることになりました。勘の良い人だったら、もうどこだかおわかりかもしれません。夏の3ヶ月間は、お店の方は食事もできないほどの多忙の日々が続くそうですが、○井沢にお越しの節は、どうぞ、お立ち寄りください。