私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 8.ロードラインその1 (電圧増幅回路・・基礎編) |
真空管(3極管)増幅回路の基本動作
さて、いよいよロードラインのお話です。ロードラインについて説明する前に、真空管(3極管)増幅回路の基本動作について考えておきたいと思います。パワーアンプのドライバなどでよく使われる双3極電圧増幅管6FQ7を例にして、増幅作用の原理について考えてみます。6FQ7のカソードは接地(アース)され、プレートに39KΩの抵抗が接続され、更に220Vの電源に接続されている回路があります(右図)。図中の変な記号"<6FQ7>"は真空管、Gはグリッド、PはプレートでKはカソードのつもりです。電源電圧が220Vであることには特別な意味はありません。たまたま、220Vだとしたらどうなるかという例題だと思ってください。真空管増幅回路では、カソードを基準としてグリッドに適当なマイナス電圧(バイアス)を与えることで回路の動作条件を決めますが、今は、そのことはあまり深く考えないことにします。
さて、この6FQ7に、今、全くプレート電流が流れていない(Ip=0mA)としましょう。ということは、39KΩの抵抗に流れる電流も0mAですから、オームの法則(E=IR)により、
0mA×39kΩ=0Vとなって、39kΩの両端に生じる電圧は0Vです。ということは、6FQ7のプレート電圧は電源電圧と同じ220Vということになります。
では、6FQ7に1mAのプレート電流が流れているとしたらどうでしょうか。1mA×39kΩ=39Vですから、抵抗での電圧降下は39Vということになり、従って6FQ7のプレート電圧は、220Vから39kΩの抵抗による電圧降下分を引いて、220V−39V=181Vになります。同じようにして、0mA、1mA、2mA、3mA・・・とプレート電圧(Ep)がゼロになるまで計算してゆくと、
プレート電流Ip(mA) 39kΩの電圧降下 プレート電圧Ep(V) 0mA 0V 220V 1mA 39V 181V 2mA 78V 142V 3mA 117V 103V 4mA 156V 64V 5mA 195V 25V 5.64mA 220V 0V という結果が得られます。
6FQ7のプレート電流が「0mAから5.64mAまで変化」することによって、プレート電圧が「220Vから0Vまで変化」することがわかります。つまり、この回路ではなんらかの方法でプレート電流を変化させることができたらプレート電圧は上下しますから、この上下の変化(すなわち交流信号)を取り出すことで増幅ができそうです。この様子をグラフにすると右図のようになります。
右下の「Ep=220V、Ip=0mA」を起点して左上の「Ep=0V、Ip=5.64mA」のポイントを結ぶ線のことを「39kΩのロードライン」といいます。この回路では、プレート電圧とプレート電流の組み合わせは必ずこのロードライン上のどこかにあります。プレート電流が1mAで、プレート電圧が220Vなんていうことは起きません。
プレート(Ep-Ip)特性とは
ところで、真空管マニュアル等の資料には右図のようなプレート(Ep-Ip)特性というグラフがよく載っています。右図は、手元にある6FQ7を実測したプレート(Ep-Ip)特性データです。プレート(Ep-Ip)特性とは、その真空管の特性の全体像を1つのグラフで表したものです。これさえあれば、その球がどのような性質を持ち、どのような動作条件を与えればよいかがすべてわかる、という非常に重要なデータです。
図の見方はこうです。6FQ7という球のグリッドをカソードと同じ電位にしたとします。つまり、バイアスはマイナスではなく、きっかり0Vにした場合です。そして、プレート〜カソード間に0Vから100Vくらいまで、かけたプレート電圧を変化させた時、一体どれくらいのプレート電流が流れたかを調べたとします。そうすると、プレート〜カソード間の電圧が0Vの時のプレート電流は0mA、10Vの時は0.9mA、20Vの時は1.8mA・・・90Vの時は8.5mAが得られました。これをグラフにしたのが、右図内の左端の「0V」のカーブです。
今度は、グリッドに-1Vのバイアスをかけた状態で今と同じ手順でプレート電圧を変化させ、プレート電流を測定します。そうすると、プレート〜カソード間の電圧が0Vの時のプレート電流は0mA、10Vの時dでもほとんど0mA、20Vの時は0.25mA、30Vの時は0.8mA・・・110Vの時は8.2mAが得られました。これをグラフにしたのが、右図内の左端から2本目の「-1V」のカーブです。
この図は、「さまざまなバイアス」×「さまざまなプレート電圧」の組み合わせにおけるプレート電流の値を1つのグラフにしたもので、その真空管の特性の全貌を表したものなのです。 この特性図を使えば、プレート〜カソード間の電圧が100Vの時、プレート電流が2.5mAくらいになるようにしたい場合、どれくらいのバイアスを与えたらよいかがわかります。そうです、「-3V」ですね。
プレート(Ep-Ip)特性とロードライン
よく見ると、x軸「Ep(V)」、y軸「Ip(mA)」の目盛は共にさきほどのロードラインのグラフと同じです。そこで、この2つのグラフを重ねてみます(右下図)。この図は、真空管6FQ7をある一定の動作条件においた時、プレート電流(Ip)とプレート電圧(Ep)が、グリッド電圧(Eg)によってどう変化するのかを表わしたグラフです。そして、ある一定の動作条件というのが、プレート特性曲線(斜めに何本も引かれた線)と交差して引かれているロードライン上のポイントのことなのです。
すなわち、6FQ7という球を、電源電圧220V、プレート負荷抵抗39KΩ、という回路に組み込んだ時、グリッド電圧をいろいろに変化させたらどうなるか、ということを図に表わしたものということになります。
図の読み方はこうです。グリッドに-4Vのバイアスを与えた時(図上のA点)は、プレート電圧は122.5V(図上のB点)となり、その時のプレート電流は2.5mA(図上のC点)です。
グリッド電圧を-2Vに変化させるとプレート電圧は88Vくらいになり、-6Vに変化させるとプレート電圧は153Vくらいになります(図中の青い矢印の範囲)。ということは、グリッド電圧をあらかじめ-4Vに固定しておき、そこに±2Vの電圧を与えると、プレート電圧は88Vになったり153Vになったりすることになります。その差153V−88V=65Vです。4V(±2Vなので)の変化をグリッドに与えることで、プレート側から65Vの変化が得られたわけで、
65V÷4V=16.25倍16.25倍の増幅ができたことになります。これが真空管における電圧増幅作用の基本です。同じロードラインであっても、与えるバイアスの深さによって動作の起点は変わります。できるだけ大きな振幅を取り出したい場合は、ロードライン上のほぼ中央にならざるを得ませんし、小信号が取り出せればよいのであれば、バイアスの深さの選択肢は相当に幅広くなります。たとえば、次段との間で直結にしたいような場合、前段のプレート電圧は低い方が都合が良いですから、バイアスをできるだけ浅く(たとえば-1.5V)することでプレート電圧を80V程度まで低くすることができます。
ロードラインは、真空管に限らず、あらゆる増幅回路において、増幅素子がどのような条件の下で動作するのかを明らかにすることができる非常に重要な手法ですから、頭の中でロードラインをイメージできるようになるくらい、しっかり理解するようにしてください。
なお、6FQ7のような3極管では、グリッド電圧は-0.7あたりよりマイナスの領域で動作させます。また、本ページの例では、ロードライン上の-8Vよりも深い領域では曲線が寝ており、しかも間隔が詰まってきているので、歪みが増加してしまうため、このあたりの領域もあまり使われません。
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