私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
9.ロードラインその2 (電圧増幅回路・・実践編)

異なる負荷抵抗のロードライン

今度は、具体的に電圧増幅回路に仕上げた場合のロードラインの実践的な設計です。

とりあえず、「ロードラインその1」の条件下で設計を進めることにします。電源電圧220V、使用真空管6FQ7(6CG7,6SN7GT,6J5GTいずれも同じ特性)、プレート負荷抵抗を39KΩにした時と22kΩにした時の2つのケースについて検討してみましょう。

6FQ7のEp-Ip特性上に、電源電圧220Vを起点としたプレート負荷抵抗22kΩと39kΩの時のロードラインを引いてみます。39kΩのロードラインは、Ep=220V、Ip=0mAとEp=0V、Ip=6.54mAの2点を結んだ直線になり、22kΩのロードラインは、Ep=220V、Ip=0mAとEp=0V、Ip=10mAの2点を結んだ直線になります。Ip=5.64mAおよびIp=10mAという値は、それぞれ、

220V÷39kΩ=5.64mA
220V÷22kΩ=10.0mA
で求めます。ロードラインは右図のようになります。39kΩのロードラインの方が、22kΩよりも角度が寝ており、プレート電流がより少ない領域での動作になっています。


ロードラインと増幅作用

グリッド・バイアス電圧は、-0.7Vよりも浅いところは使わないようにするのがセオリー(グリッド電流が流れるので・・詳細はそのうち書きます)です。また、バイアスがあまり深い領域では、ロードラインを横切るカーブが寝てくるのと、間隔が詰まってくるので、こういうところも使わないようにします。

そうすると、どちらの場合も-1V〜-7Vくらいの範囲が動作領域の候補になってきます。バイアス・ポイントをどこに設定するかは、取り出したい出力電圧が最大でどのくらい欲しいかが重要な判断基準になります。たとえば39kΩ負荷の場合、バイアス・ポイントを-2Vに設定したとします。入力信号は、最大で-2Vを中心にして-1Vと-3Vの間で振ることができますから、プレート側の電圧を読み取るとおおよそ70Vと105Vになります。

信号の最大振幅が35V(=105V-70V)ということになりますが、このような場合、交流信号では35Vp-pと表現します。ピークとピークの間が35Vという意味です。こういう信号をテスターやミリバルで測定すると12.4V(=35V÷1.414÷2)と表示されます。これを12.4Vrmsと書き、実効値で12.4Vというふうに表現します。オーディオ信号の大きさを言う場合、但し書きがない時は実効値というのが一般的です。この時の増幅率は、17.5倍(=35V÷2V)です。

もし、p-p値で100Vくらい欲しい場合(6CA7/EL34 3結シングルではこれくらいのドライブ電圧が必要)は、これでは足りません。しかし、バイアス・ポイントを-4Vくらいにしてやると、使うことができるバイアス電圧の範囲が-1V〜-7Vになり、プレート電圧の範囲が70V〜168Vくらいになってくれて、なんとか100Vp-p近い出力が取り出せることがわかります。この時の増幅率は、16.3倍(=98V÷6V)です。

同様に、プレート負荷抵抗22kΩの場合ですと、プレート電圧が39kΩの時と同じになるような動作では、バイアスが相当に浅くなってしまいす。これでは100Vp-pは取り出せません。、100Vp-pが得られるようなバイアス・ポイントとなると、-4.5Vあたりになってきます。この場合のバイアス電圧の範囲は-1V〜-8Vになり、プレート電圧の範囲は90V〜189Vくらいになってくれて、なんとか100Vp-p近い出力が取り出せますが、この時の増幅率は、14.1倍(=99V÷7V)に下がってしまいます。最大振幅の上限も電源電圧220Vにより近くなってきて、これ以上はもう余裕がなくなっています。

このように、プレート負荷抵抗を低い値にすると、増幅率が低下し、取り出せる最大電圧も小さくなります。このグラフではわかりにくいですが、出力電圧が大きくなるにつれて直線性が悪化し、2次歪みを中心とした歪み率も増加します。


バイアスを与える

そこで、プレート負荷抵抗は39kΩとし、バイアスを-4Vとしてみることにします。さて、このバイアス・ポイントで6FQ7を動作させるような回路というのは、どうなるのでしょうか。これまでで決まった条件は以下のとおりです。

最後に残ったのはバイアスの与えかたです。バイアスには、カソード・バイアス方式(自己バイアスともいう)と固定バイアス方式の2種類がありますが、電圧増幅回路では回路がシンプルであるという理由で、一般にカソード・バイアス方式が選ばれます。回路図にすると右下図のようになります。

プレート電流(2.5mA)は、39kΩのプレート負荷抵抗の中を通り、6FQ7のプレート(P)からカソード(K)に通り抜けてカソード抵抗(1.6kΩ)を通ってアースに至ります。真空管を使った電圧増幅回路の動作を考える場合、ごく特殊なケースを除いて上記以外のルート(たとえばグリッドを通るような)電流は一切流れないものとして考えます。

カソード・バイアス方式では、2.5mAのプレート電流を使って、カソード側に挿入した抵抗に電圧を発生させ、カソードとグリッドの間に相対的にマイナスの電圧を生じさせます。グリッド〜アース間には470kΩがありますがここには電流は流れませんので、グリッドはアースと同じ電位になりますが、カソードは1.6kΩに電圧が発生するためにプラス4Vになります。カソードからみればグリッドはマイナス4Vになりますね。必要な抵抗値は、オームの法則より1.6kΩ=4V÷2.5mAが求まります。これがカソード抵抗値になります。

カソード・バイアス方式では、カソード抵抗が割り込むために、カソード電圧がグリッド・バイアス電圧分だけアースから高くなってしまいます。プレート電圧は、カソード〜プレートの間の電圧のことをいいますが、設計上のプレートは122Vでしたから、実際のアース〜プレート間電圧は126V(=4V+122V)でなければなりませんし、電源電圧も224V(=4V+220V)になります。

カソード抵抗(1.6kΩ)には、並列に充分容量の大きなコンデンサを抱かせます。これがないと、設計どおりの増幅率が得られません。また、ここでの本題ではありませんが、カソード抵抗のバイパス・コンデンサの容量はかなり大きな容量のすることをおすすめします。従来、ここに挿入するコンデンサの容量は、10μF〜100μFが一般的でしたが、これを220μF〜1000μFくらいにしてやります。


次段の入力インピーダンス

さあ、これでOKでしょうか。いいえ、残念ながらまだだめです。電圧増幅回路のロードライン設計では、もうひとつ考えに入れておかなければならないものがあります。それは、次段の入力インピーダンスです。たとえば、この回路の後ろに出力管による終段が続くとします。回路図にすると右図のようになります。

出力段がカソード・バイアスの場合ですと、多くの出力管ではグリッド抵抗は500kΩ前後までが許されています。こういう場合、プレート負荷は、直流的にみれば39kΩのままでいいのですが、交流的にみると39kΩと後ろに続く470kΩとが並列になっていると考えます。並列になった抵抗値の計算は第4章にありますから参照してください。計算すると36kΩ={(39×470)÷(39+470)}になります。このように、電圧増幅回路では直流負荷は39kΩ、交流負荷は36kΩというように2種類の負荷が存在するので、設計にあたっては2種類のロードラインを引かなければなりません。

もし、出力段が固定バイアスですと、グリッド抵抗は一般に50kΩ〜250kΩが上限です。100kΩであるとして交流負荷インピーダンスを計算すると28kΩ={(39×100)÷(39+100)}になります。そこで、36kΩと28kΩの2つのロードラインを引いてみることにします(下図)。

交流負荷のロードラインは、直流負荷で決めたバイアス・ポイント(Ep=122V、Ip=2.5mA)を通るように引きます。36kΩのロードラインは、39kΩのロードラインとほぼ重なっていますが、28kΩのロードラインは角度が急になって、取り出せる最大出力電圧がかなり低下してしまっていますので、このままでは出力管を十分にドライブできそうもありません。設計のやりなおしです。十分な最大出力電圧が得られるようにするには、電源電圧をもっと高くしてやらねければなりません。

そこで、電源電圧を270Vまで上げて引き直してみたのが細い2本のロードラインです。バイアスが-4.8Vあたりに見当を付けて動作を決め、そのポイントを通るような28kΩのロードラインを引きます。グリッド入力の最大振幅は、-1V〜-4.8V〜-8.6Vになり、その時のEpは、85V〜147V〜200Vくらいでしょうか。出力電圧にして、200V-85V=115Vp-pが得られていますから、電源電圧220Vの時と比べて格段に有利になりました。ちなみに、この時の利得は、115V÷7.6V=15.1倍です。

ここまでおつきあいいただいて、ずいぶんアタマがくたびれたことと思いますが、くたびれた分、真空管の増幅のしくみについていろいろなことがわかっていただけたと思います。

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