私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 13.ロードラインその6 (電力増幅回路・・プッシュプル実践編) |
2A3の動作条件
RCA発表の2A3プッシュプル動作データ(下の表)を使って、現実の動作条件について検討してみることにしましょう。ここでは、上の表の右側(AB1PP)の動作条件を例題にしてあれこれ考えてみることにします。
AB1PP(固定バイアス) AB1PP(自己バイアス) プレート電圧(Ep) 300V 300V バイアス電圧(Eg1) -62V (-62V) カソード抵抗(Rk) N/A 780Ω 負荷抵抗(RL) 3kΩ 5kΩ 無信号時プレート電流(Ip0) 80mA (40mA×2) 80mA (40mA×2) 最大出力時プレート電流(Ipsig) 147mA 100mA 出力(Po) 15W 10W 歪み率(KF) 2.5% 5.0%
ロードラインの解析
2A3のプレート特性図に対して、プレート電圧が300Vで、プレート電流が40mAのポイントを通るような5KΩのプッシュプル・ロードライン引いてみると右図のようになります。太い線(A〜B)が、出力管2本の合成時のロードラインで、普通、プッシュプル・アンプのロードラインはこの2本合成時のものだけを引いて設計します。ここでは、参考のために細い線で出力管1本あたりのロードラインも引いてあります。ただし、出力管1本あたりの場合は、C点(300V、40mA)を通ることには変わりありませんが、実際にはもっと弓なりの曲線となり、最終的には太い線に合流するような曲線となります。
多くの記事や文献では、この出力管1本あたりの検証はなされずに、太い線だけになっています。また、C点を通るような1.25KΩの線をロードラインとして引いている文献もあるようですが、それは間違いです。
プレート電圧が300V、無信号時の1本あたりのプレート電流が40mAですから、無信号時の1本あたりのプレート損失は12W(=300V×40mA)となって、2A3の最大プレート損失15W(赤い線)に対して20%の余裕があります。AB級動作では、無信号時よりも大出力動作時の方が、プレート損失が大きくなりますので、無信号時に15Wいっぱいの動作にしてしまうと、大出力時に定格をオーバーしてしまいますので、このように損失の定格に余裕を持たせる必要があります。
バイアス電圧の発表値は-62V(グラフからは-60Vと読み取れる)ですので、グリッドが0Vになるまで振ると、最大振幅はプラス・マイナス62V(124Vp-p)ということになり、シングルの時よりも大きなドライブ電圧が必要です。AB級プッシュプル動作では、シングル動作と比較してバイアス電圧が深くなりますので、ドライブ電圧も大きくなります。
A点〜C点間と、C点よりもバイアスが深い領域とでは、プレート特性曲線の間隔の詰まり具合に大きな違いがあります。C点よりもバイアスが深い領域では、増幅動作が充分に行われていないことが想像できます。このように、出力管1本あたりでは、振幅のプラス側とマイナス側とで非対称になるというのがAB級やB級動作の特徴です。このような動作はプッシュプルならではのもので、シングル回路では不可能です。
A級動作では
では、動作条件を少し変えて、よりA級に近い動作にしてみます。A級動作では、AB級に比べてプレート電流を多めにします。しかし、AB級動作の条件のまま単純にプレート電流を多くすると、2A3の最大定格を越えてしまいます。そこで、プレート電圧を250Vまで下げてから、適当なプレート電流になる動作をさがしてみました。右図の動作では、プレート電圧250V、プレート電流58mAになっています。負荷抵抗はAB級の時と同じ5kΩです。この時のバイアスはおおよそ-44Vです。
このような条件では、出力管1本だけでもカットオフせずに充分な増幅動作を行なっており、これがプッシュプルとしてお互いにプッシュ(押す)とプル(引く)の動作を営むようになります。
ちょっと変な表現かもしれませんが、テニスでいうならば、(1)シングル動作は、どんな球が来ても常に片手打ちでフォアハンドのみで頑張る。(2)B級プッシュプルは、常に片手打ちでフォアハンドもバックハンドもあり。(3)A級プッシュプルは、常に両手打ちでフォアハンドもバックハンドもあり。(4)AB級プッシュプルは、楽な球の時は両手打ちでフォアハンドとバックハンド、遠い球は片手打ちでフォアハンドとバックハンド、ということになるでしょうか。
A級動作で負荷抵抗を高めにすると
A級動作で負荷抵抗を高めにする場合は、プレート電圧を高く、プレート電流を少なくして適当な動作条件をさぐります。上図の動作では、プレート電圧300V、プレート電流48mAになっています。負荷抵抗は8kΩです。この時のバイアスはおおよそ-58Vです。
このように、2A3ひとつとってもさまざまな動作条件を設定することができます。電源電圧が高めか低めか、電源が供給できる電流はどれくらいか、OPTの1次インピーダンス(負荷抵抗)はどのくらいか、等の与えられた条件によって都合の良い動作を設定すればいいわけです。
私のアンプ設計マニュアル に戻る |