私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
電圧増幅回路の設計と計算その2 (2段直結増幅回路)
さて、今度は同じ6FQ7の2段増幅回路でも、段間の結合コンデンサがない直結回路です。段間の結合コンデンサが1つ減るため、回路全体に負帰還をかけた際の低域安定度が格段に良くなるため、非常に良く使われる回路です。実際、メーカー製のメインアンプのほとんどが、さまざまな工夫をこらしてトータルの負帰還ループ内における段間の結合コンデンサの数を1つにおさえているという事実があります。

2段直結回路では、初段のプレートにじかに次段グリッドが接続されますから、当然のことですが、初段のプレートと次段のグリッドが同じ電位になります。その結果、次段カソードがかなり高い電位になるため、次段にとって増幅回路として使える実質的な電源電圧が低くなってしまいます。設計のポイントは、初段のプレート電圧をできるだけ低くおさえることと、次段の動作条件の最適化です。


初段

まず、はじめに初段の設計をしましょう。設計目標は以下のとおりです。

だいたいの見当をつけて引いてみたロードラインが下図です。電源電圧=172V、プレート負荷抵抗=56kΩ、プレート電圧=60V、プレート電流ー2mA、バイアス=-1.6Vです。この動作点におけるEp-Ip特性曲線に接線から算出した内部抵抗の傾きは約12kΩです。

カソード抵抗値は、1.6(V)÷2(mA)=800Ωですから、これを750Ω+68Ωに分割して、750Ω側にはコンデンサを並列に入れることにします。そこで内部抵抗および利得は、

13.6kΩ=12kΩ+{68Ω×(22+1)}・・・内部抵抗
17.7倍=22×{56(kΩ)/(13.6(kΩ)+56(kΩ))}・・・利得
ということになります。回路図にすると以下のようになります。(回路図ではカソード抵抗のひとつが680Ωになっていますが正しくは750Ωです・・・以下の回路図も同様)


次段(ドライバ段)

次段の設計を行なうためには、次段の電源電圧を決めなければなりません。ところで、初段と直結としたことで、次段のカソード電位が高くなっています。カソード電圧は、グリッド電圧よりもバイアス電圧分だけ高くなるわけですが、ロードラインも引いていないので正確なバイアス電圧がわかりません。

そこで、暫定的にバイアス電圧を-5Vと見当をつけて、設計を進めることにします。グリッド電圧は、初段のプレート電圧と同じですからこれは61.6Vです。これに5Vを足して、カソード電圧はかりに66.6Vとします。

電源電圧供給は、前章によれば最大で340Vでしたから、デカプリング抵抗による電圧降下分を10V程度見込んで、とりあえず330Vということにしてみます。そこで、次段の実質的な電源電圧は、330V−66.6V=263.4Vということになります。

電源電圧263.4V、Ip=0mAから一気に33kΩのロードライン(青)引いてみます。動作ポイントを、Ep=153V、Ip=3.4mA、Eg1=-5Vに見当をつけて、このポイントを通るような 28.7kΩのロードライン(赤)も引きます。28.7kΩというのは、前章でも説明したようにプレート負荷抵抗33kΩと次段グリッド抵抗220kΩとの合成値で、これがこの増幅段の実質的な交流負荷となります。

さて、この動作条件下でグリッドバイアス-5Vを中心に、-1Vから-9Vまで変化した場合のロードライン上のプレート電圧は、87V〜209Vまで変化します。いいかえると、この場合の出力電圧は43Vrms(122Vp-p)になります。設計目標の45Vrms以上(127Vp-p)にはちょっとだけ足りませんが、設計目標自体がかなり余裕をみているので、とりあえずこれでいいことにします。

(コメント:電圧増幅回路では、グリッドバイアスは-1Vよりも深いところを使用しないと、グリッド電流の影響を受けてしまって具合が悪いというのが一般論ですが、こと直結回路に限っては、この制限はややゆるくなります。なぜかというと、前段とが直結であるために、少々のグリッド電流が流れても、内部抵抗の低い前段がこれを供給してくれるからです。)

では、次段のカソード抵抗値およびカソード抵抗が消費する電力を計算してみます。

19.6kΩ=66.6V÷3.4mA・・・カソード抵抗値
226mW=66.6V×3.4mA・・・カソード抵抗の消費電力
ですから、抵抗値は20kΩで容量が1W型以上であればいいことになります。回路図にまとめたのが下図です。

最後に、利得の計算もやってみます。まず、次段管の内部抵抗ですが、プレート特性曲線から読み取っておおむね11.5kΩ。利得は、

15.7倍=22×{8.7/(11.5+28.7)}
になりました。総合利得は、
278=15.7(ドライバ)×17.7(初段)
です。前章より、最大出力時の2A3の入力電圧が、約37V(rms)でしたから、
0.133V(rms)=37V(rms)÷278
となって、無帰還時では約0.13Vの入力感度のアンプに仕上がることになります。


低域時定数

本回路は、15章の場合に比べて最大出力電圧の供給能力がやや劣るものの、段間コンデンサが1つ少なくなるメリットは計り知れないものがあります。何故かというと、オーバーオールの負帰還をかけた場合、15章の回路では低域時定数が3つになってしまいます。時定数1つあたりの位相回転は最大90度(未満)になり、3つでは270度(未満)になるのですが、位相回転が180度を越えると、基本的に回路は発振します。極論すると、低域時定数が3つのアンプに負帰還をかけた場合は、発振しても一向におかしくないのです。発振が回避できたとしても、高い安定度を得ることはたいへん難しいのです。

一方で、低域時定数が2つの場合は、位相回転は最大180度(未満)になり、この場合はそう簡単には発振しません。つまり、あまり苦労しなくても高い安定度が得られるのです。メーカー製のアンプの回路を調べてみると、位相回転が180度以上にならないように巧みに直結回路を取り入れているものです。自作アンプの世界でも、直結回路の技術は必須であると思ってください。


電源ON時の問題

さて、本章で設計したような2段直結回路には、増幅素子に真空管を使う限り、宿命的ともいえる欠点があります。

真空管のカソードが充分冷えた(室温)状態で、電源をONにしたとします。ヒーターが加熱され、6FQ7が正常な動作にはいるには最低でも11秒かかります。しかし、シリコンダイオードによる整流を行なった電源回路では、電源ONの数秒後には、電源電圧は通常動作時並みかそれ以上の高圧になっています。

電源電圧は、初段、次段それぞれのプレートに印加されますが、初段プレートには次段グリッドが直結されています。ですから、電源ONの数秒後には、次段グリッドにも300V程度の高圧がかかり、ヒーターやカソードが加熱されるまでの数秒間この状態が続きます。そこで、このような現象を少しでも緩和するために、初段の電源回路には若干の工夫をした方がいいでしょう。

具体的には、2本の抵抗で分流したポイントから初段の電源を取るようにすれば、印加される最大電圧を少しでも緩和できます。あるいは、5AR4のような傍熱型の整流管を採用すれば完璧です。

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