私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 電源の設計その6 (その他の電源) |
工事中
マイナス電源
自己バイアス回路を使ったシンプルで基本的な回路だけで構成された真空管アンプでは、B+電源とヒーター電源さえあれば動作してくれます。しかし、固定バイアス回路を使ったり、出力段のドライブをカソードフォロワ回路と直結して行ったりした場合、差動回路を使った場合等では、マイナス電源が必要になる場合が多くあります。そのような場合、電源トランスの巻線をうまく利用することができれば、マイナス電源のために更にもう1つ電源トランスを追加しなくてもよくなります。
<-7V以内>
AC6.3Vを片波整流すると最大で約-8.3V、ブリッジ両波整流で約-7.7Vが得られます。リプル・フィルタ後の直流が-7V以内でしかも必要な電流があまり大きくなければ6.3Vヒーター巻線がそのまま使えます。(図1)図1
<-33V以内>
AC6.3Vを倍電圧整流すると最大で約-16.6Vになりますので、リプル・フィルタ後の直流が-15V以内でしかも必要な電流があまり大きくなければ、この場合も6.3Vヒーター巻線がそのまま使えます。また、6.3Vヒーター巻線を2つ直列にして倍電圧整流を行えば、約-33Vくらいまではまかなうことができます。(図2)図2
<-40V以上>
問題は、-40V〜-100Vの領域です。2A3、45、300Bといった主だった直熱3極管の固定バイアス電圧がこの領域に該当します。AC70Vくらいのバイアス回路専用巻線を持った電源トランスもいくつか製造されていますが、これがない電源トランスの場合は、B電源用のAC250V〜300V巻線を使ってマイナス電源をつくり、電圧を抵抗等でドロップダウンして使うことになります。この場合、B電源とマイナス電源の両方の消費電流の合計値が、電源トランスの許容電流を越えないようにしなければいけません(厳密にはすこし余裕がありますが)。図3の回路は、AC250V巻き線を使って約-350Vを得て、それを抵抗でドロップさせて-81Vを得ています。
図3
この場合、マイナス電源の消費電流がごくわずかである場合は、マイナス電源側の整流ダイオードを1本で済ますこともできます。もっとも、B電源用の巻線を使わずに電源の設計その1 (基礎編)でご紹介したコッククロフト回路を使って必要なマイナス電圧を得るという手もあります。
<裏技>
たったひとつの整流回路だけでマイナス電源を得るという裏技があります。それは、整流管以外に手ごろな整流素子がなかった昔、多くの電蓄等で使われた手法です。(図4)図4
アンプ全体の消費電流がほぼ一定であると考え(図では60mA)、この電流の帰り道に抵抗R(図では100Ω)を挿入することで、ここで生じた電圧降下を使って相対的にマイナス電圧(図では-6V)を得るのです。アース(E)ポイントに対して、電源トランスのセンタータップが浮いている点に注意してください。ただし、この手法は消費電流が大きく変化するAB級やB級動作のアンプには使えません。
バッテリー電源 (本章の一部は将来「周辺技術編」に独立します)
今日、家庭内には実にさまざまなところで「電池」が使われています。TVやCDのリモコン、CDやMDのWalkman、ゲーム、万歩計、たまごっち、時計、携帯電話、ポケットベル、カメラ、ビデオカメラ、コンデンサ・マイクロフォン、ノートPC、パソコンのバックアップ用電源、ガスこんろ・・・もうきりがありません。真空管アンプで、電池が使える場面はそんなに多くありませんが、回路を工夫してゆくうちに、電池が活用できる場面に出会うかもしれません。
<マンガン乾電池>
昔からある、もっともポピュラーな乾電池です。安価であることが最大の特徴で、内部抵抗はかなり高く、しかも新品のときには開放電圧は1.7Vほどもあるのに、使っているうちに、1.5V、1.3V、1.2V・・・とどんどん下がってきます(公称1.5V)。一定の電圧が欲しい回路には使えません。<アルカリ乾電池>
マンガン乾電池に非常に良く似た性質(公称1.5V)を持ちますが、容量が大きい分2倍以上長持ちするということと、内部抵抗がやや低めになっているという点が改善されています。ただし、アルカリ乾電池が効果を発揮するのは大電流で使った場合で、時計等の微少電流動作ではマンガン乾電池との差は大きく出ません。乾電池の充電はやってはいけない!・・・乾電池(マンガン/アルカリ)における化学反応は不可逆反応ですから、充電しても回復はしません。しかし、少し使っては少し充電する、ということを繰り返すと、乾電池の寿命が延びることもまた事実です。それは、充電行為によってマンガン乾電池内に塩素ガス(有毒であり危険)が発生し、一時的に塩素電池(公称電圧が高い)になるため、低下した電圧が戻ったように見えるからです。アルカリ乾電池の充電行為も同じく危険です。破裂して水酸化カリウム溶液が目にはいると、失明の危険があります。
<鉛畜電池>
充電できる電池(二次電池という)としてもっとも歴史が古く、しかも自動車用としてもっとも普及しているポピュラーな電池(公称2V)です。逆さにしてはいけないタイプのものと、密閉されていて逆さに耐えるもの(シールされている)とがあります。大型で大容量のものを作ることができ、しかも重い負荷に耐えるという点が特徴です。特に、小型シール鉛畜電池は、逆さにできる、メンテナンスがいらない、メモリ効果(後述)がない、といったメリットがあります。
<ニッケル・カドミウム蓄電池>
市販されているマンガン乾電池やアルカリ乾電池と同じ形・大きさで電圧も近い値(公称1.2V)であり、乾電池とかなり高い互換性のある二次電池であるため、Walkmanとともに充電器ともども飛躍的に普及しました。最大の特徴は、内部抵抗がきわめて低い(単二乾電池が0.3Ωに対してニカド電池は0.005Ω以下)ということで、大電流を取り出した時の性能はアルカリ乾電池など敵ではありません。その効果は、カメラのストロボに使ってみるとスタンバイ時間の差に顕著に現われます。しかし、ほっておくとかなりのハイペースで放電してしまう(半年で60%以上が失われる)ので、こまめに充電してやらなければまりません。全部使い切らないでの充放電を繰り返すと、まだ残っているのに空になったようになってしまう(メモリ効果という)性質があるため、まめに完全放電をしてやらなければまりません。
ニッケル・カドミウム蓄電池は、何度も充放電を繰り返しているうちに、ある日、ぱったりと充電しなくなってしまうことがあります。これをデンドライト・ショートといい、充電中に針状カドミウムが成長してセパレータを貫通し負極と正極とがショートしてしまうことが原因です。こうなってしまった電池はお釈迦ということになります。
<ニッケル水素蓄電池>
ニッケル・カドミウム電池をより大容量(1.5〜1.8倍くらい)にし、メモリ効果が出難くしたのがニッケル水素電池(公称1.2V)です。内部抵抗の低さは引き継いでおり、基本的に、ニッケル・カドミウム電池と同種でより大容量になったもので、デンドライト・ショートを起こさない構造のもの、と考えていいでしょう。火災にご注意・・・ニッケル・カドミウム電池とニッケル水素電池は、内部抵抗が極端に低いため、うっかりショートさせてしまうと、ショートした回路に非常に大きな電流が流れます。このことによる発熱で火災事故が起きやすくなっていますので、絶縁には充分注意がいります。Walkman用のガム電池(ニッケル・カドミウム電池)が、ズボンのポケット内で硬貨と接触してショートし、ズボンが燃えたという有名な事故があります。
<リチウム電池>
最近話題になっているのが、NASAが開発したリチウム電池です。一度に取り出せる最大電流値はさほど大きくないのですが、容積あたりのエネルギー密度が高く、しかも10年間放置してもほとんど放電しない(自己放電はたったの0.5%/年)こと、そして容量が減っても電圧がほとんど一定(公称3V)であること、そして低温から高温まで安定した性能がえら得ること、といった特徴が重宝されています。リチウム電池には、非常にたくさんの種類がありますが、きりがないのでここでは詳しく触れません。<(リチウム)イオン蓄電池>
リチウム電池の特徴を持った二次電池ということど最近脚光を浴びているのが、リチウムイオン電池(公称4.2V)です。ニッケル・カドミウム電池のようなメモリ効果もありません。弱点は、やはり一度に取り出せる最大電流値が小さいということです。以下に、それぞれの電池の特徴をまとめてみました。強引にひとつの表にまとめたので、表現に少々無理がありますがご容赦ください。
マンガン乾電池 アルカリ乾電池 鉛畜電池 ニッケル・カドミウム電池 ニッケル水素電池 リチウム電池 リチウムイオン電池 最高回路電圧(1素子あたり) 1.725V 1.65V (2.2V) (1.45V) (1.45V) --- (4.2V) 公称電圧(1素子あたり) 1.5V 1.5V 2.0V 1.2V 1.2V 3.0V 3.55V(平均動作電圧) 終止電圧(1素子あたり) 0.9V 0.9V (1.8V) (1.1V) (1.1V) --- (2.7V) 電圧の変化 使うにつれてどんどん電圧が低下する 使うにつれてどんどん電圧が低下する あまり電圧が低下しない あまり電圧が低下しない あまり電圧が低下しない あまり電圧が低下しない あまり電圧が低下しない 内部抵抗 高い やや高い 低い 非常に低い 非常に低い 高い 高い 充電 × × ○ ○ ○ × ○ 自然放電 1年くらい持つ 1年くらい持つ 1ヶ月 1ヶ月 1ヶ月 10年は持つ --- <利用例その1・・固定バイアス>
電圧増幅管は普通自己バイアスで設計されることが多いですが、カソード抵抗のかわりにダイオードを挿入して、ダイオードの順方向電圧が一定であることを応用したバイアス回路とした例もみかけます。そこで、ニッケル・カドミウム蓄電池の公称電圧がほぼ一定であることを利用して、カソード抵抗をニッケル・カドミウム蓄電池で代替させるということもまた可能です。(図5)図5
この場合、アンプが動作している間は、カソード電流がニッケル・カドミウム蓄電池をわずかずつ充電し続ける(一種のトリクル充電という)ため、ニッケル・カドミウム蓄電池が放電してしまって、バイアス電圧が低くなりすぎることを防いでくれます。ニッケル・カドミウム蓄電池の特徴である超低内部抵抗のおかげで、カソード・バイパス・コンデンサがいらなくなります。この手法は、SMTの専用フォノイコライザ・アンプで使われています。
しかし、ニッカド電池は、デンドライト・ショートおこしやすいということと、経年変化によって(いつの日か)ほぼ確実にショート故障を起こすため、ここで使用するニッカド電池は、定期的に交換しなければなりません。
また、電池が劣化してきた場合、電圧増幅管のわずかなプレート電流では、自己放電(新品でも半年で60%以上が失われる)を十分補えるかどうか疑問です。メモリ効果の問題については、私にはわかりません。こういう目的で使うなら、そういう問題が少なくなっているニッケル水素電池か(リチウム)イオン蓄電池の方がおすすめです。
もうひとつは、リチウム電池をダイレクトにバイアス電源に使うという方法です。リチウム電池が10年以上にわたってほとんど自己放電せずに公称電圧(3.0V)を保持してくれる、という特徴を活かすわけです。バイアスを印加するだけで電流は流さない、というところがミソです。(図6)
図6
私のアンプ設計マニュアル に戻る |