私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 アース回路その4 |
まとめ:
右図は、ステレオ・パワーアンプを例にしたアースラインの全体図です。黒い線がアースライン、赤い線は電源供給ライン、青い線は信号ラインです。電源部とアンプ部のアースは分けて考えます。電源部の整流回路付近には大きなリプル電流がながれていますからアースとつながっていたとしてもアースとして扱うことはできません。何段ものリプルフィルタを経てリプルが実用上十分に除去されたポイントをもって電源部のアースとしてアンプ部とつなぎます。このことさえ守っていれば、アンプ部のアースの配線が少々デタラメであっても、電源のリプルが原因となるハムはまず出ません。
信号ラインに関わるアースですが、ステレオアンプでは、アンプ部のアースは左右で分けないで共通した一系統で配線します。アンバランス回路(普通のアンプはどれもアンバランス回路)ではアースを左右に分けても意味がないどころか左右チャネル間クロストークが悪化したりノイズの原因になります。
アンプ部では、左右共通のアース母線を用意し、そこにアンプ部のあちこちからアースにつなぐと実装が楽です。この部分に限ってアース母線方式は有効です。アース母線につなぐ順序を厳密に考えたい場合は「アース回路その1」、「アース回路その2」、「アース回路その3」を参考にしてください。
入力端子は左右で接近して配置してアースは左右共通とします。ボリュームを使う場合も同様です。これらは左右で分ける意味はなく分けることはむしろ有害です。アースを左右で分けたつもりです、実際の信号電流は左右が混ざって2本のアースを流れるだけです。
右図では、アースラインとシャーシをつなぐポイントとして3つの候補を書き込んであります。1つめは入力端子のところ、2つめはボリュームのところ、3つめはアンプ部のアースラインのどこかです。この例では、3つのどこからシャーシをつないでも問題はなく結果は同じになります。
これらのことを守れば、アースの引きまわしが原因で生じるハムやノイズは生じなくなりますので、残留ハム0.1mV以下のアンプを容易に作れるようになります。
どこからシャーシに落とすか:
アンプ部のアースは「アース回路その2」で説明したように、1系統のアースを左右で共用にするようにします。そして、電源回路ではリプル電流の影響を受けない、リプルがよく除去されたポイントを電源部のアースポイントとしてアンプ部とつなぎます。最後にアースラインのシャーシへの落としどころを決めます。シャーシへの落としどころの条件は、(1)シャーシはアースではなく部品であると考える。
(2)シャーシアースは1ヶ所だけでとる。
(3)電源のリプル電流が存在しないところ・・・すなわち、電源部ではなくアンプ部のアースラインとシャーシとをつなぐ。シャーシはアースではなく1個の部品であると考えてください(重要)。シャーシは通常はアースラインとつなぎますが、シャーシ自体はアースではありません。何故なら、シャーシは場所によってわずかに電位が違うのと、シャーシにはノイズの誘導電流が不規則に流れているからです。シャーシは一体の金属のかたまりだからどこも同じと考えたくなりますがそうではありません。
シャーシをアースにつないでおくと、シールド効果によってアンプ内部の回路を外部からの誘導ノイズから守ってくれます。そのためにシャーシとアースラインとを1ヶ所でつないでアースと同電位にしてやります。2ヶ所以上でつないでしまうと「アースループ」ができてしまうので、シールドどころかノイズ発生回路になってしまいます。
アースラインのどことシャーシをつないだらいいかですが、オーディオアンプの場合は「電源のリプル電流が存在しないところ」であればどこからでもかまいません。具体的には、「入力端子付近」、「アンプ部の左右共通のアースラインのどこか」、「出力端子付近」などが挙げられますが、入力端子付近が無難です。
1点アースの是非:
昔から言われているアースの実装法に「1点アース」があります。結論から申し上げると、オーディオ回路では1点アースは必要ない、むしろ有害であると考えています。電子回路では、アースライン上にあっちからこっちへ実にさまざまな電流が流れます。電源から供給される直流、電源に残留するリプル、入力信号電流、増幅回路内のさまざまな電流、出力信号電流などです。これらの電流ひとつひとつは発生源(=戻ってゆくところでもある)が異なり、一律に論じることはできません。優れたアースの実装では、これらについてきちんと考えて整理し、相互に干渉しないように、不具合が生じないように工夫して配線されています。そして、こういうアンプは非常に優れた低雑音性能や左右チャネル間クロストーク性能や高い安定度が実現できます。
1点アースは、こうしたことを全く考えないでとにかくすべてのアースを1点に集中させてしまおうというコンセプトに立っています。実際にやってみればわかりますが、完全な1点アースは物理的に不可能です。やむなく2点に分けるとしてどのように分けたらいいでしょうか。2点に分けるためには上記のさまざまな電流について考えなければならなくなります。適当に2つに分けて性能を確保することはできません。1点アースに似た考え方に「抵抗成分が無視できるくらいものすごく太いアース母線」にアースをつなぐという考え方もあります。電源やら増幅回路やら入出力のアースを手当たり次第アース母線につないでも、そこそこの性能は出せるかもしれません。
どちらの道を進むかはご自由ですが、本稿をお読みになった以上は、考えることを放棄しないで少しでも頭を使って実装に工夫されることを願っております。このことは良い音への近道でもあるからです。
それでもハムが出たら:
アースラインの取り方さえ間違えなければ、残留ハム0.1mVというレベルのメインアンプも夢ではありません。しかし、もし、それでもハムが出たら、微少信号経路のどこかが電源トランスから漏洩する磁束を横切るような配線になっていたり、真空管自体がヒーターハムを拾っていたり、あるいはそもそもリプル除去の設計が足りなかったか、といったアースライン以外の理由を疑わなければなりません。
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