私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 測定器その1 (アナログテスターとデジタルテスターとLCRメーター) |
アナログテスターとデジタルテスターとLCRメーターの比較
ネット上で非常に多く目にする質問のひとつに、どんなテスターを買ったらいいか、アナログテスターとデジタルテスターがどう違うのか、といった話題があります。テスターにはΩレンジが必ずついていて抵抗値の測定ができますが、テスターに似た測定器でLCRメーターがあり抵抗値だけでなくコンデンサ容量やコイルのインダクタンスも測定できます。そこで、これらの代表的なモデルについて比較表にまとめてみました。
比較項目 アナログテスター デジタルテスター LCRメーター 形状など
センター・ゼロで±表示できる便利な機能付きの変わり者。
超多機能だがカチャカチャと安っぽくてなんとなく使いにい廉価テスター(左)と、月並みな機能しかないが手触りが良くて使いやすい標準機(右)。
Agilentのスタンダードモデルのうち最廉価なU1731C。DCVレンジ 0.3Vくらいから1000Vくらいまで測定できる。
3V以下は正確に読み取れない。
内部抵抗は15kΩ/V〜30kΩ/Vくらい。
DC10Vレンジだと150kΩ〜300kΩしかない。
これで高インピーダンス回路を測定すると正確な電圧が得られない。0.1Vくらいから1000Vくらいまで測定できる。
内部抵抗は低いもので5MΩ、標準的なものは10MΩ。
高インピーダンス回路を測定してもかなり正確な値が得られる。機能なし。 ACVレンジ 1Vくらいから1000Vくらいまで測定できる。
3V以下は不正確で実用性なし。
内部抵抗は5kΩ/V〜10kΩ/VしかなくDCVレンジよりも更に低い。
高インピーダンス回路の信号電圧を正確に測定することはできない。0.1Vくらいから1000Vくらいまで測定できる。
1mVくらいの分解能があるので2〜3mVのハムに反応する。
但し、格安なものは3V以下で精度が著しく低下するなど信頼性が落ちる。
内部抵抗は低いもので5MΩ、標準的なものは10MΩまたはそれ以上。
高インピーダンス回路を測定してもかなり正確な値が得られる。機能なし。 周波数特性 100kHzくらいまで十分にフラットで、500kHzくらいまで伸びているものもある。
高い周波数で高めの値を表示するものがある。普通、精度が得られるのは400Hz〜1kHzどまり。
周波数特性の測定には適さない。
高域発振を発見できない。機能なし。 DCAレンジ オーディオアンプの測定では滅多に使用しない。 オーディオアンプの測定では滅多に使用しない。 機能なし。 Ωレンジ そもそも、測定値はいい加減で5%くらいの誤差はあたりまえ。
1Ω以下の測定は無理。
500kΩ以上ではどんどんアバウトになる。
測定レンジを切り替えるたびに「0ΩAdjust」調整をするのが煩わしい。10Ω以下では概略値しかわからず、1Ω以下はきわめて大雑把。
10Ω〜20MΩの範囲ならかなり正確に測定できる。「0ΩAdjust」は不要。
アナログテスターと比べたら圧倒的に正確。1Ω以下の低抵抗から200MΩくらいまでかなり正確に測定できる。
「0ΩAdjust」は不要。インピーダンス 機能なし。 機能なし。 1Ω以下から200MΩくらいまでかなり正確に測定できる。 キャパシタンス 機能なし。 機能なし。
多機能テスターには簡単なものがついていることがある。数pFから20,000μFくらいまでかなり正確に測定できる。
コンデンサのDCRも測定できる。インダクタンス 機能なし。 機能なし。 数十μHから2,000Hくらいまでかなり正確に測定できる。 表示 メーター式。
過渡的な電圧の変化の動きを目で追うことができる。デジタル式。
過渡的な電圧の変化がわからない。デジタル式。 レンジ切り替え ロータリー式のレンジ切り替えが必要。
±極性が逆だと針が振れない。
センターゼロで±表示が可能なモデルもある。スタンダードモデルならレンジは自動切換え。
±極性にかかわらず測定してくれる。スタンダードモデルならレンジはマニュアルおよび自動切換え。 価格 数千円〜1万円(あまり高価なものはない) 廉価品・・・5000円以下
標準品・・・1〜3万円
据え置き型・・・8万円〜20万円廉価品・・・5000円以下
標準品・・・2〜6万円
据え置き型・・・8万円〜20万円ごらんのとおりで全体としてはデジタル・テスターが有利です。
はじめて買うなら
自作アンプや自作電子回路の製作では、なんといってもDC電圧が正確であることが重要ですので、内部抵抗が高いデジタル・テスターに軍配があがります。DCVレンジの性能が劣ったアナログ・テスターをわざわざ選ぶ理由はないでしょう。性能的には秋月電子で扱っている2,000〜5,000円くらいの廉価なデジタル・テスターでもすれすれで最低限の用は足りると思います。しかし、テスターの性能というものはカタログ値ではわからないものです。廉価なものほど測定の実力がないくせに機能だけはたくさんついている傾向があります。廉価なデジタルテスターですと100Hzではまあまあ正確な値を表示しても、1kHzではとんでもない値を表示するものがあります。10Vではそこそこは正確でも、1V以下になると全然ダメなものがあります。安いものは安いなりにどこかに穴があるわけです。
モノづくりをする時の基本的な考え方として「道具にはいいものを揃えなさい」というのがあります。長く使うものですので持った感じとか、手ざわり、スイッチの感触なども結構重要ではないかと思いますので、実際に手に取って判断されたらいいでしょう。信頼できるメーカーの標準モデルは決して安くありませんが、基本機能の見えないところでとてもよく作られています。良いモノほど見かけでアピールするおまけ機能はないのです。
そこで、基本機能用途としてちょっといいお値段の標準機を購入し、多機能な廉価モデルを追加で持っている、というのが最も効率的ではないかと思います。テスターは2台あるととても具合がいいという側面があるからです。電源電圧を監視しながらバイアスを調整する、という風な使い方ができます。
デジタルテスターの電池切れにご注意
デジタルテスターはすべてのレンジが電池で動作します。その電池が切れてくると、画面に「電池が少なくなっていますよ」という表示が現れるのが普通です。これに気付かずに測定を続けていると、デジタルテスターの測定値が狂いはじめます。全く表示しなくなってくれたらいいと思うのですが、多くのデジタルテスターは知らぬ間に誤表示するようになってしまうのです。必ずスペアの電池を用意しておき、使う時は電池の残量をチェックしましょう。電池切れは忘れた頃に突然やってきます。
デジタル・マルチ・メーター
デジタル・テスターも本格的なものになると、手のひらに乗らない据え置き型になってきます。右画像は私の愛機ADVANTESTのポピュラーな64XXシリーズの中でもちょっと多機能なR6452Aというモデルです。一部の機能を2チャンネル分持っているために、同時に2ヶ所の電圧を測定したり、電流と電圧を同時に測定できます。もっとも、テスターを2台持っていれば同じことができますので必ずしもこんなものを持つ必要はありませんが。ただ、廉価なテスターと違って桁違いに高い精度での測定ができること、高精度で1秒間に数十回というサンプリングができること、ACVレンジの周波数特性がアナログ電子電圧計並みに優れていること(100kHz超まで実用になる)、そしてこれらデータをPCに取り込むことができることなど、値段だけのことはあるなあと思わせるものが(一応)あります。但し、アマチュアにとっては使わない機能がほとんどかも。
新品は大変高価ですが、校正して1〜2年以内の状態の良い中古がおすすめです。オークションに多数出ています。私は企業ユーザーの放出を扱っているここでよく買います。
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