私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編 トランジスタ増幅回路その4 (エミッタコモン1段増幅回路とそのAC動作) |
エミッタコモン1段増幅回路の例
右図はエミッタ共通回路を使った電圧増幅回路です。電源電圧は24V、コレクタ負荷抵抗は12kΩ、コレクタ電流は1mAで、ベース電流は4.2μAですからこのトランジスタのhFEは240ほどですね。DC動作については解説済みですので省略します。この例ではベースに±0.01Vの振幅の交流信号を入力し、コレクタから±4.62Vの出力を得ています。この時、ベース電流は±1.6μA変化し、コレクタ電流はベース電流の240倍すなわち±0.385mA変化しています。12kΩの負荷に対してコレクタ電流が±0.385mAの変化をしていますから、
(±0.385mA)×12kΩ=±4.62Vとなります。ついでながらこのデータからこの回路の入力インピーダンスも計算できますのでやっておきましょう。ベース電流及び入力信号電圧の変化からオームの法則を使って計算するとこのようになります。
(±0.01V)÷(±1.6μA)=6.25kΩそして次の章に出てくる式を使って計算すると、やはり同じ結果が得られます。
(26Ω÷1mA)×240=6.24kΩ※利得および入力インピーダンスの計算方法はこの後、トランジスタ増幅回路その5(利得と入力インピーダンスの計算法)で解説します。
電流と電圧の向き
回路図中の赤で囲んだ部分に注目してください。入力信号の波形と出力信号の波形を比べると、入力信号がプラスに振れた時、出力信号はマイナスに振れています。入力と出力とでプラスとマイナスが入れ替わっています。ベースがプラス側に振れるとベース電流が増加します。ベース電流が増加するとコレクタ電流も増加します。コレクタ電流が増加するとコレクタ負荷抵抗(12kΩ)で生じる電圧降下が大きくなって12Vだったコレクタ電圧は低下します。というわけでベース入力がプラス側に振れると、コレクタ出力側はマイナス側に変化します。この動きを表にしたのが左下で、図にしたのが右下でこれをロードライン(負荷線)と言います。
ベース入力電圧 コレクタ電流 コレクタ電圧 -0.026V 0mA 24V -0.01V 0.615mA 16.62V 0V 1mA 12V 0.01V 1.385mA 7.38V 0.026V 2mA 0V※ ※トランジスタのコレクタ〜エミッタ間飽和の制約があるため0Vにはならず0V〜0.5Vの間のどこかになります。それでも真空管に比べれば圧倒的に低い値です。
入力と出力の極性が逆転するこの増幅回路の性質は、トランジスタだけではなくFETや真空管でも同じです。エミッタ共通1段の増幅回路は必ず反転増幅器になり、2段にすると元に戻るので非反転増幅器になります。
何故、コレクタ電圧は電源電圧の1/2なのか
ところで、上記の回路では電源電圧が24Vで、コレクタ電圧はその半分の12Vになっていますが、何故12Vなのでしょうか。これらの電圧はどうやって決めるのでしょうか。上の図で、ベースに±0.01Vの振幅の信号を入力した時、コレクタ側には±4.62Vの振幅が現れました。信号が入力されていない時のコレクタ電圧は12Vで一定ですが、±4.62Vが出力されている時のコレクタ電圧は、12Vを基点として最も低い時は7.38Vになり、最も高い時は16.42Vになります(右図)。コレクタ電圧の振幅の下限は0Vで上限は24Vです。限られた電源電圧を最も有効に使ってできるだけ大きな振幅を得るためには、基点を電源電圧の1/2に設定するのが基本です。与えられた電源の条件の中で最大の振幅を得ようとするパワーアンプや最大出力電圧の大きさが要求されるアンプはこの考え方で設計します。
しかし、実際の回路動作では必ずしも1/2がベストポイントとなるわけではありません。トランジスタは、コレクタ〜エミッタ間電圧がかなり低くなっても動作しますがそれにも限界があるため、コレクタ電圧は0Vになることはありません。このことをトランジスタのコレクタ〜エミッタ間飽和と言います。コレクタ〜エミッタ間飽和の領域に近づくとhFEがどんどん低下してきます。どれくらいの電圧で飽和してしまうかは、トランジスタによって異なり、動作条件によっても変化します。さらに、後続する回路の負荷の状態や他の要因によってもベストポイントは電源電圧の1/2からずれたところになることがあります。
大振幅を必要としない小信号を扱う回路では、1/2からかなりずれたポジションであっても不都合が生じることはありません。パワーアンプやプリアンプの初段がこれに該当します。この種の回路では、より高利得が稼げる動作や雑音が少なくなる動作など、より重要視したい別の要因によって動作条件が決定されます。
コレクタ負荷を変えてみる
コレクタ電流値(1mA)はそのままにしておいて、コレクタ側の抵抗値(コレクタ負荷抵抗)が12kΩではなくて、別の値だったら以下のようになります。なお、コレクタ負荷抵抗の大きさに合わせて電源電圧を変えてありますが、電源電圧が変わってもトランジスタ自身の特性は変わりませんので、ここでは電源電圧の違いは本題ではありません。
コレクタ負荷抵抗 100Ω 1kΩ 10kΩ 12kΩ 22kΩ 電源電圧 1V 2V 20V 24V 44V コレクタ電圧(IC=1.385mAの時) 0.8615V 0.615V 6.15V 7.38V 13.53V コレクタ電圧(IC=1mAの時) 0.9V 1V 10V 12V 22V コレクタ電圧(IC=0.615mAの時) 0.9385V 1.385V 13.85V 16.62V 30.47V コレクタ電圧の振幅 ±0.0385V ±0.385V ±3.85V ±4.62V ±8.47V 入力信号の振幅 ±0.01V(±10mV) 利得 3.85倍 38.5倍 385倍 462倍 847倍 この表からわかること、それは同じコレクタ電流で動作させた場合は、利得はコレクタ負荷抵抗の大きさに比例するということです。コレクタ負荷抵抗を大きくするとコレクタ負荷抵抗での電圧降下が大きくなりますから、電源電圧を高く設定してやらないと動作できません。つまり、トランジスタ回路では、電源電圧が高いほど利得を稼ぎやすいということが言えます。
なお、電源電圧が低くてもみかけ上のコレクタ負荷抵抗を大きくさせる回路手法がありますが、これについてはいずれ機会を設けて解説します。
工事中
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