私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その12 (hFE問題)

電流増幅率(hFE)基本特性

電流増幅率(hFE)は、トランジスタのベース電流(IB)とコレクタ電流(IC)の比率ことです。hFEの値はさまざまで、小さいトランジスタではせいぜい10くらい、最も一般的な値は100〜500くらい、大きいものでは1000くらいあります。ベース電流はコレクタ電流を支配しています。hFE=200のトランジスタの場合、1Aのコレクタ電流を流すためには5mAのベース電流が必要です。いいかえると、5mA程度の電流変化で1Aもの電流を制御できるのがトランジスタというわけです。

下図は2SC1815(左)と2SC3421(右)のデータです。


個体差

上の2SC1815のデータを見ると、2SC1815のhFEは25℃の常温で140くらいと読み取れますが、実際に2SC1815のhFEを測定してみると140だったり220だったり350だったりします。トランジスタを製造するといろいろなhFE値のものができてしまうのです。そこで半導体メーカーは、出来てしまったいろいろなhFE値のトランジスタを測定して大雑把に分類して分類コードを印字して出荷します。

東芝では分類コードを「O、Y、GR、BL」という風につけています。OはOrange、YはYellow、GRはGreen、BLはBlueの頭文字です。抵抗器のカラーコードでは、0=Black、1=Brown、2=Red、3=Orange、4=Yellow、5=Green、6=Blue、7=Purple、8=Grey、9=Whiteとなっていますが、それと同じ順序なのが面白いです。

2SC1815のhFEは、O=70〜140、Y=120〜240、GR=200〜400、BL=350〜700の4分類です。GRを買ってきたら200かもしれないし400かもしれないわけです。実際に測定してみると最低で210、最高で380がありました。データシートのhFEグラフはあくまで代表値にすぎません。しかし、このグラフからは2SC1815のhFEがどんな傾向を持っているのかはわかります。

なお、コンプリのお相手である2SA1015は、O、Y、GRの3分類でBLランクはありません。しかも、GRランクを実測すると210〜250くらいがほとんどで300以上の2SA1015は出会ったことがありません。おそらく2SA1015に関してはhFEが高いものは作れないのだろうと思います。


温度特性

上の2つのデータには、温度が-25℃、25℃、100℃の3つのケースが載っており、温度が高いほどhFEは大きいことがわかります。hFEは温度依存性が高いので、回路設計上および実装上それなりの配慮が必要です。非常に低温の環境で動作させる場合は、hFEが低下しても問題が生じないような工夫がいります。


コレクタ電流依存

hFEはコレクタ電流によって値が変化し、コレクタ電流が多くても少なくても低下するという一般的性質があります。上の図を見ると、2SC1815ではコレクタ電流が100mA以上で低下しますし、2SC3421でも200〜300mA以上でどんどん低下してきます。

ここで注目していただきたいのは、コレクタ〜エミッタ間電圧(VCE)の値です。2SC1815の場合、VCE=5Vの時はコレクタ電流が100mAまではhFEの低下はみられませんが、VCE=1Vではコレクタ電流が40mAでhFEの低下がはじまります。トランジスタは、コレクタ〜エミッタ間電圧に余裕がないと、大電流で一定のhFEを維持できなくなるのです。このことをコレクタ飽和特性といいます。ところが、回路の多くはコレクタに大電流を流す時ほどコレクタ〜エミッタ間電圧は小さくなります。パワーアンプの出力段のSEPP回路はその代表ですし、リレー駆動回路も同様です。

上の2SC3421のデータによると、コレクタ電流が400mAくらいまでなら使えそうに思えますが、パワーアンプの出力段で使用した場合はコレクタ電流を多く流したい時ほどコレクタ〜エミッタ間電圧が低くなった状態になるので、実用的なコレクタ電流は100mA〜200mA程度しかないとみていいでしょう。2SC3421のデータシート上のコレクタ電流の最大定格は1Aですが、現実には1Aでの動作は期待できないということです。コレクタ電流の最大定格は「トランジスタとして使い物にならなくなる境界値であってこの値での実用性はない」と思ってください。

下図は2SC1815(左)と2SC1775(右)のデータです。2SC1815はコレクタ電流が少なくなってもVCEは変化しないですね。これは全く特別なことでして、2SC1815というトランジスタの特徴でもあります。普通は2SC1775のように、コレクタ電流が少なくなるにつれてhFEも小さくなります。このグラフを見ると2SC1815は直線性が良くて低歪みなのではないかと思ってしまいそうですがそれは錯覚&勘違いで、増幅回路として使った時の直線性が良いわけではなく、これで増幅回路を組んだ場合の歪率は2SC1815も2SC1775も同じになって有意な差はありません。トランジスタを微小電流で使用する場合はデータシートをチェックして選んだトランジスタが適切かどうかを判断してください。


下図はコンプリの2SC1815(左)と2S1015(右)を比較しやすいように縦のスケールを揃えて並べたものです。注目していただきたいのは点線すなわち、飽和状態でのhFEのヘタり具合です。VCEが1Vまで落ちた状態では、2SC1815はコレクタ電流は40mA以上でhFEは急激に低下しますが、2SA1015は100mAでもあまり低下しません。一般的にPNPトランジスタの方が飽和特性は優れているのです。


hFEの影響を受けない回路設計

hFEが変動すると、増幅回路のDC動作のバランスが変化したり、入力インピーダンスなどAC動作のバランスが変化します。増幅回路では前段の利得に影響を与えます。hFEは個体差が非常に大きく、しかも温度やコレクタ電流値によっても変化します。それでも回路が安定した性能を出すためには、hFE値が変動しても影響を受けないような回路設計の工夫が要求されます。


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