私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編 トランジスタ増幅回路その19 (定電流回路・定電圧回路) |
定電流ダイオードとトランジスタ回路
定電流特性を持っているダイオードがあります。2SK30AなどのJFETも定電流特性を持っています。トランジスタを使った簡単な回路でも優れた定電流特性を得ることができます。いずれも約4mAの定電流特性を得ています。4以下の6つの回路について解説します。
(1)石塚電子のE452一本による定電流回路です。6V以上の動作電圧を与えてようやく定電流らしい特性が得られます。
(2)2mAのCRD(石塚電子E202)を2個並列にしたものです。定電流回路は複数を並列にできます。CDRは電流値が少ないものほど低い動作電圧から定電流特性が得られるため、このようにすると動作電圧が4Vくらいでも定電流特性が得られます。
(3)2SK30-GRランクでIdssが約4mAのもののゲートとソースをつないでいます。CRDとJFETは同じ構造なのでこのような使い方ができます。定電流特性はJFETを流用した方が優れています。
(4)FET差動ヘッドホンアンプで使用している定電流回路です。2個のNPNトランジスタを使った帰還型です。左側トランジスタのために別の電源(V2)が必要です。定電流値は、左側トランジスタのVBEとそこに入れた抵抗値で決まります。VBEに依存するので温度的な安定性は今一つです。動作電圧は1Vあれば非常に優れた定電流特性が得られます。
0.66V / 150Ω=4.4mA(5)2個のシリコンダイオードと1個のNPNトランジスタを使ったシンプルかつ標準的な定電流回路です。2つのダイオードの順電圧の合計からトランジスタのVBEを引いたものとエミッタ抵抗値で定電流値が決まります。ダイオードの順電圧に依存しているので温度的な安定性は(4)と同程度です。(4)の帰還型よりも少しだけ低い動作電圧になっています。0.52V / 120Ω=4.3mA(6)エミッタ側に抵抗を入れた方式のカレントミラーによる定電流回路です。定電流値は左側トランジスタのコレクタ電流に比例して変化しますから、この回路自体が定電流特性を持っているわけではありません。定電流性能はV2の電圧の安定性に依存します。6つの中では最も低い動作電圧になっています。エミッタ抵抗値をさらに小さくしてゆけば、もっと低い動作電圧でも定電流特性は得られます。0.45V / 110Ω=4.1mA
温度特性が良い定電流回路
右図は、6AH4GT全段差動PPアンプの定電流回路でとても丁寧に設計されています。全段差動PPアンプの1号機として手を抜きたくなかったのでしょう。2mAのCRDによって6.2Vの定電圧ダイオード(ZD)に基準電圧が生じます。途中にシリコン・ダイオードが割り込んでいますから、トランジスタのベースに与え得られる電圧は6.8Vです。エミッタ電圧は6.2Vなりますからエミッタ電流は、6.2V÷100Ω=62mAになります。hFEが100だとするとベース電流は0.62mAですからCRDが供給する2mAのうちZDに回せるのは1.38mAです。hFEにバラつきがあってもZDに十分な電流が回せるようにしてあります。 定電流値は63.38mAです。
トランジスタのVBEもZDも温度変化に敏感です。この回路では、温度が上昇すると定電流値が増えます。ベースのところに入れたダイオードは、VBEの温度変化を打ち消す働きがあります。ZDは、5V付近のものが温度特性がニュートラルになるので手持ちの中から5Vに近いZDを選んでいます。
定電圧ICを使った定電流回路
TL431という定電圧ICがあります。メーカーのテクニカル・ドキュメントに定電流回路の例が載っているのでご紹介しておきます。左下の回路は、外部電源を必要としない自己完結型の定電流回路です。但し、Rzがあるために定電流性能は劣ります。Rzを定電流ダイオードに置き換えれば本当に定電流回路と呼べるようになります。それから図中の計算式はアバウト過ぎます。正しくは以下のようになります。
定電流値=(2.5V÷RCL)+CRD−ベース電流この回路は、TL431を3.1Vの定電圧ダイオードに置き換えたものと同じと言えますが、温度特性はTL431に負けないくらいいい勝負をしますし、帯域特性は定電圧ダイオードを使った方が圧倒的に優れています。3.1Vの定電圧ダイオードの温度特性は-1.9mV/℃ですからトランジスタのベース〜エミッタ間電圧の温度特性と見事に打消しが行われるのです。
右上の回路は、別電源を使っていますが、動作の仕組みは左上の回路と同じですから、TL431を3.1Vの定電圧ダイオードと置き換えできます。図中の計算式は正確には以下の通りです。
定電流値=(2.5V÷RCL)−ベース電流
3端子レギュレータを使った定電流回路
右図は、3端子レギュレータ"LM317T"を使った定電流回路です。「out〜adj」間に抵抗(R)を1本入れただけで定電流回路になってしまいます。LM317Tの「out〜adj」間電圧は「1.25V±0.05V」で一定なので、定電流特性は、抵抗「R」の値で一意に決定されます。定電流特性(A)=1.25V÷R(Ω)または、
定電流特性(mA)=1.25V×1000÷R(Ω)右図は、LM317Tの実測データです。4mAから38mAまでの範囲で測定しました。手持ちの抵抗の組み合せによる簡易計測なので、動作電流値が38mAどまりだったり、測定点がまばらですが、ご容赦ください。定電流特性を決定する抵抗値と、計算上の電流値は以下のとおりです。
抵抗値 定電流特性 300Ω 4.17mA 200Ω 6.25mA 150Ω 8.33mA 100Ω 12.5mA 75Ω 16.7mA 56Ω 22.3mA 33Ω 37.9mA 測定結果によれば、最低動作電圧は、10mA以下で3V、20mA以上では4Vが必要です。それ以下では、定電流特性が得られなくなります。充分な動作電圧が与えられて定電流動作領域にはいると、非常に優れた定電流特性を示します。
今回、さぼって測定しなかった40mA以上および10V以上の領域での特性は、そのうち、機会を見つけて測定しようと思っています。まずは、得られたデータだけでもと思ってアップしました。
使用上の注意:(1)定電流素子としてはかなりノイジーですので、プリアンプなどデリケートな信号を扱う用途には適しません。低雑音性能が要求される用途では、トランジスタを使った定電流回路を組むことを推奨します。
(2)使用条件によっては自己発振することがありますが、どんな原因で発振するのか原因がはっきりしません。多くのメーカーが製造しており、安定度において各社ごとに微妙な違いがあるようです。安定性に問題が生じた場合は、メーカーを変えてみるといいかもしれません。
(3)オークションなどで中国製の劣悪な偽物が出回っています。まともなものを普通に購入しても100円〜200円で入手できますので、つまらないところでケチらないようにしましょう。
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