私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
スピーカー端子のCR・・・Zobelネットワーク

オーディオアンプのスピーカー出力についているCR:

パワーアンプのスピーカー出力側には、10Ω程度の抵抗器と0.01〜0.22μFのコンデンサを直列にしたものがついている回路をよく見かけます。下の3つは当サイトにおける作例です。私のパワーアンプでは、このCRが付いている回路と付いていない回路とがあります。今回はこのCRのお話です。

このCRのことを提唱者ゾーベルの名をとってゾーベル・ネットワークと言います。ゾーベル・ネットワークは非常に広い概念で、ここで取り上げるパワーアンプのスピーカー出力に付いているゾーベル・ネットワークはその一形態に過ぎません。詳しい説明はWikipediaにありますので是非お読みください。

Zobel Network(Wikipedia)


Zobel Networkとは:

Zobel Networkを一言で言うと、「Constant Resistance Network」すなわち抵抗値(インピーダンス)が一定になるような回路(ネットワーク)です。電子回路のインピーダンスは周波数によって変化し一定ではありません。真っ直ぐなただの銅線もリードインダクタンスがあるために高い周波数ではインピーダンスが上昇します。2本の銅線が接近すればキャパシタンスが生じます。

電子回路では、さまざまな理由によって周波数ごとに電気的な特性は変化し一定にはなりません。そのために、ある周波数で発振するなど回路動作に不具合が生じたり、十分な性能が出ないことがあります。これを一定に保つための回路がZobel Networkです。


スピーカーのインピーダンスの実際:

スピーカーを電気的にみると、数Ωの抵抗器とコイルが直列になったものとみなすことができます。フルレンジ・スピーカーの場合は、周波数が高くなるにつれてインピーダンスはどんどん高くなってゆきます。左のグラフは、銘柄不明のフルレンジスピーカー(公称インピーダンス8Ω)とRogers LS3/5A(公称インピーダンス15Ω)の実測データです。右のグラフはaudio pro ALLROOM SAT(公称インピーダンス8Ω)の実測データです。

2Way以上のスピーカーの場合、ディバイディング・ネットワークの方式によってはLS3/5Aのように高い周波数でもインピーダンスが上昇しないこともあります。しかし、多くのスピーカーは周波数が高くなるにつれてインピーダンスは高くなります。アンプを設計する上で知っておかなければならないのは、スピーカーをつないでいても高い周波数では無負荷に近い状態になりうるということです。


多量の負帰還をかけたアンプ:

アンプに負帰還をかけると、高い周波数での安定を確保するために位相補正が必要になります。そんな時、高い周波数で無負荷状態になってしまうと、安定の確保は更に難しくなります。ダミーロードでチューニングした時はOKだったのに、スピーカーをつないだら発振したということが起こるわけです。このようなアンプは、スピーカーをつながない状態で電源を入れただけで発振します。

こんな時威力を発揮するのがZobel Networkです。Zobel Netorkはオーディオ帯域では無視できるくらい高いインピーダンスを持ちますが、100kHzあるいは1MHz以上の周波数帯域ではスピーカー並みの(あるいはそれに近い)値になります。例えば、「0.022μF+15Ω」の場合、1kHzでは7.2kΩもありますが、1MHzでは22Ωくらい、2MHzでは19Ωです。これくらいなら高い周波数帯域で負荷がオープンにならずに済みます。帯域が狭い真空管アンプでは0.047〜0.1μFあたりが選ばれることが多いようです。Zobel Networkは、負帰還アンプの必需品とも言えます。

なお、本サイトの作例の中には、多量の負帰還をかけているのにZobel Networkをつけていないアンプが多数あります。それはZobel Networkを必要としないほど高域における位相が安定しているからです。


よくある質問:

「出力トランスを使った真空管アンプで、8Ω側にZobel Networkがついています。4Ωのスピーカーを使いたいのですが、4Ω側にもZobel Networkをつける必要があるでしょうか。」

出力トランスの8ΩタップにZobel Networkをつけたことで、非常に高い周波数帯域で負荷がオープンにならない状態が作り出されています。このアンプに何Ωのスピーカーをつなぐかはどうでもいいことなのです。


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