私のアンプ設計マニュアル / 雑学編 抵抗器 |
私の心のなかにはどういうわけか「抵抗器なんかで音が変わってたまるか。」という思いが渦巻いています。なぜ?ときかれてもうまく答えられません。電気いじりをはじめて四十年たちますが、いつのまにかこのように考えるようになってしまいました。というわけなので、抵抗器をどこそこのに変更したら、どうなった、こうなったといった話題には今も関心がありません。私のアンプに使われている抵抗器といったら、秋葉原で1本5円で売られている1/2W型か、以前ジャンク屋で大量購入した抵抗器が中心です。低雑音性能が要求される箇所には1本10円の金属皮膜を使っています。世間には、1本100円以上もするものもさまざまありますし、抵抗1本も吟味している方もいらっしゃるので、人すきずきであるなあくらいに考えるようにしています。もし、このページを読んでいらっしゃるあなたが私のような考えでしたら「ああ、似たような考えの奴もいるもんだ。」と共感でもしていただければうれしいです。
コンデンサや半導体等の他デバイスと比較して、抵抗器の特性が周波数への依存度が低いということは事実です。カーボン皮膜抵抗の場合、1MHzあたりではインピーダンスはまったくといっていいほど平坦ですし、100KΩ以上の高抵抗では数十MHzあたりから徐々に容量性の原因によるインピーダンス低下がはじまりますが、低抵抗ではまだまだ平坦です。オーディオ回路では、抵抗器の持つ容量よりも配線上の線間容量の方がはるかに大きいので、抵抗器の周波数特性はほとんど無視してもかまわないでしょう。ただし、1Ω以下の抵抗値でMHzの領域では、抵抗器が持つインダクタンスが無視できなくなってくるので、半導体回路では要注意です。
巷では、巻き線抵抗のインダクタンスが議論され、セメント抵抗などは音が悪いとよく言われますが、真空管回路においては私は気にしないことにしています。確かに、こまかいことを言えばセメント抵抗も内部は巻き線抵抗ですし、抵抗体がぐるぐるとコイル状に巻かれているわけでインダクタンスも気にはなりますが、回路インピーダンスが高い場合は相対的に影響度合いが小さく、他の部品や回路の問題の方がはるかに大きいということで割り切っています。
抵抗器のストック:
精度が5%の抵抗器の値の系列は、1、1.1、1.2、1.3、1.5、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.7、3.0、3.3、3.6、3.9、4.3、4.7、5.1、5.6、6.2、6.8、7.5、8.2、9.1の24種類があります。値は色で識別するようになっていますから、一目で何Ωだか何KΩだかわかるようにすべて暗記することは絶対必要です。100Ω〜1MΩの間には全部で24×5+1=121種類の値が存在します。1本5円の1/2W型をそれぞれ10本ずつ買い求めたとして、5×10×121=6050円かかります。というわけで6050円の初期投資をしてすべての系列をストックするようにしたらいかがでしょう。100KΩ等消費量の多い値のものはすこし余分にストックを持つようににします。数が減ったらたまに秋葉原出かけて買い足します。こうすることで、いつでも思い立ったらすぐに、どんな実験でも改造でもできるようにしておくわけです。問題は、このたくさんの種類の部品(抵抗器)をどうしまっておくかですが、釣り具屋さんで売っている毛鉤用のプラスチック・ケースがたいへん具合がいいです。2〜4種類ずつまとめて1つの桝目にいれておきます。
アンプを作る場合、ステレオ構成では2本または4本といった偶数本で揃えたくなります。そのとき、ストックのなかから値が良くそろったペアを選別します。10本もあれば精度1%くらいのペアは簡単に見つかります。1本5円ですから、総額50円の予算で1%精度のペアが組めるわけで、高価な1%級を買い求める必要はなくなります。選別から漏れた抵抗器も、いずれ使われるわけで決して無駄にはなりません。ステレオ・アンプの場合、絶対精度が必要なケースは滅多になくて、相対精度さえとれていれば充分だという点がミソです。
ストックを持たなかった頃は、部品購入リストを片手に秋葉原を駆け巡って部品を買い求め、家に帰って「さあ、作るぞ。」と腕まくりをして部品をチェックすると、たいてい抵抗器のもれが見つかったりしてガックリきたりしていました。ストックのある今は、こういう失敗はすっかりなくなりました。
(今は、E24系列のほとんどすべての抵抗値について100本単位でストックしていますが、こういう阿呆なことは真似してはいけません。こういうのを「無駄な抵抗はやめなさい」というんだそうです。)
電力容量:
さて、1/2W型の抵抗器にはどのくらいの電力まで食わせることができるのでしょうか。1/2Wすなわち500mWまで大丈夫なのでしょうか。大丈夫といえば大丈夫なのですが、実際に1/2W型にほんとうに1/2Wを食わせると大変な高温になってくれます。100度をこえてしまうのです。最近の抵抗器は、耐熱性が高まってより小型化されたため、定格容量時の温度は昔よりも相当に高くなっています。いくら小型化されても、発生する熱量は変わりありませんから、同じ電力容量なのに妙に小型の抵抗器の場合はかえって要注意です。問題は、その抵抗器が大丈夫かどうかよりも、その抵抗器の熱によって周囲がどのくらい迷惑するのかにあります。はやい話が、抵抗器は別名「電熱器」であって熱が出てあたりまえ、構造も簡単で化学反応の影響もあまりありません。一方で、アルミ電解コンデンサや半導体のように熱が苦手な部品もたくさんあります。電子部品の多くは、周囲温度が25度のときを基準にしていますが、アンプのシャーシの内部が25度なんていうことはまずありえません。もっと高温になります。
ですから、抵抗器の温度はできるだけ低くおさえるというのが電子機器製作の基本です。回路の設計も重要ですが、熱設計の方がもっと重要だと考えてください。アンプの設計は、1に熱設計、2にアース設計、それから回路設計です。最近、職場のパソコンやサーバがよくイカレますが、中を開けてみてびっくり。巻き線抵抗器とトランジスタが接触しかけていたり、トランジスタの放熱フィンの上方に電解コンデンサがあったり、もうむちゃくちゃです。家庭電器製品のトラブルの大半は、熱設計のずさんさが原因です。そういえば、熱設計にミスがあって火事になったテレビが話題になったことがありました。回路設計は経験が未熟でもなんとかなるもんですが、熱設計とアース設計は現場での熟練と大人の気配りがないとできません。電器製品の中を開けてみれば、設計者の姿が浮かんでくるというものです。
私の場合、抵抗器の電力には25%すなわち4分の1のディレーティングをかけるようにしています。1/2W型の抵抗器には125mW以上の電力を食わせないようにするわけです。もし、200mWを食わせたいような場合には1W型を割り当てます。やむを得ず30%くらいになってしまう場合には、その抵抗器の上方に熱に弱い部品が配置されないことの確認と、熱気の出口を確保をするようにしています。また、熱の大半はリード線を伝わってゆきますので、発熱の激しい抵抗器のリード線の近くに半導体等の熱に敏感なデバイスを配線しないような配慮も必要です。この基準は、アンプの安定性と寿命と性能の維持の上でたいへん重要です。
また、抵抗器の両端子間にかかる電圧が350V以上になる場合は、消費電力にかかわらず1W型以上を割り当てます。
寿命:
抵抗器は劣化しにくく、故障らしい故障を起こしにくいため、一般に長寿命です。しかし、カーボンを使用した抵抗器の場合、長期にわたった使用と熱によって抵抗値が変化するものもあります。特にソリッド抵抗は抵抗値は著しく上昇します。古いアンプから部品取りをしたような場合、抵抗値が相当に狂っていることがありますので、一旦、半田の熱を受けた抵抗器は再利用しないで処分するのが賢明です。一度でもかなりの高温にさらされた抵抗器では、印字(があるものでは)が薄くなっていますのですぐにわかります。
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