私のアンプ設計マニュアル / トラブル・シューティング編 2.イカれる部品 |
工事中
抵抗器
近年、抵抗器そのものがこわれるということは滅多になくなりました。基本的に、抵抗器は「こわれない」部品だと考えていいでしょう。しかし、非常に古いタイプのカーボン抵抗器では、カーボン抵抗体と結線部分とがはずれてしまう、という故障もありました。キャップ部分が抜けやすかったり、接触不良によるボソボソ・ノイズが出るものがかなりありました。ソリッド抵抗では、経年変化によって抵抗値が徐々に上昇してゆく性質があるのと、非常な高温にさらされた場合にも抵抗値はかなり上昇することがあるので要注意です。古いアンプのレストアをするような場合は、すべての抵抗について抵抗値を確認することをおすすめします。部品の不良よりも設計や製作過程におけるトラブルの方が多いように思います。よくあるのがカラーコード表示の読み間違いによるミスというやつで、いちばん多いのが「桁」を間違えるというパターンです。「橙」と「黄」を間違えると、10kΩだと思ったのが、実は100kΩだったりするから厄介です。蛍光灯やLED電球はスペクトルが偏っているために正しい色が出ないので見誤りが起きやすいのです。秋葉原等のパーツ屋の店頭では、抵抗値ごとに引き出し別に管理・分類されていますが、この引き出しの中にあるやつが結構デタラメなのです。誰かが取り出して戻す時に引き出しを間違えたり、おっちょこちょいの店員が100本ゴッソリ間違えて入れてしまうわけです。抵抗器を購入する時は、1本1本目で確かめましょう。アンプに実装する時も、念の為にテスターで測定して確かめるのが基本です。
コンデンサ
コンデンサも、抵抗器に次いで不良品というのはなくなってきています。むしろ、容量値や耐圧の見間違いといった人為的なミスの方が圧倒的に多いといえます。特に厄介なのが、「pF」や「μF」で表示されていない場合で、値の読み間違いによるトラブルは非常に多いと思います。表示されている定格値の読み方は、「4.コンデンサの種類と使い方・・コード表示の見方」を参照してください。電解コンデンサやタンタル電解コンデンサの実装時の極性ミスにも注意がいります。特に、タンタル電解コンデンサは、ほんのわずかな逆電圧をかけただけでもショートモードの破壊に至ることがあります。通常のアルミ電解コンデンサが、短時間であれば数Vまたはそれ以上の逆電圧に耐えるのと対照的です。
フィルムコンデンサでは、絶縁の低下トラブルが意外に多く「バイアスの様子がおかしい」と思ったら、前段との間にあるカップリング・コンの絶縁低下が犯人だったということがよくあります。老朽化した電解コンデンサも、漏れ電流値が極端に増加している場合があります。電解コンデンサは、その性質上、経年変化とともに電解液が抜ける性質があります。これは宿命的なものなので避けることができません。20年以上前に製造されたアンプのコンデンサは信頼性が低下していると思っていいでしょう。30年以上前のものであればすべて新品と交換(リキャップという)するのが基本です。
スイッチ類
スイッチのトラブルのほとんどは接点の導通不良です。オーディオ信号回路で導通不良が生じると、音が歪む、音がいがらっぽい、ざらざらした音、音が途切れる、音が出ない・・・といった症状が出ます。スイッチの接点には銀あるいは銀合金のメッキが施してありますが、銀は腐食しやすいのでいつまでも安定した導通を維持できません。電源スイッチのように、高電圧、大電流で使った場合は、ON/OFFのたびに生じるスパークによって接点に付着した汚れや腐食を吹き飛ばしてくれますが、微小信号を扱うスイッチではそれが起きませんのでかえってトラブルが生じやすいのです。ロータリースイッチやスライドスイッチのように接点部分がこすれるタイプのスイッチでは、操作するたびに接点がクリーニングされるので、長期に安定した接触が得られやすいです。逆に、電圧定格オーバー、電流定格オーバーで使用すると、接点の消耗が激しすぎて速い時期に接触不良が生じます。スイッチの電圧&電流定格は交流でしかも純抵抗負荷における値が表記されていることが多く、直流の場合や誘導負荷(トランスやコンデンサが絡んだ回路)や電球やヒーター負荷では定格値はかなり低下します。
ロータリースイッチでは、使っているうちに、止めナットがユルんできます。スイッチには回転止めのストッパーの出っ張りがついていますから、シャーシ(あるいはパネル)加工の時に、面倒臭がらずにストッパー用の穴もちゃんと空けてください。また、ナットのユルミを防ぐためにペイントを塗っておきます。
可変抵抗器
可変抵抗器(ボリューム)は、初期故障が多いのが特徴です。新品の状態からすでにガリガリとノイズの出るものもあります。また、「min」の状態で「ゼロ」に絞れないものもかなりあります。可変抵抗器を購入したら、軸を左右両方に廻しきった状態で、それぞれ何Ω(理想的には0Ω)なるのかをチェックします。また、使用しているうちに、ノイズが出るようになってきますが、接点復活剤は無力だと思った方が賢明です。B型ボリュームは、抵抗値の変化が回転角度に対して直線的だというのが建前ですが、実測してみると「直線に近いS字カーブ」になっています。ステレオで使う2連ボリュームは、必ずしも左右できれいに揃った抵抗値ではなくかなりばらつきがあるものです。
半固定抵抗器は普通の可変抵抗器(ボリューム)よりも耐久性に劣りますので、頻繁にいじっていると案外早い時期に接触不良になったり、抵抗値がふらつくようになります。
可変抵抗器(ボリューム)もロータリースイッチ同様、使っているうちに、止めナットがユルんできます。回転止めのストッパーの出っ張りがついていますから、シャーシ(あるいはパネル)加工の時に、面倒臭がらずにストッパー用の穴もちゃんと空けてください。また、ナットのユルミを防ぐためにペイントを塗っておきます。
ダイオード
ダイオードのトラブルの最も多いのは、実装時に逆向きに取り付けてしまうというミスです。電源の整流回路でこれをやってしまうと、電源スイッチをONにした途端にヒューズが吹き飛びます。電源用のシリコンダイオードは非常にタフな半導体ではありますが、たまに壊れてくれます。半導体の常として、音も無く、あっという間に駄目になります。最も多いのは、オープン・モードの破壊ですが、たまにショート・モードというこわい壊れかたをすることがあります。ヒューズが飛ぶか、電源トランスから煙が出ますから、すぐにわかります。
電源用の整流ダイオードは、大きさの割に発熱量が大きく、徐々に熱疲労による劣化が進行します。我が家には数年おきに故障するCDプレーヤがありましたが、壊れるのはいつも電源の整流ダイオードでした。基板を見てみると高温になるパワートランジスタの熱が直撃する場所に実装されていました。
ダイオードそのものはちゃんと動作しているのに、年数とともに順電圧だけが上昇するという現象を何度か経験しています。これが問題になるのは大電流を扱うヒーターの直流点火の場合です。順電圧が上昇するとダイオードで消費する電力が大きくなり温度が上昇しますから、劣化が加速していたのだと思います。
トランジスタ
トランジスタの破壊は、もっぱら耐圧オーバーと許容損失オーバーによって生じます。トランジスタの耐圧は、ベース〜コレクタ間耐圧(VCBO)、エミッタ〜コレクタ間耐圧(VCEO)、ベース〜エミッタ間耐圧(VEBO)の3つで規定されています。VCBOとVCEOは、回路の異常が原因で電源電圧がそのままかかってしまい破壊に至ります。そのようなことが起きても被害が拡大しないためには、採用するトランジスタの耐圧が電源電圧よりも高い物で揃えるという方法があり、メーカー製のアンプではよく行われています。
VEBOは、ベース〜エミッタ間にかかる逆電圧のことです。NPNトランジスタの場合、正常に動作している時はエミッタよりもベースの方が約0.6V高くなりますが、ここに5V以上の逆電圧がかかるとトランジスタは破壊します。どんな時のこれが生じるかというと、ベースに過大なオーディオ信号が入力された場合がその代表です。
右の回路はライン出力のバッファアンプですが、出力段のトランジスタのベース〜エミッタ間に逆方向にダイオード(1S2076)が入れてあります。このダイオードがあれば、出力がショートした状態でトランジスタのベースに過大な信号が入っても、ダイオードが回路をバイパスとなってベース〜エミッタ間に過大なマイナス電圧がかかることを防げるわけです。この回路のようなダイオードを見かけたら、VEBOの耐圧保護だと思っていいでしょう。
真空管
新品の真空管10本のうち1本は不良品である、くらいに思っていた方が後々苦労しなくて済みます。では、どういう不良があるかというと、叩くとカーンとかピーンといった音がいつまでも鳴り響いているマイクロフォニック不良、ガサガサゴソゴソとノイズが出る不良、ハムが妙に多い不良、ベースとガラス管とがぐさぐさな不良(これは簡単、ボンドでとめてしまえばいい)、プレート電流が流れすぎて暴走してしまう(しそうになる)不良、プレート電流があまり流れてくれない不良、まるっきり動作しないというワケノワカラナイ不良等があります。真空管の不良は、交換以外には救えないと思ってください。使っているうちにおかしくなってきた場合、その原因がアンプの設計の問題であるか、やはり球がイカレていたのかの判断をしなければなりません。Dynaco製やLUX製のアンプでは、「真空管は消耗品、どんどん交換するもの」という思想のもとに、真空管を酷使するような設計がなされています。かつて「真空管は消耗品」だったわけで、そういう設計を咎めるわけにはゆきませんが、今となっては困った問題です。できる限り風通しを良くしてやる、できれば動作条件を緩和するような改造を施す、といった工夫がいります。
真空管のトラブルでいちばん恐ろしいのが、暴走です。真空管の温度が上昇しすぎたために、グリッドがカソード並の温度になってくると、プレート電流がカソードだけでなくグリッドにも流れ込んでしまうことがあります。こうなると、グリッド電流のせいでグリッド・バイアスが浅くなり、プレート電流はさらに増加します。真空管の温度は一気に上昇して、グリッド電流も増加、バイアスがもっと浅くなる、プレート電流がもっと増える・・・こういった悪循環となって、真空管がほとんどショートしたようになって破壊に至るのです。LUXのSQ38FDでは、この熱暴走事件が跡を絶たず、出力トランスの中味が沸騰したという報告もあります。
真空管の中には、上記の暴走癖のある管種がいくつかあり・・その筆頭が50・・近代傍熱管のなかでも、5998、50CA10/6CA10、8045G、6550A等は油断できない球といっていいでしょう。通常は、製作記事のままで問題がなくても、球のアタリが悪いと暴走事件に巻き込まれる場合があります。
暴走には至らなくても、真空管の温度上昇による思わぬトラブルが生じることがあります。NiftyServeのフォーラム(FJAZZ)での報告例ですが、5998(この球は高温になることで知られている)を定格内で動作させていたにもかかわらず、あまりの温度上昇でソケットピンの半田が溶けてしまった、という有名な話があります。
正常な真空管では、管内で発生したガスをゲッタ(鏡のように光っている部分)が吸着してくれます。長時間動作させてゆくと、鏡面状だったゲッタが消耗してだんだん透明になってきます。こうなってしまったらもう寿命です。
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