我が家のメイン・システムはおなじみのRogers LS3/5Aですが、これをうまく鳴らすには、ある程度の高さと周囲の空間が必要です。いわゆるブックシェルフ型のスピーカーを、ほんとうにブックシェルフに突っ込んでしまうと、実に淋しい音になってしまいます。Rogers指定のスピーカー・スタンドというのがありますが、やはり、スピーカーを空間に位置できるような構造になっていますから、やはり、こういうセッティングがこの手のスピーカーを鳴らすにはいちばんなのでしょう。LS3/5Aのサポートサイトをみても、このようなスピーカー・スタンドが使われています。ところで、おそらく30年くらい前に実家で誰かが購入したfoster BF-103Sという10cmフルレンジを搭載した小型密閉型スピーカーが出てきたので、昨年(2002年)、これを我が家持ち込んで音出ししてみました。がしかし、箸にも棒にもかからないヒドイ音で、誰も引き取り手がないままずっと放置されておりました。そこで、このBF-103Sをなんとか聞ける状態まで持っていこう、というのが今回の課題です。
今回行ったのは、(1)スピーカー・ユニットの交換、(2)密閉型エンクロージャの背面バスレフ化、(3)ZOBELネットワークの実装、(4)スピーカー・スタンドの製作、以上4点です。結果的には、いろいろ不満はないわけではありませんが、これはこれで充分聞けるようになったので、私の作業室で常時鳴らしてもらえることになりました。
画像は、スピーカーが改造BF103S、今回製作したスピーカー・スタンド、16A8全段差動プッシュプル・アンプとKENWOOD製CDプレーヤDPC-X321(ヨドバシカメラで7,000円也→現在はDENON DCD755II)。
問題のスピーカーの裏蓋を開け、ユニットを取り出してみたところ、ひからびたコーンとエッジがはがれかけたような状態で、流石にこれではユニット交換しかありません。新品のFE103S、1個3400円也×2を購入してきます。さて、ユニット交換してみたものの、10cmフルレンジに6リットルの密閉箱では半人前ほどの低域も出るわけもなく、ひたすらコナマイキな中高域が出るのみです。大昔から感じていたことですが、FOSTEXがいい悪いというのではなくて、好き嫌いの問題としてこういう中高域のトーンキャラはどうも私の趣味に合いません。なんか国籍が違う、という感じです。ですから、長きにわたってFOSTEX(旧foster)を使うことはありませんでした。今になって、最もFOSTEXらしいといわれる10cmを鳴らすことになろうとは。
まず低域問題ですが、サランネットがはずれないタイプなので、無理やりはがしてキタナクなったら嫌だし、かくなる上は背面攻撃しかありません。裏蓋を切り欠き、廃材を流用して作ったダクトをエンクロージャ内に仕掛けて、密閉箱からバスレフへの改造とあいなりました。エンクロージャの底面を利用した平たいバスレフポートになっています。
スピーカーユニット付属の手引書には、バスレフポートの推奨共振周波数は95Hzとあり、これだと見せかけ低音がブンブン出ます。しかし、80Hzあたりでストンと落ちてくれてもつまらないので、fd=75Hzと低めの設定としました。これは私の趣味の問題です。
密閉/バスレフ型エンクロージャー設計プログラムはこちらのサイトのものを使いました。
エンクロージャの改造で低域はかなりましになりましたが、相変わらず中高域のバランスがよろしくありません。このスピーカーはサイズの割りに妙に能率が高く、わずかな入力でがんがん鳴りますが、よ〜く聞き込んでみると「得意な音は元気一杯出るけれど、苦手な音はさっぱり出ない」タイプであることがわかります。私のなりに言わせていただくと、要するにバランスが悪いのです。勝手な想像ですが、能率を追求してゆくうちにこんなことになってしまったのではないでしょうか。高能率=良い音、という図式にはまってしまったのかもしれません。レスポンスが高いのは1kHz以上、10kHz以下の帯域です。いいかえると、1kHz以下でだらだらとレスポンスが落ちてくるので、「低域が出ない」というよりも「中高域が耳につく」という風に聞こえます。これでは、低域をいくら補ってやってもバランスは良くなりそうにありません。そこで、中高域を広い帯域に渡ってレスポンスを落としてやることにしました。fostexファンからみたら、FE103Sの良さを台無しにするようなもんだ、と言われそうです。
フルレンジ1本ですから、おそらく、1kHz以上の帯域では周波数が高くなるほどインピーダンスはどんどん上昇しているはずで、取扱説明書のデータによると、5kHzで16Ω、15kHzで32Ωくらいあるようです(右図「青線」)。
部品庫を漁っておりましたところ、3.3μFのフィルム・コンデンサと11Ω/2Wの抵抗器が出てまいりましたので、一応この組み合わせで(アンプのD.F.=3として)ZOBELネットワークを組み込んでみることにしました。
ZOBELネットワークとは、左図のようなコンデンサと抵抗器を組み合わせたインピーダンス回路です。低い周波数帯域では高いインピーダンスを持ちますが、ある周波数より高くなると、インピーダンスはどんどん低下して最終的には抵抗値と同じ値に収束します。
このような特性を持った回路をスピーカーと並列に挿入することで、送り出し側からみたスピーカーのインピーダンス特性を平坦にしようというのが、ZOBELネットワークの狙いです。特に、2Way、3Wayのディバイディング・ネットワークにおけるネットワーク・フィルタの効きを良くし、周波数特性の安定化に貢献します。但し、効果があるのは高い周波数におけるインピーダンスの上昇だけで、低域におけるスピーカーの共振点のインピーダンス上昇に対しては効果はありません。ごく単純に、取扱説明書のデータをそのまま使って、ZOBELネットワークを組み込んだ時の総合的なインピーダンス特性を求めてみたのが右上図中の「赤線」です。1kHz以上の帯域でほぼ平坦になっている様子がわかると思います。
何故、このようなことをするかというと、使用しているメインアンプのダンピング・ファクターがおおよそ3であり、内部抵抗(=出力インピーダンス)が2.8Ωくらいあります。そのため、スピーカーの高域でのインピーダンスが上昇すると、それにつれて高域でのレスポンスが上昇してしまいます。もし、高域でのスピーカーのインピーダンスの上昇を抑えることができれば、相対的に高域レスポンスを下げることができます。
その様子を計算で求めてグラフにしたのが右図です。このグラフは、スピーカーの周波数特性そのものを表したものではなく、ZOBELネットワークの有無による相対的な周波数特性の変化を表したものです。ZOBELネットワークを挿入することで、1kHz以上の帯域では、周波数が高くなればなるほど、レスポンスの上昇が抑えられることがわかります。
今回挿入したZOBELネットワークは非常に有効で、目立っていた中高域が大人しくなり、不足気味であった中低域全体とのバランスが良くなりました。
下図は、最終インピーダンス特性です。バスレフ・ポートが平たいので、55Hz付近にある共振ピークはかなり甘いです。FE-103Sユニットのインピーダンス特性は、3kHz以上でどんどん上昇していましたが、Zobelネットワークを入れたことでほぼ平坦な特性になりました。
今回のテーマのその2は、上記の30年ぶり復活スピーカーのためのスタンドの製作です。このスピーカーを、部屋にあるチェストの上にセットしてみたのですが、どうにもすっきりした音を出してくれないので、メイン・システム(ここに紹介されています)同様のスピーカー・スタンドにしたいと思っておりました。しかし、同じスタンドを買う予算がありません。仕方がないので、自作することにします。コンセプトは、以下のとおりです。
ホームセンターのドイト(朝霞店)で安価に入手できるパイン材を使うことにします。パイン材は、節目はあるし、角が欠けてたりするし、いろいろ問題はあるんですが、加工しやすい、それなりに風合いがある、そして何よりも安いということで使うことにしました。
- 製作費、5,000円以内であること・・・私はお金がありません。
- 2日〜3日の工作でできること・・・私は安直なのです。
- スペース効率から、CDが格納できること・・・部屋が狭いのです。(ヨドバシで売っている980円のCDケースが縦に2個すっぽりはまります)
- 自由に位置を変えられること・・・これ、結構重要です。
- あんまりみっともなくないこと・・・やっぱりね。
- 一応、納得できるまともな音であること・・・そもそも、これが目的ですから。
デザインは、右図のとおりです。910mm×185mm×19mmから切り出した天板と底板を、高さ450mmの3枚の板でつないだ簡単な構造ですが、これでかなりの強度が出ます。天板と底板の奥行きが185mmなのは、売っている板の幅が185mmだから、縦板の高さが450mmなのは、売っている板の長さが910mmだからです。売っている板は無駄なく使う、最小限の加工で済ます、というのは上述のコンセプトを忠実に守っているからです。
ドイトの加工コーナーで、購入した板を切ってもらいます。長さが正確に揃い、切り口も正確な直角にしてもらえるので、板を合わせた時に一発で決まってくれるからです。長さが1mm違っただけでもゆがんでしまうので、プロに切ってもらうというのは重要(かつ安直)です。
板は、カッターで角を取り、サンド・ペーパーを何種類か使い分けて角のRを仕上げ、面を整えておきます。これを怠ると、塗装の仕上がりでなさけないことになります。それから、お気に入りの色のステンを塗るわけですが、市販のステンはいささか濃いので、水で2倍に薄めてから複数回塗るようにしています。この方がむらなくきれいに塗れます。ステンが乾いたら、今回は安直にウレタン系のニスを塗ることにしました。本当は、オイル・フィニッシュにしたいところなんですが、これをやるとくたびれるし、数日間、作業場が臭いし、今回は断念しました。(いえ、ちゃんとやる時はやるんですよ。かみさんの誕生日にプレゼントしたチェストはオイル仕上げをやっていますので、使うにつれていい光沢が出てきています)
- パイン材・・・910mm×185mm×19mmが1枚、910mm×140mm×19mmが1枚、910mm×90mm×19mmが2枚。これで2台作れます。
- ステン(オーク・カラー)。
- ウレタンニス・スプレー。
- 32mmブロンズ木ネジ×12本。
- 10mm木ネジ×16本。
- ナイロン・キャスター×8個。
- 19枚入りCDケース×4。
CDを収納できるようにするために、あらかじめ樹脂製CDケースと位置合わせしておきます。木の貼り合わせは32mmの木ネジを使います。当てる側の板(天板と底板)にドリルで3.5mmの穴をあけておき、上下から木ネジを突っ込んでゆきます。板の加工精度がいいので、ネジ止めだけでがっちり仕上がります。どれくらいがっちりしているかというと、私が乗ってもびくともしません。10kg、20kgのスピーカーが乗っても平気です。最後に、1個80円のナイロン・キャスターを取りつけておしまい。なお、CDケースはぴったりはまっているだけで、特に固定はしていません。