ブレーキング
2000.9.28
弟子 「今回はブレーキングです。」 師匠 「きたきた。ブレーキングは奥が深いからね。」 弟子 「道を走っていると、ブレーキの大安売りやってくれるドライバーって、結構いますけど。」 師匠 「何も考えないで踏まれているブレーキは、この世に一体どれくらいあるんだろうね。」 弟子 「ということは、無闇にブレーキ踏まないで、エンジンブレーキを使えっていうことですか。」 師匠 「そうきたかね。確かに、教習所ではフットブレーキよりもエンジンブレーキの方がいいようなことを言うからなあ。」 弟子 「違うんですか。」 師匠 「エンジンブレーキとフットブレーキと、ブレーキとしてどっちが優れていると思うね。」 弟子 「フットブレーキを使いすぎるとフェードしたりするから、エンジンブレーキの方が上等じゃないですか。」 師匠 「じゃあ、エンジンブレーキだけで車を停止させられるかね。」 弟子 「そんな、無理に決まってるじゃないですか。」 師匠 「エンジンブレーキで、正確に減速のタイミングや制動距離をコントロールできるかね。」 弟子 「ううむ、それは難しいですね。」 師匠 「ということはさ、すばやく正確にぴたっと停止するにはフットブレーキが一番で、エンジンブレーキでは制動が遅れたり、効果の出方を正確に予測できないってことになるんじゃないかい。」 弟子 「そういえばそうですけど、エンジンブレーキが優れているのはフェード問題だけじゃないですよ。雪道でのブレーキングではエンジンブレーキを使えって習いました。」 師匠 「ははは、それは昔の話だよ。」 弟子 「昔と今とでどこが違うんでしょうか。」 師匠 「昔のブレーキは左右の制動バランスが悪かったから、凍結路でそういうブレーキを使ったらスピンしてしまう。エンジンブレーキはメカニズム的に常に左右の制動バランスがとれているから、凍結路や雪道で推奨されたわけだ。しかし、現在の車のブレーキはそういう問題はなくなったからね。」 弟子 「じゃあ、どっちでもかまわないというわけですね。」 師匠 「そうじゃないんだ。フットブレーキの方がずっと優れている。」 弟子 「はあ。」 師匠 「エンジンブレーキでは、制動効果があるのは駆動輪だけだろ。」 弟子 「わかりました。たとえばFF車の場合、エンジンブレーキだったら前輪だけしか制動効果がないけど、フットブレーキだったら四輪全部で制動できるってことですね。」 師匠 「よくできました。ただし、雪道でフットブレーキを強く踏んだりしたらアウトだから、それだけは慎重にね。」 弟子 「最近の車の多くはABSがついてますから、過制動になったらすぐにわかりますよ。それにしても、エンジンブレーキで過制動になってロック状態になったらこわいですね。エンジンブレーキじゃあ、ABS利いてくれませんからね。」 師匠 「だから、エンジンブレーキの過信は禁物。ブレーキパッドの磨耗をけちってはいけないよ。」 弟子 「でも、運転免許取得の筆記試験の時だけは、エンジンブレーキを選ばないと落ちちゃいます。」 師匠 「実はね、エンジンブレーキにはまだ問題があるんだ。それも危険回避に関係する問題だ。何だと思うね。」 弟子 「危険回避というと・・・」 師匠 「エンジンブレーキでは、ブレーキ灯がつかない。」 弟子 「あっ。そうですね。」 師匠 「私は減速しますよ、というメッセージが出ないから、後続車がぼけっとしていると、追突されるかもしれないな。」 弟子 「なるほど。エンジンブレーキって、場合によってはかなりよく利くことがありますもんね。」 師匠 「ま、長い下り坂だったら、エンジンブレーキをかけながら下るのが普通だから、後続車も予測していると思うけどね。なんでもない平坦な道では無闇にエンジンブレーキを使うのは危険なんだ。」 弟子 「後続車がいたら、エンジンブレーキは控えろってことですね。」 師匠 「運転ではね、自分の前後左右にいる車のドライバーが、こちらの動きの変化にちゃんと気づいているか、常に気を配っていなければならないってことだな。」 弟子 「でも、フットブレーキを踏むたびにブレーキ灯がついちゃうから、後続車のドライバーから見たら、煩わしくないですか。」 師匠 「それは君が、矢鱈とブレーキを踏むからだよ。」 弟子 「だって、前の車が減速したら、こっちもブレーキ踏まなきゃならないですか。」 師匠 「だから頭使えって言うんだよ。前の車のその先の車を見ていなきゃ。」 弟子 「ははは、そうでした。」 師匠 「トヨタのプログレのオートクルーズみたいなあほな運転するなよな。」 弟子 「あ、前の車が減速して車間が詰まったら、自動的に減速するやつですね。」 師匠 「あれって、ばっかじゃなかろかと思うね。」 弟子 「でも、話題になったじゃないですか。」 師匠 「前の車との車間だけで判断していちいち減速するなんて、下手糞ドライバーもいいとこじゃないか。うまいドライバーだったら、その先の様子を見ながら先手を打つもんだろ。でも、プログレのオートクルーズは先の車を見ることはできない。」 弟子 「確かに、先の先まで読んでいれば、無闇にブレーキングすることないですね。」 師匠 「せっかちなあまりいつも車間を詰めずにはいられないで、アクセルとブレーキを交互に忙しく踏んでいるドライバーは、英国車にだけは乗って欲しくないね。」 弟子 「ところで師匠、カーブの時のブレーキングはどうなんですか。」 師匠 「どういうことだね。」 弟子 「ギアを1段落としてエンジンブレーキで減速しながらカーブにはいって、そのまま加速してカーブを抜けるじゃないですか。」 師匠 「それにも異論ありだね。」 弟子 「またですか。」 師匠 「ほんとうは、カーブの前でもフットブレーキで減速すべきだね。」 弟子 「でも、レースなんかではカーブにはいる前にギアを落とすじゃないですか。」 師匠 「レースでは、エンジンブレーキなんか使わないよ。」 弟子 「あれま、どうしてですか。」 師匠 「最高のタイムを出すためにはさ、最も効率的な減速と加速が必要だろ。だからレースでは、ブレーキ踏んでいるか加速しているかのどっちかしかないわけだ。」 弟子 「ははん、エンジンブレーキなんかでもたもた減速してる場合じゃないってことですね。」 師匠 「そういうこと。ま、公道でのドライブはレースじゃないから、カーブ前の減速のためにエンジンブレーキを使うな、とまでは言わないよ。ただね、カーブ前にエンジンブレーキで減速したんだけど、まだスピードが早すぎてあわててフットブレーキを踏み足すなんていうのは、ちょっとね、格好悪いね。」 弟子 「カーブ中では、ブレーキングは禁物といいますね。」 師匠 「後輪がスキッドする危険が増大するからね。」 弟子 「ということは、カーブにはいる前に減速は完了していなければならないわけですね。」 師匠 「そうなんだ。だけど、それができていないドライバーはとても多い。」 弟子 「なんででしょう。」 師匠 「運転に余裕がないからだと思うよ。カーブにはいってからもブレーキ踏んでたんじゃ、加速するタイミングが遅れてしまって、かえってもたついた運転になるな。」 弟子 「充分に減速してからカーブにはいって、カーブにいる間から加速をはじめろっていうことですね。」 師匠 「そう。加速・減速のリズムができるし、車はほどよい加速中が最も安定するからね。」 弟子 「ほかに、ブレーキで注意したいことはありますか。」 師匠 「ブレーキングではないけれど、ブレーキ灯の球が切れている車って、実に多いね。」 弟子 「教習所では、実地の前に毎回点検してましたけど、それは指導員とペアだったですからね。」 師匠 「その日はじめて車に乗る時にさ、灯火のチェックをちゃんとやっているドライバーって見たことないなあ。」 弟子 「面倒臭いですからねえ。」 師匠 「赤信号で停止した時にさ、後ろの車に映ったブレーキ灯の反射でチェックできるだろ。」 弟子 「時々、車にブレーキ灯の球切れの警告灯がついていたらいいのにな、と思いますよ。」 師匠 「ははは、75はね、ついているんだな、これが。」 弟子 「えっ、そうなんですか。ちょっとずるい感じがするなあ。」 師匠 「うらやましかったら、君も借金して75を手に入れまえ。いろいろといいことがたくさんあるから。」 弟子 「僕はいいです。並行輸入でもして25の1.4MTでも手に入れますから。ふっふっふ。」 師匠 「こらっ、それはずるいぞ。そういうことを考えるような奴にだな・・・」 弟子 「ろくな奴はいませんよ。悔しかったら、師匠もどうぞ。」
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