■■■デジタルソース機器にはLPFを標準装備■■■
iTunes How to Do
iTunes
旅行用のアンプ(ツアラーPart5)にはUSBのほかに3.5mmのアナログ入力ジャックをつけているので、PCをつなぐのが面倒な時はiPhoneのイヤホン出力を入れることがあります。しかしiPhoneの出力をここから入れた時は何故かさっぱり音楽を楽しめないのが不満であり謎でした。ところが同じiPhoneの音をBluetoothで飛ばすとUSBに負けないくらい良い音がします。というわけで、iPhone8のイヤホン出力の雑音歪み率を測定してみました。いや、今までこれを測定したことがなかった自分の杜撰さにあきれています。その結果が右のグラフの黒い線です。
いやはや、ひどいノイズです。オシロで見るとノイズで波形の線がノイズの不規則な振動でぼやけているし、0.35V以下では歪み率計のカウンタが波形を解析しきれないでエラーを起こして測定不能です。
1V出力時の雑音歪み率は0.14%、0.1V出力では1.4%となって左上がりの直線ですからこれは明らかにノイズの仕業です。ノイズレベルは1.4mVです。
同様の問題が市販がBluetoothレシーバーでも起きているということはBluetoothのこちらのページでもレポートしました。右のグラフは、HEM-HC-BTRATXという製品の雑音歪み率の実測データですが1.3mVのノイズが出ています。出力1Vあたりに換算すると0.8mVくらいなのでiPhoneよりは若干ましです。こちらも測定系に80kHzから上を切るLPFを入れると雑音歪み率がぐっと低下する様子が観察できます(青い線)。
この現象は、私が使用しているPC(ThinkapadやMacbook)のイヤホン出力でも確認できます。
iPhoneのイヤホン出力の音がいまひとつなのも、PCのイヤホン出力の音が悲惨なのも、アナログ信号波形そのものが歪んでいるのではなく、可聴帯域外で盛大に出ているノイズが犯人のようです。それを確かめるために、イヤホン出力に40kHzから上を切るLPFをつけて測定したところ、iPhone8の場合もPCの場合もともに歪み率は一気に1/10〜1/30に下がり、音質は明らかに改善されました。ダメダメだと思っていたPCのイヤホン出力って結構いい音なんだと認識を新たにしたのです。
じつは、iPhoneのイヤホン出力に使われている送り出しアンプはきわめて優秀です。OPアンプを使ってヘッドホン・アンプを自作するのが流行っていますが、OPアンプは16Ω〜32Ωといった低インピーダンス負荷を想定していないのでそのような低インピーダンスの負荷で動作させると特性が著しく低下します。iPhoneのイヤホン出力が優れているのは、600Ω負荷でも16Ω負荷でも特性が全く変化しないで0.002%という超低高調波歪みを実現していることです。これはちょっとすごいことなのです。市販のデジタル・ソース機器のカタログ・スペックをみると「歪み率0.005%以下」と表記されているのに、実際に測定すると0.01%あるいはそれよりもずっと悪い数字が出てくることにずっと違和感を持っていました。そして歪み率計の20kHzのLPFをONにするとカタログどおりに0.005%になるものが一般的です。世間の認識は「20kHzから上はどうせ聞こえないからノイズが存在していても問題ない」ということなのだと思います。聞こえないからノイズがあってもかまわない、というのはいかにもそれらしい説得力があるようにも思えるし、短絡思考すぎるんじゃない?とも思えます。雑音歪み率のことは棚上げして考えないことにして、測定時だけLPFを通してカタログには高調波歪み率として表記する、そして現実の製品からはノイズがたっぷりと出てきている、というのはどうにも納得できない話です。もちろん、そこのところをよくわかっていらっしゃる良心的な製品もありますがそういう製品は減っている気がします。想像しますに、営業的にはハイレゾ対応を謳って48kHzまでフラットであることの方が重要で、帯域をカットできないということなのでしょうか。
もっとも、高音質を求めるオーディオ製品ユーザーの大半が「それでよい、ノイズが出ていても帯域が広い方を優先する、十分に良い音で満足している」というのが現実なのであれば、ここに書いた記事は少数派の戯言ということになるのでしょう。
私達の身近にあるさまざまなデジタル・ソースから出力されるアナログ信号波形自体はそこそこ良質なのに、漏れ出てくる聴帯域外のノイズのせいで悪い音を聴かされているという現実があるというのが私の実感です。AKI.DACの出口にLPFを入れると音が良くなることを体験された方はとても多いようなので、私の実感に思い違いはないと思っています。デジタル時代のオーディオ・アンプでは、40kHzくらいから上の帯域を切ってくれるLPFを標準的に装備しておき、必要に応じてスイッチでON/OFFできるようにしておくのが賢明だと思います。アナログ時代にはなかった考え方です。
下の回路は、さまざまなオーディオ・アンプの入力部分に汎用的に入れられるように考えたLPFです。フィルタの実測特性はご覧のとおりで、インダクタ(DCR=25〜40Ω)と直列に1.5kΩを入れた時に20kHzまでのフラットネスが得られます(シミュレータ・ソフトでは若干異なる結果になりますので実測は欠かせません)。
減衰を開始する肩の部分のカーブを決定するQ値はソース・インピーダンスに対してかなりクリティカルですがソース・インピーダンスは機材ごとにまちまちです。ソース・インピーダンスの許容範囲が広くなるようにインダクタンスの値を4.7mHとやや高めに設定しました。
カットオフ周波数:40.4kHz使用上の条件は、ソース・インピーダンスが十分に低いこと(1kΩ以下)と、後続の回路の入力インピーダンスが十分に高いこと(25kΩ以上)です。ソース・インピーダンスが1kΩ以上になると10kHz以上での減衰が目立ってきます。ボリュームの直後はソース・インピーダンスが変動するので、このLPFをボリュームの後ろに置くことはできません。ソース・インピーダンスの影響を一切受けないようにしたい場合は、このLPFの前にバッファ・アンプを追加する必要があります。
周波数特性:20kHzまでフラット
Q値:0.70・・・1.3kΩ+ソース・インピーダンス(300Ω)の時ここで使用した4.7mHのインダクタは秋月で売っている廉価品です。商品のリンクはこちら→ http://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-06953/