Mini Watters
6463/6350全段差動PPミニワッター2016


<6463と6350という球>

差動PP方式のミニワッターは、これまで6N6P、6DJ8の2管を中心に製作しそれぞれバージョンアップしてきました。この2管以外に無理のない設計が可能で入手が容易かつ廉価な双3極管が見当たらなかったからです。6350はシングルのミニワッターで使ったことがありますが、ほとんど売っていないので視野の外に置いていました。しかし、6350のみならず同等管の6463がオークションでも入手できることがわかったので、今一度見直して差動PPのミニワッターとして構成してみることにしました。

6463のデータシート:6463.pdf
6350のデータシート:6350rca2.pdf

6463と6350の概要は以下の通りです。参考のために6N6Pも加えてあります。( )内は私の推定値。

646363506N6P
ピン接続
ヒーター電圧6.3V/12.6V6.3V/12.6V6.3V
ヒーター電流0.6A/0.3A0.6A/0.3A0.75A
最大定格プレート電圧330V330V300V
プレート損失(ユニットあたり)4.4W4W4.8W
プレート損失(両ユニット合計)7.7W7W8W
代表的動作プレート電圧250V(190V)150V(190V)(180V)
プレート電流14.5mA(14mA)11mA(14mA)(17.3mA)
μ20(20)18(20)(15.8)
内部抵抗3.85kΩ(3.8kΩ)3.9kΩ(3.8kΩ)(2.4kΩ)

6463と6350は、ピン接続やヒーター規格は全く同じ、最大定格も同じとみてよい、代表的動作は条件が違うので3定数に差が生じていますが、同一条件だったらほとんど同じでしょう。つまり、6364と6350は区別する必要がない同等管だと言えます。この球の特徴は、ピン接続が他に例をみない特殊な構成で、通常はP-G-Kと並ぶところがこの球はP-K-Gという変則的な順序になっています。

6463/6350は、6N6Pと同規模ですが内部抵抗が高めなので6N6Pよりも高いプレート電圧、高めの負荷インピーダンス、少なめのプレート電流で動作させることでほぼ同等の出力や特性が得られるだろうと思います。注意点としては、とにかく内部抵抗は高く3.8kΩもありますから、1次インダクタンスが少ない出力トランスを使うと腰高な音のアンプになります。ゆったりとした低域を得るにはそれなりに良く設計された出力トランスが必要です。


<全回路図>

アンプ基本部分の回路図です(内容確認中)。設計内容の詳細は以下に説明します。


<初段の設計>

初段は他の差動PPミニワッターと同じ2SK117-BLを使った差動回路です。初段の動作条件は概ね下図のとおりで、電源電圧は約36〜37V、ドレイン電流は約1.90〜1.95mA×2、ドレイン電圧は19〜20Vに設定しています。出力段の入力信号の最大振幅は±8Vくらい(出力段の設計より)ですから、最大出力をドライブするためには初段ドレイン電流は1.0〜2.5mAの範囲で変化する必要があります。本機で使用する2SK117のIDSSは3mA以上のものが必要です。

共通ソース側の定電流回路には2SK30Aのゲートとソースをショートさせて定電流ダイオード化したものを使います。定電流の指定値は3.98±0.1mAです。頒布している3.98mAのものは周囲温度が26℃くらいの条件で選別していますが、実際の動作環境はそれよりも高温になりますので、動作時の値は3.8〜3.9mAになります。

2SK117を上記の条件で動作させた時のgm(正確には|Yfs|と表記)は11mSくらいですから、初段の利得の基礎数字は、

11mS×9.1kΩ=100倍
程度とみていいでしょう。共通ソース側にある差動バランス調整抵抗によって電流帰還がかかるので、実際の利得はもう少し低下します。その計算方法は少々面倒ですが以下のとおりです。まず、差動回路の片側あたりのソース抵抗を求めます。47Ωと半固定抵抗器(50Ω)が並列になっていますから、

47Ω//50Ω=24.2Ω
となります。半固定抵抗器のポジションによってこの値は変化しますが気にしないことにします。次に、ドレイン負荷抵抗とソース抵抗の比率を求め、さらにこの値とさきに求めた初段利得との調和平均を1/2にしたものを求めれば、それが初段の利得です。

9.1kΩ÷24.2Ω=376
(100×376)÷(100+376)=79.0倍
本機は初段と出力段とが直結になっているため、初段差動回路のDCバランスの状態が出力段のDCバランスを支配します。そこで、初段差動回路のソース側に100Ωの半固定抵抗を入れて微調整できるようにしています。ただ、100Ωのままでは粗くなって調整しにくいので、47Ω×2個の抵抗を抱かせて微調整が効くようにしました。


<出力段の設計>

出力段には6463/6350、出力トランスはKA-14-54P(14kΩ)を使います。差動PPにおけるセオリーどおりロードラインは1次インピーダンスの1/2である7kΩで引きます。1管あたりのプレート電流は14mAとしました。本当は16mAくらい流してやりたいのですが、電源トランスの電流容量が目一杯なのでこの値で我慢です。プレート電圧は190Vくらい、その時のバイアスは-6.4Vくらいになりそうです。

ロードラインからバイアスは-6.4Vくらいと読み取れますが、私が使った球では-6.2Vくらいでした。この値は球によって15%くらいはばらつきます。動作の範囲は、バイアスが浅い側は0Vを超えてすこしだけプラスの領域に入ったところとバイアスが深い側は-16Vくらい、すなわちドライブ信号の振幅は±8Vくらいになりそうです。プレート電流は14mA、プレート電圧は190Vと想定すると、ユニット当たりのプレート損失は、14mA×190V=2.66Wとなります。差動PP出力回路の最大出力は、動作に無駄がない条件下では、

プレート電流×プレート電流×負荷インピーダンス÷2=14mA×14mA×14kΩ÷2=1372mW
となり、現実的には出力トランスのロスや動作条件の制約などが加わってこれよりもすこし低い値になります。

初段のドレイン電圧が20Vでこれが6463/6350のグリッド電圧になりますが、バイアスが-6.2Vなので6N6Pのカソード電圧は26Vになりました。出力段プレート電流を14mA×2にするには、出力段の共通カソード抵抗値は910Ωになります。910Ωの消費電力は約0.73Wですので3W型の採用です。

出力段の利得を求めてみましょう。本機の動作条件における6463/6350のμは20くらい、内部抵抗は3.8kΩくらいです。差動PP回路における計算上の負荷インピーダンスは14kΩの1/2の7kΩですので、6463/6350のグリッド入力からプレート出力までの利得は以下のとおりです。

μ×({負荷インピーダンス÷(内部抵抗+負荷インピーダンス)}=20×({7÷(3.8+7)}=12.96倍
この後に出力トランスがきますが、出力トランスの巻き線比はインピーダンス比の平方根ですから、
インピーダンス比→ 14kΩ:8Ω すなわち 1750:1
巻き線比→ 41.8:1
です。プレートに表れた出力信号は1/41.8となってスピーカー出力になりますが、実際の出力トランスは10%くらいのロスがありますので1/46くらいとみていいでしょう。


<利得の設計>

無帰還時の利得の計算:

これまでの計算で得た各段の利得は以下のとおりです。

  • 初段=79倍
  • 出力段=12.96倍
  • 出力トランス=1/46倍
これらを総合すれば本機の総合利得を求めることができます。
  • 79倍×12.96倍×1/46倍=22.26倍
本機の総合利得は約22倍で「6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012 V2」とほぼ同等になりますので、負帰還回路の定数は「6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012 V2」と同じものが流用できそうです。負帰還をかけた時の利得は以下の式で求めることができます。

負帰還時の利得の計算:

負帰還をかけた時の利得の一般的な計算法は手順が面倒なので私は以下の方法を使っています。

帰還後の利得=(元の利得×帰還定数´)÷(元の利得+帰還定数´)
です。ところで、上式でいう帰還定数´というのは、帰還素子の減衰率(β)の逆数、要するに

帰還定数´=1/β=(4.3kΩ+620Ω)÷620Ω=7.935倍
のことです。一般に知られる負帰還の計算法では帰還定数βを使いますが、式が複雑になって暗算できないので、私はもっとスピーディーに計算可能なこの方法を使っています※。数学的には同じことなので得られる結果はどちらも同じです。さて、上記の式を使って負帰還時の利得を計算すると以下のようになります。

帰還後の利得=(22.3×7.935)÷(22.3+7.935)=5.85倍
※詳しい説明は「真空管アンプの素」の169ページにあり、負帰還に関するさまざまな実験データや関連知識は156ページ〜180ページに書いてあります。


<初段〜出力段直結の設計>

差動バランスの調整:

本機では初段と出力段が直結になっているため、初段のドレイン電圧がそのまま出力段のグリッド電圧となり、そのばらつきが出力段の差動バランスを支配しています。プッシュプル出力回路では、2管のプレート電流値を精密に等しくしておかないと、出力トランスの帯磁のために低域特性がみるみる劣化します。設計上の出力管のバイアスは-6.4Vくらいなわけですが、この値にはかなりの個体差があります。2管のプレート電流値を精密に同じにするということは、個体差に応じでグリッドに与える電圧をずらしてやらなければなりません。

従って、初段差動回路には、2つのドレインの電圧を一定範囲でずらすための調整回路が必要になります。それを行うのが2SK117の共通ソース側に入れてある100Ωの半固定抵抗器です。この回路は半固定抵抗器と並列に47Ωを抱かせているので、センターポジションでは「26.4Ω+26.4Ω」になっていますが両端のポジションでは「0Ω+32Ω」あるいは「32Ω+0Ω」になります。これによって2SK117のバイアスのバランスを変化させ、ドレイン電流が変化し、ドレイン電圧すなわち6463/6350のグリッドに与えられる電圧のバランスを変えることができます。

2つの出力管のプレート電流値のバランスは、回路図上のX点〜Y点間にデジタルテスターを当てて測定します。2管それぞれに正確に同じ値(たとえば14mA)が流れている時は、2つの4.7Ωの両端にそれぞれ14mA×4.7Ω=65.8mVの電圧が生じますから、X点〜Y点間の電圧は0Vです。バランスが崩れて、一方の球のプレート電流が13.5mAでもう一方が14.5mAになると4.7Ωの両端電圧はそれぞれ63.45mVと68.15mVになって4.7mVの差が生じます。プレート電流のアンバランスが生じるとX点〜Y点間には1mAあたり4.7mVの電圧が検出できるわけです。

この調整回路でどれくらいの変化が得られるか簡易的に計算してみます。ドレイン電流の設計値は1.9mAですので、最も偏った両端のポジションでは1.9mA×32Ω=0.0608Vのバイアスのアンバランスが生じます。初段の利得は79倍ですから、ドレイン電圧の変化は0.0608V×79=4.8Vとなります(実際にはもうすこし低い値になります)。この程度の調整範囲が得られれば出力管のばらつきは十分吸収できます。


<電源回路の設計>

AC100V側〜電源トランス〜交流回路:

電源トランスは本機用に春日無線のKmB90Fを使います。30VAの容量の小型電源トランスで、2次側はAC185〜195V/AC80mA(DC50mA)とAC12.6〜14.5V/AC0.9Aの2つの巻き線があります。

ところで、本機のB電源の総消費電流は65mAほどもあって電源トランスのB巻き線の定格オーバーになっています。ヒーター巻き線の電流は0.6Aですので定格に対してかなり余裕があります。DC65mAは交流に換算すると103mAですので、この数字をもとに電源トランスの総VA値を求めてみましょう。

B巻き線側:103mA×185V=19.06W
ヒーター巻き線側:12.6V×0.6A=7.56W
総VA値=19.05W+7.56W=26.61W
電源トランスの各巻き線からどれだけの電流が取り出せるかについては2つの制約があります。ひとつめはVA値、もうひとつは巻き線の太さで決まる電流値です。この両方を満たさないと過熱して設計温度を超えてしまいます。KmB90Fで使用したコアのVA値は30VAですから定格に対して余裕があります。しかし、B巻き線側は大丈夫でしょうか。KmB90FのB巻き線はかなり細い線材が使われていますが、ざっと計算してみたところ100mA以下であれば線材自体の過熱の問題はなさそうなので、見切り発車して様子をみることにします。

整流回路〜リプルフィルタ:

185Vの巻き線をブリッジ整流して負荷ありの状態で約240Vの整流出力電圧(回路図中のP点〜Q点間)を得ています。整流ダイオードと直列に33Ω1Wの抵抗が入れてありますが、これは整流電流の導通角を稼いで効果的に電圧をドロップさせ、かつほんのわずかですがトランスへの負担を軽減する役割があります。その先でMOS-FETを使った簡易リプルフィルタによってほぼ完全に残留リプルを除去しています。

整流出力電圧(239Vとしておきます)は68kΩと1.5MΩによって分圧されますので、68kΩの両端は10.4V、1.5MΩの両端は228.6Vになります。MOS-FETのゲート〜ソース間電圧は本機の動作条件では約4Vになりますので、MOS-FETのドレイン〜ソース間電圧は14.4Vということになり、MOS-FETによる簡易リプルフィルタを経た電源の電圧は225Vくらいになります。本機の全消費電流は約65mAですので、MOS-FETで消費される電力は、14.4V×65mA=約0.94Wとなります。TO-220サイズの半導体に0.94Wの電力を食わせると表面温度がどうなるかのデータはこちらにあります。放熱板なしで+39℃の上昇、簡易放熱板をつけて+25℃の上昇です。

リプルフィルタ回路の動作の仕組みについては「真空管アンプの素」で詳しく説明していますが、ここにも簡単ながら説明があります。

疑似マイナス電源:

マイナス電源は本機の回路電流のリターンを流用した擬似マイナス電源方式です。リターン電流は58mAくらいなので、100Ω2Wを入れて約5.8Vのマイナス電圧を得ています。リターン電流の大半は出力段のプレート電流ですから、6463/6350を抜いた状態でのテストでは十分なマイナス電圧は得られません。電源回路単体のテストで規定のマイナス電圧が出なくても異常ではありません。

MOS-FETによる簡易リプルフィルタを経た電源の電圧224Vのうち約6Vはマイナス電源にまわってしまうので、アースを基準とした正味の電源電圧は218Vになります。

初段電源:

初段の電源はツェナダイオードとトランジスタを組み合わせたどこにでもある簡易型定電圧回路です。定電圧特性を得るのは20Vと17Vのツェナダイオードを2個直列にしたもので、このツェナダイオードに0.5mA〜数mAの電流を流すと両端電圧は常に37Vになろうとします。ツェナダイオードをアクティブにする電流は220kΩを流れる約0.8mAの電流です。トランジスタには耐圧が250V以上でhFEが40以上あるもので十分ですが、本機で使った2SC3503のhFEは120〜190です。

2SC3503のベースにはツェナダイオードから得た37V(実際にはシャーシ内温度上昇のためにツェナ電圧も上昇する)が与えられますので、計算上はエミッタ側の電圧はそれよりも約0.6V低い36.4Vになります。エミッタ〜アース間に入れてある560kΩは電源OFF時の電源回路のあちこちのコンデンサに溜まった電荷を放出させるための抵抗です。他のミニワッターでは120kΩくらいにしてありますが、本機では消費電流を節約するためにこんな値になりました。これがないと電源OFF時に回路のあちこちで電流の逆流が起きてしまうので省略はできません。

2SC3503のコレクタ電流は約7.8mAです。電圧を218Vから約37Vにドロップさせますので、電位差は181Vほどありここで生じる電力ロスは181V×7.8mA=1.41Wになります。これをすべて2SC3503に食わせるとかなりの発熱になるので、電力ロスの一部の約0.62Wをコレクタ側に入れた10kΩ/3Wに分担させています。そのため2SC3503のコレクタ損失は1.41W−0.62W=0.79Wで済んでいます。それでもかなりの温度になってしまうので、小さな放熱器を貼りつけています。放熱器をつけた状態で2SC3503の表面温度は75℃くらいです。

電源電圧の配分:

2段直結回路の電源電圧は、各段が動作のために必要とするすべての電圧の足し算になります。

  1. 初段バイアス電圧・・・0.3V〜0.4Vくらい。2SK117の個体ごとにばらつく。
  2. 初段ドレイン電圧・・・19.5V。出力管をフルドライブするには11V以上であることが必要。
  3. 出力段のバイアス・・・-6.4Vくらい。6463/6350の個体ごとにばらつく。
  4. 出力段プレート電圧・・・190V
  5. 出力トランスの巻き線抵抗による電圧ロス・・・14mA×約200Ω=約2.5V
これら1.〜5.をすべて足すと、218Vくらいになります。これがアンプ部が必要とする電源電圧になります。この電圧はさきに説明した「アースを基準とした正味の電源電圧は218Vになります」と一致します。というか、一致するように電源回路側の都合とアンプ側の都合を修正し何度も計算し直して全体のバランスを取るわけです。

全消費電流:

全消費電流は以下の通りです。電源トランスの定格に対して30%ものオーバーです。

-計算の根拠乗数電流値
初段差動回路3.8〜3.9mA×27.6〜7.8mA
初段電源ブリーダー37V÷560kΩ=0.066mA×10.066mA
初段電源ZD電流(Ibを無視した概算値)(218V−37.6V)÷220kΩ=0.82mA×10.82mA
出力段プレート電流14mA×2=28mA×256mA
電源回路分圧電流240V÷(1.5MΩ+68kΩ)=0.153mA×10.153mA
合計--約65mA


<アンプ部補足解説>

ボリュームカーブ補正抵抗:

ボリュームの回転角と音量のバランスを調整するために、ボリュームのところに補助抵抗(100kΩ)を入れてあるのは他のミニワッターと同じです。この抵抗はなくてもかまいませんが、入れることで12時ポジションでの音量が通常のボリュームよりもすこし大きくなって使いやすくなります。抵抗値は51kΩ〜100kΩくらいで厳密さは要求されません。すでに製作したアンプを本機に改造する場合は、すでについている抵抗器はそのまま残してください。この抵抗があってもなくても、ボリュームがMaxのポジションでの利得(音量)は変わりません。なお、この抵抗器がある場合は、ボリュームポジションによって入力インピーダンスは変化します。100kΩをつけた場合の入力インピーダンスは、Min時で33.3kΩ、12時で約37kΩ、Max時で46kΩです。

入力のDCカット・コンデンサ:

ボリュームと初段2SK117のゲートの間に0.47μFのコンデンサが割り込んでいます。これは、DC漏れのあるソース機材をつないだ際に、出力段プッシュプル回路のDCバランスが狂ってしまうのを回避するためです。シングルアンプや一般的なプッシュプルアンプでは大して問題にはならないのですが、差動直結回路ならではの弱点です。0.47μFと560kΩによって0.6Hzにおいて-3dBとなる-6dB/octのハイパスフィルタ特性を持ちます。0.5Hz〜1Hzくらいの範囲であればよいので、他の組み合わせでもかまいません。

出力トランスのリード線の接続:

出力管(6463/6350)のピン番号(1、6)と出力トランスのケーブルの色(赤、黒、橙)の関係は厳密に守ってください。これ間違えると正帰還による発振が生じて、スピーカーから「ギャーッ!」というけたたましい音が出ます。

出力管の発振止めグリッド抵抗:

出力段のグリッドには発振対策として1kΩの抵抗を入れてあります。発振というのは、出力管単体で負帰還とは無関係に起きるコルピッツ発振のことです。周波数は数MHz以上の高周波ですので聞こえませんが、動作時の各部の電圧が異常値を示すことで発見されます。オシロスコープがあれば容易に発見できます。この抵抗器は真空管ソケットの端子のできるだけ近くに実装してください。

負帰還回路とBass Boost:

本機は指定部品、指定出力トランスを使う限り位相補正なしで動作しますが、位相余裕を持たせるために負帰還抵抗(4.3kΩ)と並列に位相補正コンデンサ(220pF)を入れてあります。負帰還定数(4.3kΩと620Ω)は8Ω側からかけたものとして設定してあります。なお、6Ωのスピーカーをお持ちの場合は4Ω端子につないでください。

負帰還回路には1段のBass Boostを組み込みました。Boostしはじめる周波数は何Hzで、何dBくらいBoostしたらいいかは、お使いのスピーカーによって異なります。本機の設定では、8cm〜10cm径くらい小型スピーカーを想定してチューニングしてあります。15kΩを11〜13kΩに変更すればBoost量が減り、0.33μFを0.47μFに変更すればBoostが開始される周波数が下がります。スイッチを使ってこれらの組み合わせを変えられるようにしてもいいでしょう。


<トランス式USB-DAC>

本機にはトランス式USB DACを組み込みました。以前から、この汎用シャーシに入れられないものかと思案していたのですが、後面パネルはすでに混雑していてUSB端子を取り付けるスペースはありません。そこで、シャーシ後方の空きスペースにDAC基板を縦にして取り付け、USB端子用の丸穴はシャーシ上面に開けてあります。ここにUSBケーブルを挿入するとケーブルが天に向かって立ってしまうので、横向きのケーブルを見つけてきて使用したところうまく収まってくれました。

使用したトランスは、TASCAMのミキサー卓の基板に実装されていたものの取り外し品なので市販されておらず、どこかに入手ルートがあるわけでもありません。USB DACを組み込みたい場合はこちらのサイト(http://www.op316.com/tubes/lpcd/index.htm)の記事を参考にしてご自身で工夫&解決してください。なお、USB DAC用のトランスの近くに電源トランスがありますので、タムラや日本光電などの業務用で電磁シールドがしっかりしたトランスでないとハムを拾います。

CR類は立てラグを使って実装しましたが結構混雑しててこずりました。トランスの形状にもよりますが、AKI.DAC基板の上にCRを組み込んだ小さな基板を2階建てに重ねる方法がスマートではないかと思っています。


<使用部品>

入手しやすく頒布可能な部品だけで構成されており、特殊な部品は使っていません。

電源トランス・・・春日無線変圧器製のKmB90Fを条件付定格オーバーという変則的な条件で使います。整流出力特性の実測データがこちらにあります。

出力トランス・・・春日無線変圧器製のKA-14-54Pを推奨します。差動ミニワッターを意識して再設計されたもので、タムラなどの値段が高い大型トランスと比べると見栄えこそしませんが、これはきわめて優れたトランスです。

シャーシ&ケース・・・ミニワッターのために特注で作っているもので、当サイトで頒布しています。詳しくはこちら(http://www.op316.com/tubes/mw/mw1-box.htm)をご覧ください。もちろん、ご自分で工夫するのもよいと思います。

6463/6350・・・出力段真空管。6463と6350は同じ球とみて問題ありません。オークションで比較的廉価かつ容易に入手できますが、扱っている店もあるようです。ピン接続は特殊で、12AX7や6DJ8のような標準タイプではありませんのでソケットまわりの配線ではくれぐれも注意してください。アンプ製作に慣れている人ほどいつもの癖が出て間違えやすいです。

2SK117-BL・・・初段差動回路。IDSS値が3mA以上あって、バイアス特性が良く揃った選別ペアが必要です。ちなみにBLランクの2SK117のIDSSは6mA〜14mAですから十分に余裕がありますが、GRランクのIDSSは2mA〜6.5mAですので実測して3mA以上のものからさらに選別する必要があります。Yランクは使えません。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。

2SK30A-GR・・・初段定電流回路。ソースとゲートをつないで定電流ダイオードとして使います。2SK246-GRでも同様に使えます。IDSSの値が、気温25〜30℃において3.98mA±0.1mAの良く揃ったものを選別してください。2SK30Aあるいは2SK246のYランクの中から2個合わせて3.8mAとなる組み合わせを作って並列にして使ってもかまいません。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますのでより精密に選別したものを頒布しています。

2SK3767 or 2SK3563 or 2SK3567 or 2SK2662・・・電源回路。耐圧(VDSS)が400V以上でドレイン電流(ID)が1A以上、形状がTO-220タイプのMOSFETが適します。指定型番の手持ちがなくなっても代替品を頒布しますのでご安心ください。足の接続はすべて共通です。

2SC3503・・・初段電源回路。耐圧(VCEO)が250V以上で放熱が可能な形状(TO-126あるいはTO-220など)のパワートランジスタが適します。2SC3425や2SC5550も使えます。この種の高耐圧トランジスタはいよいよ入手が困難になりました。

下図はFETおよびトランジスタの接続です。印字面に向かった図と下から見た図です。上から見た図ではありません。2SK117と2SK30AはDとSの位置が逆ですのでご注意ください。

1NU41・・・ファーストリカバリダイオード。電源の整流回路。いよいよ入手困難なので、頒布品以外ではUF2010やPS2010が適します。

1N4007・・・単なる逆電圧防止用なので、1N4006、UF2010、PS2010、1JU41など耐圧が300V以上ある廉価なシリコン・ダイオードで足ります。

1S2076A・・・小信号用シリコンダイオード。LED点灯。1S2075、1S1585〜1588、1SS270A、1N4148などの同等のダイオードもOKです。

37Vのツェナダイオード・・・37Vのものがあれば1個で足ります。ツェナ(定電圧)ダイオードは異なる電圧のものを直列にして組み合わせることでさまざまな電圧を得ることができます。合計が合えばいいので24V+13Vでも20V+17Vでもかまいません。当サイトの部品頒布は17V+20Vの組み合わせです。

各種ダイオードの記号と電流の方向と実物のマーキングです。下図左はシリコンダイオード(1NU41、1N4007、1S2076Aなど)で、下図右はツェナ(定電圧)ダイオードです。電流の向きが逆ですのでご注意ください。回路図の記号は矢印風の形をしていますが、実際のダイオードは鉢巻のようなマーキングがしてあります。


抵抗器・・・回路図のとおりです。W数記載がないものはすべて1/4W型です。100Ω半固定抵抗器に抱かせる47Ωはリード線が細くて穴に通しやすい1/4Wの超小型ですが、通常の1/4W型でも実装は可能です。

ボリューム・・・アルプス製RK27シリーズの2連ボリュームを推奨します。2連ボリュームは抵抗値のばらつきがある(ギャングエラーという)ためステレオで使った時に左右の音量揃わないという問題が生じますが、RK27シリーズは精度が格段に良いのでギャングエラーはほとんど起きません。2連ボリュームのギャングエラーに関するレポートはこちら

半固定抵抗器・・・BOURNSの15回転横型で100Ωのものを平ラグの穴に合わせて足を曲げて取り付けます。調整がデリケートなので多回転のものが使いやすいです。

コンデンサ・・・10μF以上のものはアルミ電解コンデンサ、1μF以下のものはフィルムコンデンサでいずれも通常品です。オーディオ用と称するものは概してサイズが大きいので平ラグに乗らないことがありますのでご注意ください。

スイッチ類・・・電源スイッチで使用したのはミヤマ製のLED付ロッカースイッチ(型番:DS-850)です。端子の太い2つがON/OFFスイッチ端子、小さい2つがLED用で「+/−」の刻印があります。LEDは3〜5mAで適度に光ります。順方向電圧は約2Vです。Bass Boostで使用したのはミヤマ製の6PトグルスイッチMS-550FBです。スイッチ類は好みで選んでください。

平ラグおよび樹脂スペーサ・・・平ラグは20Pと15Pの樹脂製のものを使います。20P側はシャーシとの隙間に多くの線材が通るので高さ10mmが必要です。15P側は高さ8mmがあれば足ります。20P平ラグ中央の穴を固定するナットは誤接触を回避するためにポリ・ナットがよいです。15P平ラグにも中央に穴が開いていますが使いません。いずれも頒布しています。

ビス、ナット、ワッシャ類・・・頒布している「MW汎用シャーシ用 ビス&ナットset」の内訳と使い方は以下の通りです。

用途種類数量
出力トランスビス(3点セムス、10mm)+スプリングワッシャ+ナット4
ゴム足ビス(3点セムス、10mm)+ナット4
真空管ソケットビス(2点セムス、8mm)+スプリングワッシャ+ナット4
20P平ラグビス(2点セムス、6mm)+10mmスペーサ+スプリングワッシャ+ナット(中央はポリナット)3
15P平ラグビス(2点セムス、6mm)+8mmスペーサ+スプリングワッシャ+ナット2
トランスカバービス(2点セムス、6mm)4
底板ビス(2点セムス、6mm)4

1.2mm径銅線、エポキシ系ボンド・・1.2mm径銅線は、アース母線と2SK117の熱結合用に使います。太さのある銅線・すずメッキ銅線が適します。ボンドは「セメダインハイスーパー30分硬化」など一般的なエポキシ系2液混合タイプです。作業がもたもたしなければ5分硬化タイプでもOKです。

部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm


<製作と調整>

作業の順序:

  1. 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
    1. 実装のヒントが書いてあるのでこのページ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm)をしっかり読む。
    2. 平ラグのパターンシート(http://www.op316.com/tubes/tips/data/20p-large.pdf)をダウンロードする。
    3. 本サイトの回路図と平ラグパターンを見ながら自分で描いてみて、頭に入れる。
    4. 平ラグの端子穴ごとに作業手順が違うので、どんな手順でハンダづけしてゆくか考える。

  2. 平ラグユニット上のジャンパー線の取り付け・・・ジャンパー線は0.35〜0.55mm径の銅線が適します。銅線はホームセンターで廉価に入手できますが、切り取った抵抗器のリード線でも十分に代用できます。秋葉原で売られている銅線のほとんどはポリウレタンコーティングで絶縁されているので使えません。ポリウレタンコーティングは高めに設定したハンダの熱で落とないわけではありませんが、作業性は非常に悪いです。ジャンパー線はホチキスの針のように折り曲げて取り付けます。

  3. 平ラグユニット上の部品取り付け・・・ダイオードや2SK117、2SK30Aの取り付け向きに注意してください。20P平ラグのセンター穴まわりは、端子と穴とが接近しているので、ジャンパー線は穴を避けるように曲げています。抵抗器やコンデンサはリード線を切り詰めないでやや長めにした方が仕上がりが良くなります。特にツェナダイオードは熱に弱いのでリード線は短く切らない方が安全です(リード線は長くても動作に支障ありません)。平ラグの内側の列の穴はかなり大きいのでハンダは惜しまずにたっぷりと流し込みます。

    電源ユニット側は発熱部品がたくさんあります。MOS-FETに取り付けた放熱器はどこにでも売っているビスで留めるタイプで、2SC3503の放熱器は熱伝導両面シートで貼り付けるタイプです。ある程度放熱を保持できれば十分ですので方式は問いません。放熱器を付けた2個の半導体はシャーシに取り付けた時に上になるように、熱に弱いアルミ電解コンデンサは下になるように配慮しています。たとえば、100Ω2Wの抵抗だけは下の方になってしまったので、1000μF/16Vと上下でかぶらないようにずらして取り付けています。

    JFETのバイアス特性は温度によって変化します。本機の差動バランスを調整するためにはシャーシをひっくり返して裏蓋を開けなければなりません。アンプをひっくり返した状態で動作させると、6DJ8の熱が上ってくるため、2SK117の温度にむらが生じます。むらが生じた状態で差動バランスを調整しても正しい調整にはなっていませんから、アンプを元の姿勢に戻すと差動バランスが狂ってしまいます。差動ペアとなっている2SK117の温度安定を得るために、1.2mm径くらいの太い銅線などを使って熱結合することをおすすめします。2SK117の上にボンドを少したらし、その上に銅線を乗せ、さらにそこにエポキシ系ボンドを追加します。ボンドは自分の重さとねばりでカマボコ状になってやがて固まります。(下の画像)

    (この参考画像は別のアンプのものです)

    電源ユニットは、配置上後から線材をつなぐのは難しいので、周囲とつなぐ線材はあらかじめすべて取り付けておきます。アンプ側ユニットの線出しは後からでも可能なのと電源ユニットから来る線を受け入れる側なので、線出しは必要ありません。

  4. 音量調整ボリュームシャフトの切断・・・金鋸でボリュームシャフトを適当な長さに切断します。その際、切屑が穴からボリュームの中に入らないように養生してください。ツマミの内側に加工時のバリが出ている場合は、そこにひっかかってボリュームシャフトが入りませんので、細いやすりを入れて削り取ります。

  5. 音量調整ボリューム上の抵抗器の取り付けと線出し・・・ミニワッターでは、ボリューム回転角と音量感の使いやすさを考えて音量調整ボリュームに補助抵抗をつけており、画像のように処理したらいいでしょう。しかし、工作が少々面倒なので省略してもかまいませんし、省略してもアンプの性能は変わりません。

    音量調整ボリュームからは全部で6本の線が出ますので、これらはあらかじめ線出しをしておきます。線材の長さが足りないと仕上がりがみっともなくなるので、線材は余裕をみて長めにしておきます。

  6. 電源スイッチのLED部分への部品取り付けと線出し・・・LEDまわりは、並列逆向きのダイオードと直列に入れる抵抗器の配線があります。上に参考画像があります。熱収縮チューブは、普通のドライヤーでは無理で専用のヒーターが必要ですが、45W以上のハンダごての腹であぶるとうまく縮んでくれます。熱収縮チューブはつけずに配置で接触をかわしてもかまいません。

  7. RCAジャックのアースリングの事前加工・・・RCAジャックのアースリングはナット締めの際にくるくる回ってしまって厄介です。そこで、前加工してL/Rの2個をつないでしまいます。右画像は、パネルを流用してRCAジャックを逆向きに取り付け保持し、アースリングの端子部分を折り曲げてすきまにハンダを流し込んでで接着しているところです。このようにつないでしまえばナットで締め付ける時に回転したりしません。

  8. シャーシ追加工の穴あけ・・・ミニワッター汎用シャーシを使った場合に追加で最低限開けなければならないのは、電源ユニット取り付け穴(3.4mm径×2)です。

    そのほかには、Bass Boostスイッチ(6mm径)、スピーカーのインピーダンス切り替えスイッチ(6mm径)、入力切替ロータリースイッチ(9mm径)、AKI.DACおよびDAC用トランスの取り付け穴などを追加する場合は、ご自身の設計に合わせて穴あけを済ませておきます。穴あけの位置決めでは、他の部品と接触しないこと、トランスカバーなどを固定するビスの邪魔にならないことなど注意してください。シャーシのボリューム用の穴と入力端子(RCAジャック)用の穴の内側はサンドペーパーがけをして塗装をはがしておきます。

    電源ユニットの発熱が結構大きいので、トランスカバー下の側面に放熱用の小穴を5つほど開けてあります。この穴の追加は他のミニワッターにおいても有効です。

  9. シャーシへの主要部品の取り付け・・・ACインレット、ヒューズホルダー、入出力端子、真空管ソケット、真空管ソケットまわりのラグ板、電源トランス、出力トランス、スピーカー端子をシャーシに取り付けます。音量調整ボリューム、スイッチ類、電源ユニット、アンプ部ユニットはまだ取り付けません。

  10. 出力トランスの1次側の配線・・・出力トランスの1次側の「赤」と「橙」はプレート回路ですので、真空管ソケットの1-pinに「橙」、6-pinに「赤」を配線しておきます。「橙」と「赤」の位置関係を逆にしてはいけません。

  11. AC100Vまわりおよびヒーター回路への配線と通電試験・・・ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、電源トランスの100V側、スパークキラーの配線を行い、ヒューズを入れて最初の通電試験を行います。結線は下図を参考にしてください。描画上の都合で線を並行させていますが、ハム対策として実際の配線では往復を捻ることをお忘れなく。電源トランスの各端子に定格よりもやや高めの電圧がきていることを確認します。

    そこまでがOKになったら、12.6Vのヒーター回路を配線します。下図では球ごとに分けて配線していますが、1本の線で渡り歩いてもかまいません。ヒーターまわりは交流回路なので電源の極性は関係ありません。ヒーター回路のどちらか一端はアースにつなぎますので、今のうちに真空管ソケットのセンターピンとつないでおくと後が楽です。真空管を挿して通電試験を行います。LEDおよびヒーターがほどよく光ることを確認します。

  12. 電源ユニットの取り付け、電源トランスへの配線・・・2個の出力トランスから出ている黒色の線を1つにしてから電源ユニットにつなぎ、電源ユニットをシャーシに取り付けます。上の画像では黒色の線が短いので立ラグで中継させています。電源ユニットと電源トランスの185V巻き線をつなぎます。

  13. 電源ユニットの通電試験・・・電源ユニットから引き出したまだどこにもつないでいない線が何かに接触しないように先端にテープを巻くなどして通電試験を行います。電源ON時にテスターを当てておく箇所は「V+〜GND間」がいいでしょう。電圧は電源ON後数十秒をかけてゆっくり電圧が上昇すること、電圧はすべて10%程度高めに出ていることを確認します。アンプ部にはまだ電流が流れていないので、マイナス電源にはほんのわずかしか出ません。

    この通電試験がOKでない場合は、決して次の作業には進まないでください。違反してトラブルが生じて掲示板でヘルプを請うても助けることができません。

  14. 真空管ソケットのセンターピンをつなぐアース母線の取り付け・・・本機の場合、アースは母線というほどのものはないのですが、アースを1ヶ所でまとめた方が作りやすいのと、どのみち真空管ソケットのセンターピンはアースしなければならいので、「コ」の字型に曲げた銅単線を使ってアース母線としています。ヒーター回路のどちらか一方とセンターピンがつながっていることを確認しておきます。

  15. 真空管ソケットまわりの部品取り付けと配線・・・まず、グリッドに取り付ける4個の1kΩの配線をします。この1kΩは発振防止のためですのでできるだけ真空管ソケットのピンの近くに取付ないと意味がありません。その際、平ラグとつなぐ線も出しておくと後が楽です。次に、カソードに取り付ける4個の4.7Ωと910Ω3Wを取り付けます。

    6463/6350ピン接続図(裏から見た図)→

  16. アンプ部ユニットの取り付けと真空管ソケット側および電源ユニットとの接続・・・アンプ部ユニットを取り付けます。電源ユニットから出ている+37Vと-5.9Vをつなぎます。アースは、「電源ユニット→アンプ部ユニット経由→アース母線」とすると配線がやりやすいです。あらかじめ真空管ソケット側から出しておいた4本の線をアンプ部ユニットにつなぎます。

  17. 最終通電試験・・・ここまでの配線がすべて完了していれば、音は出ませんが真空管を挿した状態ですべての回路に電流が流れる通電試験ができます。但し、上記11.および13.の通電試験がOKであることが条件です。DCVレンジにセットしたテスターで、出力段カソード抵抗(910Ω)の両端電圧が測定できる状態にして電源をONします。電圧が徐々に上昇して26Vくらいに落ち着けばひとまずOKです。もし23V以下あるいは29V以上だったら必ずどこかに配線の漏れやミス、ハンダの不良があります。

  18. 出力段のDCバランスの暫定調整・・・この状態でしばらく通電して動作が安定しているかどうかチェックしておくといいです。DCVレンジにしたテスターで回路図でいうところのX点〜Y点間の電圧を測定します。ほとんど0Vの場合もあれば0.03Vくらいが生じていることもあります。100Ωの半固定抵抗器を調整して0.003V以下すなわち3mV以下となるようにします。時間が経つと変化しますし、風が当たっても変化しますので今の段階で無理して1mV以下に押さえ込もうとしても意味がありません。

  19. 入力端子〜音量調整ボリューム〜アンプ部ユニット間の配線・・・音量調整ボリュームを取り付けます。その時、ボリュームとシャーシが接触する面の塗装が剥がしてあるか確認してください。ここでの接触がないと音量調整ボリュームを操作した時にノイズが出ます。音量調整ボリュームから引き出してある線を、入力端子(RCAジャック)およびアンプ部ユニットにつなぎます。この時、入力端子(RCAジャック)への線が浮いてしまわないようにシャーシの隅を這わします。

  20. スピーカー関係の配線・・・出力トランスから出ている線をスピーカー端子およびアンプ部ユニットにつなぎます。本サイトの作例ではスピーカー端子の赤を4個使って4Ωと8Ωを両方とも端子に出しましたが、4Ωと8Ωはスイッチで切り替えてもいいでしょう。

    白(0) → 「アンプ部ユニットのアース側」経由で「スピーカー端子(黒)」
    黄(4Ω) → スピーカー端子(赤の4Ω側)
    青(8Ω) → 「アンプ部ユニットの負帰還抵抗側」経由で「スピーカー端子(赤の8Ω側)」

  21. 参考画像・・・私が製作したものはいろいろオマケを追加してこんな風になっています。電源スイッチとボリュームの間のロータリースイッチは、RCA入力とUSB DACを切り替える入力セレクタです。シャーシ後方上面のトグルスイッチはスピーカーインピーダンスの4Ωと8Ωの切り替えです。画像のアンプにはBass Boostはつけていません。使用したシャーシが初期のものなのでスピーカー端子を取り付ける穴が4個しかないためです。画像のアンプの回路は、公開した回路図とは少し違っているため実装されている部品も回路図にないものや異なったものがあります。グレーのツマミは古いアンプからの取り外し品で現在は廃版です。

  22. 最終チェック・・・アースはつなぎ忘れが起きやすくトラブルの主たる原因なので、「アース母線」と「アース」とつながっていなければならないすべてのアースライン間の導通をチェックします。シャーシ、アース母線、20Pと15Pの平ラグのアースポイント、RCAジャックの外側、スピーカー端子の黒い側、ボリュームシャフト、ヒーター回路など。

  23. 音出しと最終のプッシュプルDCバランス調整・・・これで完成です。音楽など聞きながら、時々シャーシを横に倒して出力段のDCバランスの状態を監視しつつ、最終調整をします。シャーシを完全にひっくり返してしまうと、真空管の熱があがってきて2SK30Aの温度が不安定になるので、横倒しでの調整をおすすめします。

  24. シャーシの組み立て・・・最後にトランスカバーと底板を取り付けて完成です。どちらもネジ山が切ってあるのでナットは必要ありません。

  25. 文字入れ・・・パネル面への文字入れは、レーザープリンタで透明なシールに印刷したものをカッターで切り取って貼り付ける方法です。「カラーレーザー&カラーコピー用フィルムラベル(透明・A4)」というのがコクヨなどから出ています。シールなので貼り付けた周囲に段差ができますが、ミニワッター汎用シャーシとは相性がいいらしくあまり目立ちません。「耐水・屋外用」は粘着力が強く丈夫なので耐久性もあります。


<測定>

無帰還時の利得は22.5倍になりましたので設計時の計算どおりです。これに11.6dBの負帰還をかけて、最終利得は5.9倍です。6463/6350という球はばらつきが大きいようですので、正確に同じ数値になるとは限りません。この値からかけはなれていなければ(±10%)OKです。

歪率特性はご覧のとおりです。小出力領域ではこれまで製作したどのミニワッターよりも低歪となりました。これは残留雑音が少ないL-chのデータですので、R-chは残留雑音が多い分だけみかけ上の最低歪率はもう少し悪くなります。

周波数特性は下図のとおりです。安定した良い結果だと思います。



<所感>

6463/6350はなかなか魅力的な音を出します。出力段に使うには内部抵抗が6N6Pよりも高いということで長らく敬遠してきた球ですが、春日製の14kΩの出力トランスが良くマッチしてくれました。内部抵抗値は6DJ8とほぼ同じですので、パワーアップした6DJ8差動PPとも言えるでしょうか。

音の傾向は、6N6Pに比べるとやや高い周波数寄りの感じがしますので、バランスをとるために負帰還量を気持ち増やし目にしてありますが、超低域の再生能力は6N6Pにはちょっとかないません。このアンプの特に良いところは中高域の雑味のない透明感やなめらかさです。

ミニワッターアンプを作って毎回思うのは、アイデアやネタは尽きないなあということです。これまでに何度もミニワッター汎用シャーシにUSB DACを内蔵できないかと考えたのですが、なかなか収まりの良い方法を思いつきませんでした。それが、横出しのUSBケーブルを使うだけで解決してしまうことに気づくのに5年ほどもかかってしまったというわけです。

電源トランスが5687・6N6Pシングル・ミニワッターと同じものが使えますから、5687・6N6Pシングルをグレードアップするのにも向いています。


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