Mini Watters
6N6P全段差動PPミニワッター2012
Vesion2


<6N6P差動PPミニワッターの系譜・・・2015年1月のモデルチェンジ>

6N6P差動PPミニワッターは下図のような生い立ちがあります。

春日無線製の130Vの電源トランスを使ったのが最初のバージョンですが、電源電圧が低いため6N6Pの能力を十分に引き出すことができませんでした。そこで実験的に製作したのが電源トランスの電圧を145Vにした欧州バージョンで、それをベースに誕生したのが電源トランスの電圧を150Vに高くした6N6P差動PPミニワッター2012 Version1です。一方で、最初のバージョンの電圧130Vのままで改良した6N6P差動PPミニワッター(改)という地味なバージョンも存在します。

全体に共通していえることは、初期のバージョンは初段に2SK30Aを採用していますが、後になって改良されたバージョンはすべて2SK30Aよりもgmが高い2SK117に変わっているという点です。

初段のJFETを変更したのには理由があります。2SK30Aで得られる利得はあまり大きくなく、6N6Pと組み合わせた場合の総合利得もあまり高くできません。最終利得を一定値以上を確保しつつかけることができる負帰還量はせいぜい6dBです。

これくらいの利得設計では、Bass Boost機能をつける余裕がありません。音響的にもあとすこし・・・3dBでも4dBでも・・・負帰還量を増やせればゆったりとした鳴り方が期待できるのですがちょっと足りない感がありました。2SK117に変更することによって、初段の利得は2SK30Aの時と比べて2倍以上に増やすことができます。

2SK30Aを使った6N6P差動PPミニワッター2012 Version1をベースとして最初に行った改良が6N6P差動PPミニワッター2014で、それをふまえてさらに改良したのが6N6P差動PPミニワッター2012 Version2です。すでに2014というのがあるので、2012 V2と呼ぶことにしました。


<設計コンセプト>

「真空管アンプの素」(技術評論社)はもっぱらシングル回路を材料にした記事になっていますが、当初から小出力の差動PP化したミニワッターを発表することを視野に入れていました。ミニワッターは小出力ながら一人前のスケールの音を出すアンプというコンセプトですので、差動PP化した場合はその性格はさらにはっきりとしてきます。

・コンパクトかつ消費電力が僅少な真空管アンプであること。
・ミニパワーであっても広帯域でスケール感のある鳴りっぷりであること。
・限りなくシンプルな回路、少ない部品点数であること。
・廉価かつ入手容易な部品で製作できること。
・誰が作っても安定動作し、再現性があること。
・真空管やトランスの選択肢が広く、遊びしろがあること。

Version1〜Version2への変更ポイントは以下のとおりです。

・2SK30Aから2SK117に変更して利得を増やし、利得設計に余裕を持たせる。
・利得の余裕を負帰還にまわして、歪率を下げ、Bass Boostもつける。
・初段の出力インピーダンスを下げ、ドレイン電流を増やしてA2級動作領域を増やす。
・初段電源をドロップ抵抗を排してトランジスタ化し、電流ロスを減らして、その分を出力段にまわす。
・その他、各回路定数を地味に変更する。

自作環境はどんどん変化し、上記のコンセプトのひとつ「入手容易な部品で製作」が実現できなくなってきました。真空管が量産をやめてから20年以上が経ちますが、本機で使用している半導体の多くもついに製造中止となり、入手が困難になりつつあります。しかし、代替部品を探したり、頒布のためのストックを確保したり、特注で作るなどしてなんとかやりくりしている今日このごろです。


この記事は、
私がこのアンプを設計&製作するにあたって考慮したことをできるだけ詳しく記述しましたので文章量が多くなっています。
わかる方もいまひとつわからない方も頑張ってお読みください。


<全回路図>

最新版の全回路図です。設計内容の詳細は以下に説明します。


<初段の設計>

初段は2SK117-BLを使った差動回路です。真空管ではなくJFETを使った理由は2つです。真空管は経年変化や特性の劣化がありますので、直結回路を組む場合は注意が必要です。シングル回路の直結では初段プレート電圧が1Vくらい変化しても大勢に影響ないですが、差動PP回路では初段の差動バランスがわずかでも狂うと出力段のプレート電流がみるみる変化してプッシュプルのDCバランスがとれなくなってしまいます。初段に半導体を使えば真空管で生じるような経年変化や劣化はほとんどありませんし、初期の調整で追い込んでおけばDCサーボなしでも十分な安定が得られます。半導体を併用するもうひとつの理由は、ミニワッター汎用シャーシにはmT9ピンのソケット穴が2つしかないことです。出力段で真空管を2本使いますのでスペース的にもう余裕がありません。

初段の動作条件は概ね下図のとおりで、電源電圧は31〜32V、ドレイン電流は約1.9mA×2、ドレイン電圧は16Vくらいに設定しています。出力段の入力信号の最大振幅は±7Vくらい(出力段の設計より)ですから、最大出力をドライブするためには初段ドレイン電流は1.0〜2.8mAの範囲で変化する必要があります。本機で使用する2SK117のIDSSは3mA以上のものが必要です。

共通ソース側の定電流回路には2SK30Aのゲートとソースをショートさせて定電流ダイオード化したものを使います。定電流の指定値は2パターンあって3.8±0.1mAまたは4.1mA±0.1mAです。GRランクの2SK30Aの中からIDSSが規定値になるものを選別しなければなりません。2SK30AのYランクの中から2個合わせて指定値になる組み合わせを作ってもかまいません。注意点としては、温度が上昇するとIDSS値は低下しますので、25℃で選別する場合はちょっと多めの3.9mAあるいは4.2mAのものが適します。希望値のものはなかなか選別できないと思いますので、IDSS=3.8mA〜4.2mAで精密に選別したものを頒布します。

ドレイン負荷抵抗は8.2kΩ(3.8mAの時)または7.5kΩ(4.1mAの時)です。JFETの内部抵抗は非常に高く2SK117では100kΩくらい※ですから、初段増幅回路の出力インピーダンスは7.5〜8.2kΩ//100kΩ=7.0〜7.6kΩということになります。6N6P側からみるとこの値に発振止めグリッド抵抗1kΩが加わった合計値となります。V1ではドライブインピーダンスが18kΩ+1kΩ=19kΩと大きかったのが弱点でしたが、V2の本機では8kΩ程度まで下げることでA2級領域を広げて最大出力を稼ごうというわけです。はたしてこれがどれくらい効果があるのか、それは作ってみてのお楽しみです。

初段の出力インピーダンスと出力管の入力容量とでつくられる時定数を持ったローパスフィルタが形成され、これが本機の高域側ポールのひとつになります。6N6PのCg-pは3.5pFで、Cg-kは4.4pFです。出力段のグリッド→プレート間の電圧利得は10.3倍(後述)ですので、入力容量は、3.5pF×(10.3+1)+4.4pF=44pFとなります。案外大きな値ですね。μが高い球は油断できません。8kΩと44pFとでつくられるローパスフィルタは450kzで-3dBの減衰となります。真空管式で負帰還がかかったアンプとしては申し分のない高い周波数です。

2SK117をId=1.9mAで動作させた時のgm(正確には|Yfs|と表記)は11mSくらいですから、初段の利得の基礎数字は、

11mS×8.2kΩ=90.2倍
くらいとみていいでしょう。Id=2.05の場合のgmはもう少し大きな値になりますが、ドレイン負荷抵抗が7.5kΩに下がるので帳消しになります。共通ソース側にある差動バランス調整抵抗によって電流帰還がかかるので、実際の利得はもう少し低下します。その計算方法は少々面倒ですが以下のとおりです。まず、差動回路の片側あたりのソース抵抗を求めます。33Ωと半固定抵抗器(50Ω)が並列になっていますから、

33Ω//50Ω=19.9Ω
となります。半固定抵抗器のポジションによってこの値は変化しますが気にしないことにします。次に、ドレイン負荷抵抗とソース抵抗の比率を求め、さらにこの値とさきに求めた初段利得との調和平均を1/2にしたものを求めれば、それが初段の利得です。

8.2kΩ÷19.9Ω=412
(90.2×412)÷(90.2+412)=74.0倍
本機は初段と出力段とが直結になっているため、初段差動回路のバランスが出力段のDCバランスを支配します。そこで、初段差動回路のソース側に100Ωの半固定抵抗を入れて微調整できるようにしています。ただ、100Ωのままでは粗くなって調整しにくいので、33Ω×2個の抵抗を抱かせて微調整が効くようにしました。


<出力段の設計>

出力段にはロシア製の低内部抵抗、高gmの双3極管6N6Pを使います。米国および欧州には6N6Pに該当する球、無条件で代替できる球はありません。特性的に最も似ているのは5687ですが、ピン接続とヒーター定格が違いますので差し換えはできません。6N6P-Iというほぼ同じ特性の球がありますが、ヒーター電流が0.9Aと多いので本機指定の電源トランスは使えません。6N6Pの特性データはこちら→6N6P.pdf

出力トランスはKA-8-54P2(8kΩ)を使いますので、差動PPにおけるセオリーどおりロードラインは1次インピーダンスの1/2である4kΩで引きます。この小さくて見栄えのしない出力トランスは1次インダクタンスが高くローエンドの表現力が優れています。ものごとは見かけで判断できないことの好例です。

ロードラインからバイアスは-5Vくらいと読み取れますが、この特性データはあまりあてになりません。動作の範囲は、バイアスが浅い側は0Vを超えてすこしだけプラスの領域に入ったところとバイアスが深い側は-14Vくらい、すなわちドライブ信号の振幅は±7Vくらいになりそうです。プレート電流は19mA、プレート電圧は150V〜160Vくらいですので、ユニット当たりのプレート損失は、19mA×(150V〜160V)=2.85W〜3.04Wとなります。差動PP出力回路の最大出力は、動作に無駄がない条件下では、

プレート電流×プレート電流×負荷インピーダンス÷2=19mA×19mA×8kΩ÷2=1444mW
となり、現実的には出力トランスのロスや動作条件の制約などが加わってこれよりもすこし低い値になります。1Wにおいてどれくらいの歪率になるかが気になります。

差動PP出力回路におけるロードラインおよび出力段の動作ポイントについて少々補足しておきます。理想的な直線性を持った真空管であれば、設定すべきプレート電流は、ロードライン上のプレート電流の最大値(バイアス=0Vあたり)の1/2でいいことになります。しかし、実際にやってみると確かに最大出力は1/2ポイントで最大になるのですが、プレート電流は1/2よりもすこし多目に流してやった方が歪み率特性が良くなることがわかっています。そのため、本機の動作条件も、1/2ポイントよりもやや左上寄りに設定してあります。

初段のドレイン電圧が16Vでこれが6N6Pのグリッド電圧になりますが、バイアスが-5Vなので6N6Pのカソード電圧は21Vくらいになります。出力段プレート電流を19mA×2にするには、出力段の共通カソード抵抗値は560Ωがぴったりになります。オリジナルの全段差動PPアンプは出力段にも定電流回路を採用していますが、本機では560Ωの抵抗1本で済ませています。その理由は、できる限り回路を簡素化したかったこと、抵抗1本でも十分な差動動作が得られることにあります。560Ωの消費電力は約0.8Wですので3W型の採用になります。

(21V)÷560Ω=37.5mA
21V×37.5mA=0.788W
動作基点のプレート電流=19mAで差動動作をさせると、2管のプレート電流は0mA〜19mA〜38mAの範囲でシーソーのように増減します。プレート電流が34mAになったあたりでロードラインの左上の一部が有効動作範囲からはみ出していることに気付かれたと思います。本機は初段と直結になっているため、あまり強力ではありませんが弱いA2級動作が可能で、そのためこのような動作条件にしてあります。

出力段の利得を求めてみましょう。本機の動作条件における6N6Pのμは17くらい、内部抵抗は2.6kΩくらいです。差動PP回路における計算上の負荷インピーダンスは8kΩの1/2の4kΩですので、6N6Pのグリッド入力からプレート出力までの利得は以下のとおりです。

μ×({負荷インピーダンス÷(内部抵抗+負荷インピーダンス)}=17×({4÷(2.6+4)}=10.3倍
この後に出力トランスがきますが、出力トランスの巻き線比はインピーダンス比の平方根ですから、
インピーダンス比→ 8kΩ:8Ω すなわち 1000:1
巻き線比→ 31.6:1
です。プレートに表れた出力信号は1/31.6となってスピーカー出力になりますが、実際の出力トランスは10%くらいのロスがありますので1/35くらいとみていいでしょう。


<利得の設計>

無帰還時の利得の計算:

これまでの計算で得た各段の利得は以下のとおりです。

  • 初段=74.0倍
  • 出力段=10.3倍
  • 出力トランス=1/35倍
これらを総合すれば本機の総合利得を求めることができます。
  • 74.0倍×10.3倍×1/35倍=21.8倍
本機の総合利得の実測値は約22倍ですので、計算結果と実測はよく一致します。この値は無帰還時のものです。負帰還をかけた時の利得は以下の式で求めることができます。

負帰還時の利得の計算:

負帰還をかけた時の利得の一般的な計算法は手順が面倒なので私は以下の方法を使っています。

帰還後の利得=(元の利得×帰還定数´)÷(元の利得+帰還定数´)
です。ところで、上式でいう帰還定数´というのは、帰還素子の減衰率(β)の逆数、要するに

帰還定数´=1/β=(4.3kΩ+620Ω)÷620Ω=7.935倍
のことです。一般に知られる負帰還の計算法では帰還定数βを使いますが、式が複雑になって暗算できないので、私はもっとスピーディーに計算可能なこの方法を使っています※。数学的には同じことなので得られる結果はどちらも同じです。さて、上記の式を使って負帰還時の利得を計算すると以下のようになります。

帰還後の利得=(21.8×7.935)÷(21.8+7.935)=5.8倍
※詳しい説明は「真空管アンプの素」の169ページにあり、負帰還に関するさまざまな実験データや関連知識は156ページ〜180ページに書いてあります。


<初段〜出力段直結の設計>

差動バランスの調整:

本機では初段と出力段が直結になっているため、初段のドレイン電圧がそのまま出力段のグリッド電圧となり、そのばらつきが出力段の差動バランスを支配しています。プッシュプル出力回路では、2管のプレート電流値を精密に等しくしておかないと、出力トランスの帯磁のために低域特性がみるみる劣化します。設計上の出力管のバイアスは-5Vくらいなわけですが、この値にはかなりの個体差があります。2管のプレート電流値を精密に同じにするということは、個体差に応じでグリッドに与える電圧をずらしてやらなければなりません。

従って、初段差動回路には、2つのドレインの電圧を一定範囲でずらすための調整回路が必要になります。それを行うのが2SK117の共通ソース側に入れてある100Ωの半固定抵抗器です。この回路は半固定抵抗器と並列に33Ωを抱いているので、センターポジションでは「19.9Ω+19.9Ω」になっていますが両端のポジションでは「0Ω+24.8Ω」あるいは「24.8Ω+0Ω」になります。これによって2SK117のバイアスのバランスを変化させ、ドレイン電流が変化し、ドレイン電圧すなわち6N6Pのグリッドに与えられる電圧のバランスを変えることができます。

2つの出力管のプレート電流値のバランスは、回路図上のX点〜Y点間にデジタルテスターを当てて測定します。2管それぞれに正確に同じ値(たとえば19mA)が流れている時は、2つの3.3Ωの両端にそれぞれ19mA×3.3Ω=62.7mVの電圧が生じますから、X点〜Y点間の電圧は0Vです。バランスが崩れて、一方の球のプレート電流が18.5mAでもう一方が19.5mAになると3.3Ωの両端電圧はそれぞれ61.05mVと64.35mVになって3.3mVの差が生じます。プレート電流のアンバランスが生じるとX点〜Y点間には1mAあたり3.3mVの電圧が検出できるわけです。

この調整回路でどれくらいの変化が得られるか簡易的に計算してみます。ドレイン電流の設計値は1.9mAですので、最も偏った両端のポジションでは1.9mA×24.8Ω=0.047Vのバイアスのアンバランスが生じます。初段の利得は74倍ですから、ドレイン電圧の変化は0.047V×74=3.5Vとなります(実際にはもうすこし低い値になります)。この程度の調整範囲が得られれば出力管のばらつきは十分吸収できます。

JFETのバイアス特性は温度によって変化します。本機の差動バランスを調整するためにはシャーシをひっくり返して裏蓋を開けなければなりません。アンプをひっくり返した状態で動作させると、6N6Pの熱が上ってくるため、2SK117の温度にむらが生じます。むらが生じた状態で差動バランスを調整しても正しい調整にはなっていませんから、アンプを元の姿勢に戻すと差動バランスが狂ってしまいます。この問題を回避するために、差動ペアを構成する2SK117を1.2mm径の銅線あるいはすずメッキ線で熱結合させて温度差が生じにくいようにすることを推奨します。


<電源回路の設計>

AC100V側〜電源トランス〜交流回路:

電源トランスは本機用に春日無線に特注したH24-0101を使います。この電源トランスは春日無線のカタログに載っていますので、いつでも誰でも購入できます。30VAの容量の小型電源トランスで、2次側はAC150V/AC135mAとAC6.3V/AC1.5Aの2つの巻き線があります。ヒーター巻き線は1.5Aまでですので、6N6Pならばぴったりですが、5687や6N6P-Iは電流オーバーになるので駄目です。巻線自体には余裕があるので、150V側からの電流を70mAぐらいに減らせば1.8Aが取り出せます。

整流回路〜リプルフィルタ:

150Vの巻き線をブリッジ整流して負荷ありの状態で190V〜195Vの整流出力電圧(回路図中のP点〜Q点間)を得ています。この巻き線から取り出せる交流電流の上限は135mAですが、ブリッジ整流した場合に取り出せる直流電流は交流電流の62%ですのでDC85mAが上限ということになります。整流直後の残留リプルは1.5〜1.8V※です。MOS-FET(2SK3767、2SK3563など)を使った簡易リプルフィルタを通過すると残留リプルは一気に減って1mV以下になりますので、チョークを使った回路よりもはるかに強力です。

※整流出力における残留リプルの求め方はここにあります→http://www.op316.com/tubes/tips/b390.htm

整流出力電圧(192Vとしておきます)は47kΩと1.5MΩによって分圧されますので、47kΩの両端は6V、1.5MΩの両端は186Vになります。MOS-FETのゲート〜ソース間電圧は本機の動作条件では約4Vになりますので、MOS-FETのドレイン〜ソース間電圧は10Vということになり、MOS-FETによる簡易リプルフィルタを経た電源の電圧は182Vくらいになります。本機の全消費電流は約85mAですので、MOS-FETで消費される電力は、10V×85mA=約0.85Wとなります。TO-220サイズの半導体に0.85Wの電力を食わせると表面温度がどうなるかのデータはこちらにあります。放熱板なしで+30℃の上昇、簡易放熱板をつけて+20℃の上昇です。

リプルフィルタ回路の動作の仕組みについては「真空管アンプの素」で詳しく説明していますが、ここにも簡単ながら説明があります。

疑似マイナス電源:

マイナス電源は本機の回路電流のリターンを流用した擬似マイナス電源方式です。リターン電流は77mAくらいなので、56Ω2Wを入れて約4.3Vのマイナス電圧を得ています。リターン電流の大半は出力段のプレート電流ですから、6N6Pを抜いた状態でのテストでは十分なマイナス電圧は得られません。電源回路単体のテストで規定のマイナス電圧が出なくても異常ではありません。

MOS-FETによる簡易リプルフィルタを経た電源の電圧182Vのうち約4Vはマイナス電源にまわってしまうので、アースを基準とした正味の電源電圧は178Vになります。

初段電源:

初段の電源はツェナダイオードとトランジスタを組み合わせたどこにでもある簡易型定電圧回路です。定電圧特性を得るのは20Vと12Vのツェナダイオードを2個直列にしたもので、このツェナダイオードに0.5mA〜数mAの電流を流すと両端電圧は常に32Vになろうとします。ツェナダイオードをアクティブにする電流は180kΩを流れる約0.8mAの電流です。トランジスタには耐圧が250V以上でhFEが40以上あるものが適しますが、本機で使った2SC3503のhFEは120〜190ですが50以上あれば使えます。

2SC3503のベースにはツェナダイオードから得た32V(実際にはもすこしだけ高いことが多い)が与えられますので、エミッタ側の電圧はそれよりも約0.6V低い31.4Vになります。ベースに入れた330Ωは発振防止ですが、この記事どおりの実装であればなくても安定します。エミッタ〜アース間に入れてある220kΩは電源OFF時の電源回路のあちこちのコンデンサに溜まった電荷を放出させるための抵抗です。これを省略すると、電源OFF時に回路のあちこちで電流の逆流が起きてしまうので省略はできません。

2SC3503のコレクタ電流は約7.8mAです。電圧を178Vから31.4Vにドロップさせますので、電位差は147Vほどありここで生じる電力ロスは147V×7.8mA=1.15Wになります。これをすべて2SC3503に食わせるとかなりの発熱になるので、電力ロスの一部の約0.41Wをコレクタ側に入れた6.8kΩ/2Wに分担させています。そのため2SC3503のコレクタ損失は1.15W−0.41W=0.74Wで済んでいます。それでもかなりの温度になってしまうので、小さな放熱器を貼りつけています。放熱器をつけた状態で2SC3503の表面温度は70℃くらいです。このあたりの考え方は6N6P全段差動ppミニワッター2014の初段電源回路と同じです。

電源電圧の配分:

2段直結回路の電源電圧は、各段が動作のために必要とするすべての電圧の足し算になります。

  1. 初段バイアス電圧・・・0.3V〜0.4Vくらい。2SK117の個体ごとにばらつく。
  2. 初段ドレイン電圧・・・16V。出力管をフルドライブするには11V以上であることが必要。
  3. 出力段のバイアス・・・-5Vくらい。6N6Pの個体ごとにばらつく。
  4. 出力段プレート電圧・・・155V
  5. 出力トランスの巻き線抵抗による電圧ロス・・・19mA×約100Ω=約2V
これら1.〜5.をすべて足すと、176〜178Vになります。これがアンプ部が必要とする電源電圧になります。この電圧はさきに説明した「アースを基準とした正味の電源電圧は178Vになります」と一致します。というか、一致するように電源回路側の都合とアンプ側の都合を修正し何度も計算し直して全体のバランスを取るわけです。

電源電圧の変動:

なお、回路中の電圧はAC100Vの変動と部品のばらつきと部品の特性変化の影響を強く受けます。さらに、回路の場所によってその影響を受ける度合いが異なります。

AC100Vが100Vではなく102Vになったとします。100Vの時に整流出力が192Vだったとすると102Vでは196Vになります。ヒーター電圧が変動すると真空管の特性も変化します。エアコンや温水便座のON/OFFなどでそれくらいの変動は当たり前に生じると思って、各部の電圧を測定する時は必ずAC100Vの電圧の状態もチェックしてください。初段の電源電圧はツェナダイオードによって安定化されているので電源電圧変動の影響をほとんど受けません。しかし、ツェナダイオードの電圧は温度の影響を受けて変動します。電圧が6V以上のツェナダイオードは温度が高くなほど電圧も高くなってゆきます。そのため、初段の電源電圧はアンプが温まるにつれて0.5V程度上昇し、それに合わせて初段ドレイン電圧も上昇します。定電流回路は温度が高くなるほど電流値が減少しますので、アンプが温まるにつれて初段ドレイン電圧はより一層上昇します。

本機では、そのような変化が生じても許容範囲内になるように設計してあります。

全消費電流:

全消費電流は以下の通りです。すれすれで電源トランスの定格である85mA以内に収まりました。

-計算の根拠乗数電流値
初段差動回路3.8mA×27.6mA
初段電源ブリーダー31.4V÷120kΩ=0.26mA×10.26mA
初段電源ZD電流(Ibを無視した概算値)(178V−32V)÷180kΩ=0.81mA×10.81mA
出力段プレート電流19mA×2=38mA×276mA
電源回路分圧電流192V÷(1.5MΩ+47kΩ)=0.124mA×10.124mA
合計--84.8mA


<アンプ部補足解説>

定電流回路の代替部品による解決策:

初段差動回路の定電流回路の選別&入手が最も困難だと思いますので、その解決法について解説します。ポイントは、初段の定電流回路や各部の電圧が設計値に正確に一致する必要などなく、重要なのは結果として出力段のカソード電圧が21Vになれば十分であるということになります。そのためには初段と出力段をつなぐ初段ドレイン電圧は16Vであることも必要です。これが守られるならば、初段の電源電圧は31.7Vに対して2Vくらい違ってもかまいませんし、初段ドレイン負荷抵抗は7.5kΩでも8.2kΩでもかまいません。定電流回路の値も3.8mAあるいは4.1mAでなくても、4.4mAであってもかまわないわけです。

秋月で入手できる2SK2881のIdssは4.5mAくらいが多いです。かりに4.6mAだとすると差動回路の片側のドレイン電流は半分の2.3mAになります。ドレイン電圧は16Vでなければなりませんから、ドレイン抵抗を6.8kΩだとすると、初段の電源電圧は、16V+(2.3mA×6.8kΩ)=31.64Vになります。これでしたら、初段の電源は元のままで使えます。

4.6mAではなく4.4mAだったらどうすればいいでしょうか。ドレイン抵抗を7.5kΩだとすると、初段の電源電圧は、16V+(2.2mA×7.5kΩ)=32.5Vになります。その場合は、電源回路のツェナダイオードの電圧の合計を33Vくらいに上げてやればいいのです。

手順としては、初段の回路定数を確定させないでおいて、まずは定電流回路の電流値を決めて、初段の回路定数をそれに合わせてゆきます。

JFETのIdssの簡易測定法は、部品入手のお助けページに解説があります。

ボリュームカーブ補正抵抗:

ボリュームの回転角と音量のバランスを調整するために、ボリュームのところに補助抵抗(100kΩ)を入れてあるのは他のミニワッターと同じです。この抵抗はなくてもかまいませんが、入れることで12時ポジションでの音量が通常のボリュームよりもすこし大きくなって使いやすくなります。抵抗値は51kΩ〜100kΩくらいで厳密さは要求されません。Version1からVersion2に改造する場合は、Version1でつけた56kΩはそのまま残してください。この抵抗があってもなくても、ボリュームがMaxのポジションでの利得(音量)は変わりません。なお、この抵抗器がある場合は、ボリュームポジションによって入力インピーダンスは変化します。100kΩをつけた場合の入力インピーダンスは、Min時で33.3kΩ、12時で約37kΩ、Max時で46kΩです。

入力のDCカット・コンデンサ:

ボリュームと初段2SK117のゲートの間に0.47μFのコンデンサが割り込んでいます。これは、DC漏れのあるソース機材をつないだ際に、出力段プッシュプル回路のDCバランスが狂ってしまうのを回避するためです。シングルアンプや一般的なプッシュプルアンプでは大して問題にはならないのですが、差動直結回路ならではの弱点です。0.47μFと560kΩによって0.6Hzにおいて-3dBとなる-6dB/octのハイパスフィルタ特性を持ちます。0.5Hz〜1Hzくらいの範囲であればよいので、他の組み合わせでもかまいません。

出力トランスのリード線の接続:

出力管(6N6P)のピン番号(1、6)と出力トランスのケーブルの色(赤、黒、灰)の関係は厳密に守ってください。これ間違えると正帰還による発振が生じて、スピーカーから「ギャーッ!」というけたたましい音が出ます。

出力管の発振止めグリッド抵抗:

出力段のグリッドには発振対策として1kΩの抵抗を入れてあります。発振というのは、出力管単体で負帰還とは無関係に起きるコルピッツ発振のことです。周波数は数MHz以上の高周波ですので聞こえませんが、動作時の各部の電圧が異常値を示すことで発見されます。オシロスコープがあれば容易に発見できます。この抵抗器は真空管ソケットの端子のできるだけ近くに実装してください。

負帰還回路とBass Boost:

本機は指定部品、指定出力トランスを使う限り位相補正なしで動作しますが、位相余裕を持たせるために負帰還抵抗(4.3kΩ)と並列に位相補正コンデンサ(220pF)を入れてあります。負帰還定数(4.3kΩと620Ω)は8Ω側からかけたものとして設定してあります。なお、6Ωのスピーカーをお持ちの場合は4Ω端子につないでください。

負帰還回路には1段のBass Boostを組み込みました。Boostしはじめる周波数は何Hzで、何dBくらいBoostしたらいいかは、お使いのスピーカーによって異なります。本機の設定では、8cm〜10cm径くらい小型スピーカーを想定してチューニングしてあります。15kΩを11〜13kΩに変更すればBoost量が減り、0.33μFを0.47μFに変更すればBoostが開始される周波数が下がります。スイッチを使ってこれらの組み合わせを変えられるようにしてもいいでしょう。

ヘッドホンを鳴らす(追加):

6DJ8全段差動PPミニワッター2017のヘッドホン回路がそのまま使えます。残留雑音が気になるようでしたら、分圧抵抗の値を5.6Ω+3.9Ωに変更してください。このアンプもヘッドホンを気持ち良く鳴らしてくれます。


<使用部品>

入手しやすく頒布可能な部品だけで構成されており、特殊な部品は使っていません。

電源トランス・・・春日無線変圧器製のH24-0101を使います。この電源トランスは6N6P差動PPミニワッター用に特注したものですが、誰でも購入することができます。整流出力特性の実測データがこちらにあります。

出力トランス・・・春日無線変圧器製のKA-8-54P2を推奨します。この出力トランスは前身であるKS-8-54Pの改良型で、1次インダクタンスがより高くなって低域のクォリティが高くなりました。タムラなどの値段が高い大型トランスと比べると見栄えこそしませんが、これはきわめて優れたトランスです。

シャーシ&ケース・・・ミニワッターのために特注で作っているもので、当サイトで頒布しています。詳しくはこちら(http://www.op316.com/tubes/mw/mw1-box.htm)をご覧ください。もちろん、ご自分で工夫するのもよいと思います。

6N6P・・・出力段真空管。オークションで比較的廉価かつ容易に入手できますが、春日無線変圧器でも扱っています(電圧増幅管で分類・・・http://www.e-kasuga.net/bunlist.asp?sid=56)。6N6P-Iや7044や5687はヒーター電流が0.9Aあり電源トランス(H24-0101)の定格をオーバーして使えませんのでご注意ください。

6N6Pと同等かそれ以上が期待できる球として高信頼管のE182CC/7119があります。具体的にはE182CC/7119全段差動PPミニワッターの記事を参照してください。

6N6P→ ←E182CC/7119

2SK117-BL・・・初段差動回路。IDSS値が3mA以上あって、バイアス特性が良く揃った選別ペアが必要です。ちなみにBLランクの2SK117のIDSSは6mA〜14mAですから十分に余裕がありますが、GRランクのIDSSは2mA〜6.5mAですので実測して3mA以上のものからさらに選別する必要があります。Yランクは使えません。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。秋月で扱っている2SK2881は2SK117と酷似している上に特性が比較的揃っており使えます。

実は少しの変更で2SK170-BLも使えます。裸利得が大きくなりすぎるので、差動バランス調整用の100ΩVRに抱かせた33Ωを外します。33Ωを抱かせた時に19.9Ωだったのが50Ωになって、強い電流帰還がかかって利得が2SK117と同程度まで落ちます。変更はこれだけです。

2SK30A-GR・・・初段定電流回路。ソースとゲートをつないで定電流ダイオードとして使います。2SK246-GRでも同様に使えます。IDSSの値が、気温25〜30℃において3.9mAまたは4.1mAの良く揃ったものを選別してください。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。

2SK3767 or 2SK3563・・・電源回路。リプルフィルタのMOS-FETは、耐圧350V以上で電流容量が3A〜8Aものもが使えます。千石であればTK5A50D、TK3A60DAあたりです。

2SC3503 or 2SC2688 or 2SC3425・・・初段電源回路。耐圧(VCEO)が250V以上で放熱が可能な形状(TO-126あるいはTO-220など)のパワートランジスタが適します。当初は2SC3503を使っていましたが、在庫のがなくなったため2SC2688に置き換えました。この種の高耐圧トランジスタはいよいよ入手が困難になりました。

下図はFETおよびトランジスタの接続です。印字面に向かった図と下から見た図です。上から見た図ではありません。2SK117と2SK30AはDとSの位置が逆ですのでご注意ください。

1NU41/1JU41・・・ファーストリカバリダイオード。電源の整流回路。いよいよ入手困難なので、頒布品以外ではUF2010やPS2010が適します。

1N4007・・・単なる逆電圧防止用なので、1N4006、UF2010、PS2010、1JU41など耐圧が300V以上ある廉価なシリコン・ダイオードで足ります。

1S2076A・・・小信号用シリコンダイオード。LED点灯。1S2075、1S1585〜1588、1SS270A、1N4148などの同等のダイオードもOKです。

32Vのツェナダイオード・・・32Vのものがあれば1個で足ります。ツェナ(定電圧)ダイオードは異なる電圧のものを直列にして組み合わせることでさまざまな電圧を得ることができます。合計が合えばいいので16V+16Vでも12V+20Vでもかまいません。

各種ダイオードの記号と電流の方向と実物のマーキングです。下図左はシリコンダイオード(1NU41、1N4007、1S2076Aなど)で、下図右はツェナ(定電圧)ダイオードです。電流の向きが逆ですのでご注意ください。回路図の記号は矢印風の形をしていますが、実際のダイオードは鉢巻のようなマーキングがしてあります。


抵抗器・・・回路図のとおりです。W数記載がないものはすべて1/4W型です。100Ω半固定抵抗器に抱かせる47Ωはリード線が細くて穴に通しやすい1/4Wの超小型ですが、通常の1/4W型でも実装は可能です。

ボリューム・・・アルプス製RK27シリーズの2連ボリュームを推奨します。2連ボリュームは抵抗値のばらつきがある(ギャングエラーという)ためステレオで使った時に左右の音量揃わないという問題が生じますが、RK27シリーズは精度が格段に良いのでギャングエラーはほとんど起きません。2連ボリュームのギャングエラーに関するレポートはこちら

半固定抵抗器・・・初期の製作では、BOURNSの15回転横型で100Ωのものを取り付けていま下が、操作性の点から25回転縦型に変更しました。

コンデンサ・・・10μF以上のものはアルミ電解コンデンサ、1μF以下のものはフィルムコンデンサでいずれも通常品です。オーディオ用と称するものは概してサイズが大きいので平ラグに乗らないことがありますのでご注意ください。

スイッチ類・・・電源スイッチで使用したのはミヤマ製のLED付ロッカースイッチ(型番:DS-850)です。端子の太い2つがON/OFFスイッチ端子、小さい2つがLED用で「+/−」の刻印があります。LEDは3〜5mAで適度に光ります。順方向電圧は約2Vです。Bass Boostで使用したのはミヤマ製の6PトグルスイッチMS-550FBです。スイッチ類は好みで選んでください。

平ラグおよび樹脂スペーサ・・・平ラグは20Pと15Pの樹脂製のものを使います。20P側はシャーシとの隙間に多くの線材が通るので高さ10mmが必要です。15P側は高さ8mmがあれば足ります。20P平ラグ中央の穴を固定するナットは誤接触を回避するためにポリ・ナットがよいです。15P平ラグにも中央に穴が開いていますが使いません。いずれも頒布しています。

ビス、ナット、ワッシャ類・・・頒布している「MW汎用シャーシ用 ビス&ナットset」の内訳と使い方は以下の通りです。

用途種類数量
出力トランスビス(3点セムス、10mm)+スプリングワッシャ+ナット4
ゴム足ビス(3点セムス、10mm)+ナット4
真空管ソケットビス(2点セムス、8mm)+スプリングワッシャ+ナット4
20P平ラグビス(2点セムス、6mm)+10mmスペーサ+スプリングワッシャ+ナット(中央はポリナット)3
15P平ラグビス(2点セムス、6mm)+8mmスペーサ+スプリングワッシャ+ナット2
トランスカバービス(2点セムス、6mm)4
底板ビス(2点セムス、6mm)4

1.2mm径銅線、エポキシ系ボンド・・1.2mm径銅線は、アース母線と2SK117の熱結合用に使います。太さのある銅線・すずメッキ銅線が適します。ボンドは「セメダインハイスーパー30分硬化」など一般的なエポキシ系2液混合タイプです。作業がもたもたしなければ5分硬化タイプでもOKです。

部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm


<製作と調整>

作業の順序:

  1. 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
    1. 実装のヒントが書いてあるのでこのページ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm)をしっかり読む。
    2. 平ラグのパターンシート(http://www.op316.com/tubes/tips/data/20p-large.pdf)をダウンロードする。
    3. 本サイトの回路図と平ラグパターンを見ながら自分で描いてみて、頭に入れる。
    4. 平ラグの端子穴ごとに作業手順が違うので、どんな手順でハンダづけしてゆくか考える。

  2. 平ラグユニット上のジャンパー線の取り付け・・・ジャンパー線は0.35〜0.55mm径の銅線が適します。銅線はホームセンターで廉価に入手できますが、切り取った抵抗器のリード線でも十分に代用できます。秋葉原で売られている銅線のほとんどはポリウレタンコーティングで絶縁されているので使えません。ポリウレタンコーティングは高めに設定したハンダの熱で落とないわけではありませんが、作業性は非常に悪いです。ジャンパー線はホチキスの針のように折り曲げて取り付けます。

  3. 平ラグユニット上の部品取り付け・・・ダイオードや2SK117、2SK30Aの取り付け向きに注意してください。20P平ラグのセンター穴まわりは、端子と穴とが接近しているので、ジャンパー線は穴を避けるように曲げています。抵抗器やコンデンサはリード線を切り詰めないでやや長めにした方が仕上がりが良くなります。特にツェナダイオードは熱に弱いのでリード線は短く切らない方が安全です(リード線は長くても動作に支障ありません)。平ラグの内側の列の穴はかなり大きいのでハンダは惜しまずにたっぷりと流し込みます。

    重要:画像では半固定抵抗器は15回転横型を取り付けていますが、操作性の点から後に25回転縦型に変更しました。この変更に伴い、47Ωの取り付け位置も変更しています。こちらの記事を参照してください。→ 「差動PPミニワッター DCバランス半固定抵抗器の取り付け法改善

    電源ユニット側は発熱部品がたくさんあります。MOS-FETに取り付けた放熱器はどこにでも売っているビスで留めるタイプで、2SC3503の放熱器は熱伝導両面シートで貼り付けるタイプです。ある程度放熱を保持できれば十分ですので方式は問いません。放熱器を付けた2個の半導体はシャーシに取り付けた時に上になるように、熱に弱いアルミ電解コンデンサは下になるように配慮しています。たとえば、56Ω2Wの抵抗だけは下の方になってしまったので(左下隅)、1000μF/16Vと上下でかぶらないようにずらして取り付けています。


    ご注意:整流ダイオード、電源の1000μF/16Vコンデンサ、電源の抵抗器(47kΩ、6.8kΩ、180kΩ、3.3kΩ)はありあわせの部品を使っているため見た目や値が異なります。

    JFETのバイアス特性は温度によって変化します。本機の差動バランスを調整するためにはシャーシをひっくり返して裏蓋を開けなければなりません。アンプをひっくり返した状態で動作させると、6DJ8の熱が上ってくるため、2SK117の温度にむらが生じます。むらが生じた状態で差動バランスを調整しても正しい調整にはなっていませんから、アンプを元の姿勢に戻すと差動バランスが狂ってしまいます。差動ペアとなっている2SK117の温度安定を得るために、1.2mm径くらいの太い銅線などを使って熱結合することをおすすめします。2SK117の上にボンドを少したらし、その上に銅線を乗せ、さらにそこにエポキシ系ボンドを追加します。ボンドは自分の重さとねばりでカマボコ状になってやがて固まります。(下の画像)

    (この参考画像は別のアンプのものです)

    電源ユニットは、配置上後から線材をつなぐのは難しいので、周囲とつなぐ線材はあらかじめすべて取り付けておきます。アンプ側ユニットの線出しは後からでも可能なのと電源ユニットから来る線を受け入れる側なので、線出しは必要ありません。

  4. 音量調整ボリュームシャフトの切断・・・金鋸でボリュームシャフトを適当な長さに切断します。その際、切屑が穴からボリュームの中に入らないように養生してください。ツマミの内側に加工時のバリが出ている場合は、そこにひっかかってボリュームシャフトが入りませんので、細いやすりを入れて削り取ります。

  5. 音量調整ボリューム上の抵抗器の取り付けと線出し・・・ミニワッターでは、ボリューム回転角と音量感の使いやすさを考えて音量調整ボリュームに補助抵抗をつけており、画像のように処理したらいいでしょう。しかし、工作が少々面倒なので省略してもかまいませんし、省略してもアンプの性能は変わりません。

    音量調整ボリュームからは全部で6本の線が出ますので、これらはあらかじめ線出しをしておきます。線材の長さが足りないと仕上がりがみっともなくなるので、線材は余裕をみて長めにしておきます。

  6. 電源スイッチのLED部分への部品取り付けと線出し・・・LEDまわりは、並列逆向きのダイオードと直列に入れる抵抗器の配線があります。上に参考画像があります。熱収縮チューブは、普通のドライヤーでは無理で専用のヒーターが必要ですが、45W以上のハンダごての腹であぶるとうまく縮んでくれます。

  7. RCAジャックのアースリングの事前加工・・・RCAジャックのアースリングはナット締めの際にくるくる回ってしまって厄介です。そこで、前加工してL/Rの2個をつないでしまいます。右画像は、パネルを流用してRCAジャックを逆向きに取り付け保持し、アースリングの端子部分を折り曲げてすきまにハンダを流し込んでで接着しているところです。このようにつないでしまえば、ナットで締め付ける時に回転したりしません。

  8. シャーシ追加工の穴あけ・・・ミニワッター汎用シャーシを使った場合に追加で最低限開けなければならないのは、電源ユニット取り付け穴(3.4mm径×2)です。出力トランスのリード線の中継のために立てラグを使う場合は、電源ユニットの放熱器と立ラグが接触しないような位置関係となるように工夫が必要です(右画像)。不用意に穴位置を決めると泣きをみますのでくれぐれもご注意ください。

    そのほかには、Bass Boostスイッチ(6mm径)、スピーカーのインピーダンス切り替えスイッチ(6mm径)、入力切替ロータリースイッチ(9mm径)などを追加する場合は、ご自身の設計に合わせて穴あけを済ませておきます。穴あけの位置決めでは、他の部品と接触しないこと、トランスカバーなどを固定するビスの邪魔にならないことなど注意してください。シャーシのボリューム用の穴と入力端子(RCAジャック)用の穴の内側はサンドペーパーがけをして塗装をはがしておきます。

  9. シャーシへの主要部品の取り付け・・・ACインレット、ヒューズホルダー、入出力端子、真空管ソケット、真空管ソケットまわりのラグ板、電源トランス、出力トランス、スピーカー端子をシャーシに取り付けます。音量調整ボリューム、スイッチ類、電源ユニット、アンプ部ユニットはまだ取り付けません。

  10. 出力トランスの1次側の配線・・・出力トランスの1次側の「赤」と「灰」はプレート回路ですので、真空管ソケットの1-pinと6-pinに配線しておきます。下の画像では5P立てラグを立てて「白」「黄」「青」をつないでいますが、これは出力トランスを再利用したために短く切られたリード線を中継するための工夫です(下の画像)。

  11. AC100Vまわりおよびヒーター回路への配線と通電試験・・・ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、電源トランスの100V側、スパークキラーの配線を行い、ヒューズを入れて最初の通電試験を行います。結線は下図を参考にしてください。描画上の都合で線を並行させていますが、ハム対策として実際の配線では往復を捻ることをお忘れなく。電源トランスの各端子に定格よりもやや高めの電圧がきていることを確認します。

    そこまでがOKになったら、6.3Vのヒーター回路を配線します。ヒーターまわりは交流回路なので電源の極性は関係ありません。ヒーター回路のどちらか一端はアースにつなぎますので、今のうちに真空管ソケットのセンターピンとつないでおきます(図参照)。真空管を挿して通電試験を行います。LEDおよびヒーターがほどよく光ることを確認します。

    真空管ソケットまわりの画像をよく見てみると、真空管ソケットの9番ピンとヒーター回路の一端がセンターピンとつながれているのがわかります。6N6Pの9番ピンは内部シールドなのでアースにつなぐ必要があるからです。

  12. 出力トランスから真空管ソケットへの配線・・・出力トランスから出ている灰色と橙(赤)色の線を捻りつつ真空管ソケットの1番ピンと6番ピンに配線します。ここで重要なのは
    1番ピン ← 灰
    6番ピン ← 橙(赤)
    の関係を間違えないことです。これを間違えると位相が逆転して全体を組み上げた時に負帰還にならずに正帰還がかかって盛大に発振します。

  13. 真空管ソケットのセンターピンとアース・・・6N6Pは9番ピンは内部シールドなので適当な線材を使ってセンターピン(アース)とつないでおきます。ヒーター回路の一端もアースにつなぐ必要があるので、センターピンとつなぎます。上の画像では0.3mm径の細い銅線を使っています。

  14. 電源ユニットの取り付け、電源トランスへの配線・・・2個の出力トランスから出ている黒色の線を1つにしてから電源ユニットにつなぎ、電源ユニットをシャーシに取り付けます。上の画像では黒色の線が短いので立ラグで中継させています。電源ユニットと電源トランスの150V巻き線をつなぎます。中央に見える赤い線はV+(178V)なので立ラグで出力トランスから出ている黒色の線とつなぐ予定です。

  15. 電源ユニットの通電試験・・・電源ユニットから引き出したまだどこにもつないでいない線が何かに接触しないように先端にテープを巻くなどして通電試験を行います。電源ON時にテスターを当てておく箇所は「V+〜GND間」がいいでしょう。電圧は電源ON後数十秒をかけてゆっくり電圧が上昇すること、電圧はすべて10%井戸高めに出ていることを確認します。アンプ部にまだ電流が流れていないので、マイナス電源には−0.06Vくらいしか出ません。

    この通電試験がOKでない場合は、決して次の作業には進まないでください。違反してトラブルが生じて掲示板でヘルプを請うても助けることができません。

  16. 真空管ソケットまわりの部品取り付けと配線・・・まず、グリッドに取り付ける4個の1kΩの配線をします。この1kΩは発振防止のためですのでできるだけ真空管ソケットのピンの近くに取付ないと意味がありません。その際、平ラグとつなぐ線も出しておくと後が楽です。次に、カソードに取り付ける4個の3.3Ωと560Ω3Wを取り付けます。

  17. 真空管ソケットのセンターピンをつなぐアース母線の取り付け・・・本機の場合、アースは母線というほどのものはないのですが、アースを1ヶ所でまとめた方が作りやすいのと、どのみち真空管ソケットのセンターピンはアースしなければならいので、「コ」の字型に曲げた銅単線を使ってアース母線としています。各真空管ソケットの9番ピンとセンターピンがつながっていること、ヒーター回路のどちらか一方とセンターピンがつながっていることを確認しておきます。

    6N6Pピン接続図(裏から見た図)→

  18. スピーカー関係の配線・・・出力トランスから出ている線をスピーカー端子およびアンプ部ユニットにつなぎます。本サイトの作例ではスピーカー端子の赤を4個使って4Ωと8Ωを両方とも端子に出しましたが、4Ωと8Ωはスイッチで切り替えてもいいでしょう。

    白(0) → スピーカー端子(黒)、アンプ部ユニットのアース側
    黄(4Ω) → スピーカー端子(赤)
    青(8Ω) → スピーカー端子(赤)、アンプ部ユニットの負帰還抵抗側

  19. 入力端子〜音量調整ボリューム〜アンプ部ユニット間の配線・・・音量調整ボリュームを取り付けます。その時、ボリュームとシャーシが接触する面の塗装が剥がしてあるか確認してください。ここでの接触がないと音量調整ボリュームを操作した時にノイズが出ます。音量調整ボリュームから引き出してある線を、入力端子(RCAジャック)およびアンプ部ユニットにつなぎます。この時、入力端子(RCAジャック)への線が浮いてしまわないようにシャーシの隅を這わします。

  20. アンプ部ユニットの取り付けと真空管ソケット側および電源ユニットとの接続・・・アンプ部ユニットを取り付けます。電源ユニットから出ている+31.4Vと-4.3Vをつなぎます。アースは、「電源ユニット→アンプ部ユニット経由→アース母線」とすると配線がやりやすいです。あらかじめ真空管ソケット側から出しておいた4本の線をアンプ部ユニットにつなぎます。

  21. 最終通電試験・・・ここまでの配線がすべて完了していれば、音は出ませんが真空管を挿した状態ですべての回路に電流が流れる通電試験ができます。但し、上記11.および13.の通電試験がOKであることが条件です。DCVレンジにセットしたテスターで、出力段カソード抵抗(560Ω)の両端電圧が測定できる状態にして電源をONします。電圧が徐々に上昇して21Vくらいに落ち着けばひとまずOKです。もし19V以下あるいは24V以上だったら必ずどこかに配線の漏れやミス、ハンダの不良があります。

  22. 出力段のDCバランスの暫定調整・・・この状態でしばらく通電して動作が安定しているかどうかチェックしておくといいです。DCVレンジにしたテスターで回路図でいうところのX点〜Y点間の電圧を測定します。ほとんど0Vの場合もあれば0.02Vくらいが生じていることもあります。100Ωの半固定抵抗器を調整して0.002V以下すなわち2mV以下となるようにします。時間が経つと変化しますし、風が当たっても変化しますので今の段階で無理して1mV以下に押さえ込もうとしても意味がありません。

  23. 最終チェック・・・アースはつなぎ忘れが起きやすくトラブルの主たる原因なので、「アース母線」と「アース」とつながっていなければならないすべてのアースライン間の導通をチェックします。シャーシ、アース母線、20Pと15Pの平ラグのアースポイント、RCAジャックの外側、スピーカー端子の黒い側、ボリュームシャフト、ヒーター回路など。

  24. 音出しと最終のプッシュプルDCバランス調整・・・これで完成です。音楽など聞きながら、時々シャーシを横に倒して出力段のDCバランスの状態を監視しつつ、最終調整をします。シャーシを完全にひっくり返してしまうと、真空管の熱があがってきて2SK30Aの温度が不安定になるので、横倒しでの調整をおすすめします。

  25. シャーシの組み立て・・・最後にトランスカバーと底板を取り付けて完成です。どちらもネジ山が切ってあるのでナットは必要ありません。


<測定>

無帰還時の利得は21倍になりました。これに11dBの負帰還をかけて、最終利得は5.9倍です。6N6Pという球はばらつきが大きいようですので、正確に同じ数値になるとは限りません。この値からかけはなれていなければ(±15%)ばOKです。残留雑音は、L-chで32μV、R-chで88μVで申し分のない低雑音となりました。L-chの数字が良いのは出力トランスが電源トランスから離れているためですが、R-chでも100μVを割っています。

歪率特性はご覧のとおりです。これは残留雑音が少ないL-chのデータですので、R-chは残留雑音が多い分だけみかけ上の最低歪率はもう少し悪くなります。改良前の特性をしのぐ好成績で、歪率が全体にぐっと下がりしかも最大出力は1.4倍アップしました。これは2014版に迫る性能で、まさかここまで出るとは思いませんでした。左はVersion2(本機)、右がVersion1です。

周波数特性は下図のとおりです。高域側はほとんど変わりませんが、超低域でのフラットネスが良くなっており、10Hzにおける減衰がほとんどありません。低域の鳴りっぷりが期待できます。本機の回路定数によるBass Boost特性は水色の線のようになります。



<所感>

ローエンドがぐっと伸びて低域側の表現力が良くなりスケール感が出てきたという変化は2014応用バージョンと共通しています。音数が増え、プレゼンスがよくなり、Version1で感じた不満がだいぶ払拭できました。最大出力が小さいことを容認すれば、メインシステムとしても十分通用するレベルだと思います。

本機は、小出力にもかかわらずいくつかのレコーディングスタジオにおいて、ミキシングモニター用のアンプとして採用されています。音響エンジニア諸氏からは、「疲れない」「ミックスの状態がよくわかってミキシングしやすい」という評価を得ています。

Version1からの改造は2個の平ラグの入れ替えでできますので、是非やってみてください。


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