<概要>
たまたま手元にあった2本の7119を生かそうと思って製作したアンプです。本機は基本的に「6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2」と同じもので、出力管を6N6PからE182CC/7119に変更してジャンク部品でやりくりして数字を合わせました。手持ち部品ありきの設計なので最適化しているわけではありません。
<全回路図>
最新版の全回路図です。設計内容の詳細は以下に説明します。
<初段の設計>
初段は2SK117-BLを使った差動回路です。基本的に6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2と同じですので解説はそちらをお読みください。回路定数の違いは以下のとおりです。
・6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2: ドレイン電流=3.8〜4.1mA、ドレイン負荷=7.5kΩ〜8.2kΩ
・本機: ドレイン電流=3.66mA、ドレイン負荷=9.1kΩ
<出力段の設計>
出力段には低内部抵抗、高gmの双3極管E182CCまたは7119を使いました。E182CC/7119と6N6Pの違いは下表のとおりです。E182CCの類似管に7044と5687がありますのでこれらも比較表に加えてあります。表中の数字は概算値です。なお、7044と5687はヒーター電流が格別大きいのでミニワッター用の電源トランス(6.3V、1.5A)では電流容量が足りません。
| 6N6P | E182CC 7119 | 7044 | 5687 |
Ep | 300V | 300V | 300V | 300V |
Pp | 4.8W+4.8W(8W) | 4.5W+4.5W(8W) | 4.5W+4.5W(8W) | 4.2W+4.2W(7.5W) |
Eh/Ih | 6.3V/0.75A | 6.3V/0.64A 12.6V/0.32A | 12.6V/0.45A 6.3V/0.9A | 12.6V/0.45A 6.3V/0.9A |
Ep | 155V | 160V | 160V | 160V |
Bias | -5V | -5V | -5.6V | -6.0V |
Ip | 18.7mA | 20mA | 20mA | 20mA |
rp | 2.4kΩ | 2.0kΩ | 2.0kΩ | 2.3kΩ |
μ | 15.8 | 22 | 17 | 17 |
Pin | | |
出力トランスはKA-8-54P2(8kΩ)を使いますので、差動PPにおけるセオリーどおりロードラインは1次インピーダンスの1/2である4kΩで引いています。
ロードラインからバイアスは-5Vくらいと読み取れます。プレート電流は6N6Pよりも若干多目の20.5mA、プレート電圧は160Vくらいですので、ユニット当たりのプレート損失は、20.5mA×160V=3.28Wとなります。差動PP出力回路の最大出力は、動作に無駄がない条件下では、
プレート電流×プレート電流×負荷インピーダンス÷2=20.5mA×20.5mA×8kΩ÷2=1680mW
となり、現実的には出力トランスのロスや動作条件の制約などが加わってこれよりもすこし低い値になります。1Wにおいてどれくらいの歪率になるかが気になります。
差動PP出力回路におけるロードラインおよび出力段の動作ポイントについて少々補足しておきます。理想的な直線性を持った真空管であれば、設定すべきプレート電流は、ロードライン上のプレート電流の最大値(バイアス=0Vあたり)の1/2でいいことになります。しかし、実際にやってみると確かに最大出力は1/2ポイントで最大になるのですが、プレート電流は1/2よりもすこし多目に流してやった方が歪み率特性が良くなることがわかっています。そのため、本機の動作条件も、1/2ポイントよりもやや左上寄りに設定してあります。
初段のドレイン電圧が15.2V〜16VでこれがE182CC/7119のグリッド電圧になりますが、バイアスが-5Vなので6N6Pのカソード電圧は21Vくらいになります。出力段プレート電流を20.5mA×2にするには、出力段の共通カソード抵抗値は510Ωがぴったりになります。510Ωの消費電力は約0.86Wですので3W型の採用になります。
(21V)÷510Ω=41.2mA
21V×41.2mA=0.865W
出力段の利得を求めてみましょう。本機の動作条件におけるE182CC/7119Pのμは21くらい、内部抵抗は2.0kΩくらいです。差動PP回路における計算上の負荷インピーダンスは8kΩの1/2の4kΩですので、E182CC/7119のグリッド入力からプレート出力までの利得は以下のとおりです。
μ×({負荷インピーダンス÷(内部抵抗+負荷インピーダンス)}=21×({4÷(2.0+4)}=14倍
この後に出力トランスがきますが、出力トランスの巻き線比はインピーダンス比の平方根ですから、
インピーダンス比→ 8kΩ:8Ω すなわち 1000:1
巻き線比→ 31.6:1
です。プレートに表れた出力信号は1/31.6となってスピーカー出力になりますが、実際の出力トランスは10%くらいのロスがありますので1/35くらいとみていいでしょう。
<利得の設計>
無帰還時の利得の計算:
これまでの計算で得た各段の利得は以下のとおりです。
- 初段=73.3倍
- 出力段=14倍
- 出力トランス=1/35倍
これらを総合すれば本機の総合利得を求めることができます。
負帰還時の利得の計算:
負帰還をかけた時の利得の一般的な計算法は手順が面倒なので私は以下の方法を使っています。
帰還後の利得=(元の利得×帰還定数´)÷(元の利得+帰還定数´)
です。ところで、上式でいう帰還定数´というのは、帰還素子の減衰率(β)の逆数、要するに
帰還定数´=1/β=(4.3kΩ+620Ω)÷620Ω=7.935倍
のことです。一般に知られる負帰還の計算法では帰還定数βを使いますが、式が複雑になって暗算できないので、私はもっとスピーディーに計算可能なこの方法を使っています※。数学的には同じことなので得られる結果はどちらも同じです。さて、上記の式を使って負帰還時の利得を計算すると以下のようになります。
帰還後の利得=(29.3×7.935)÷(29.3+7.935)=6.24倍
※詳しい説明は「真空管アンプの素」の169ページにあり、負帰還に関するさまざまな実験データや関連知識は156ページ〜180ページに書いてあります。
<初段〜出力段直結の設計>
6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2を参照してください。
<電源回路の設計>
E182CC/7119はヒーター電流が6N6Pよりも少ないため、消費電力も1.386W少ないです。そのため150V巻き線の電圧がやや高めに出ています。実際の製作では、1次側が220Vの欧州仕様のH24-0101E(春日無線変圧器製)を使いました。
6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2を参照してください。
<使用部品>
E182CC/7119・・・出力段真空管。入手ははなはだ困難かつ高価です。わざわざ追いかけるほどの球ではないので無理をなさらぬよう。
6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2を参照してください。
部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm
<製作と調整>
E182CC/7119は6N6Pよりもμが高いため、総合利得がかなり高くなりました。負帰還量が多いためなのか高域発振を起こしたのでスピーカー出力のところにZobelネットワーク(0.015μF+15Ω)を追加しています。E182CC/7119は扱いが難しい球のように思います。
6N6P全段差動PPミニワッター2012Vesion2を参照してください。
<測定>
本機は、完成直後に欧州の某音楽家にプレゼントしてしまったのであまり詳細なデータを取っていませんが、歪率特性はご覧のとおりです。残留ノイズは6N6Pよりも多いですが、最低歪率は6N6Pよりも低くなり、最大出力は6N6Pよりも若干アップしています。
周波数特性は下図のとおりです。深い負帰還がかかっているために100kHz以上で出力トランスの特性の暴れが強調されています。
<所感>
所感は、次回ウィーンに行った時に使っているご本人に聞いてみましょう。