・・・工事中・・・
<基礎知識・・・A1級とA2級>
アンプの動作にはA級、AB級、B級、C級などがあります。シングルアンプと差動ppアンプはすべてA級動作で、それ以外のプッシュプルアンプのほとんどはA級またはAB級です。A〜C各級の違いについては本ページのテーマの対象外ですのでここで解説はしませんので、別途しかるべき文献をあたってください。
各級の動作には、1級と2級があります。A級動作では、A1級、A2級という風に表記します。この1と2は、出力管の動作条件において、第1グリッドにグリッド電流が流れる領域を使うか使わないかの違いを表しています。A1級では第1グリッドにグリッド電流が流れる領域まで踏み込んだ動作をさせませんが、A2級になると第1グリッドにグリッド電流が流れるような動作条件も視野に入れて設計します。
右図はE182CC/7119という5687や6N6Pに良く似た球のEp-Ip特性データですが、このデータにはグリッド電流値が詳しく記載されていますのでこれを使って説明します。
真空管は、バイアスが1Vよりも深い領域(右図では右下側)ではグリッド電流が全く流れません。グリッド電流が流れはじめる境界はバイアスが-0.7Vくらいの線(右図の茶色い点線)で、これよりも浅い領域(左上側)ではグリッド電流がどんどん増えてゆきます。
このグラフによると、バイアスが-0.1Vくらいの時のグリッド電流は100μAで、0Vの時では250μAくらいに増えます。+0.1Vくらいでは500μAとなり、バイアスが浅くなるにつれてグリッド電流は倍々ゲームで急激に増加してゆきます。
真空管増幅の基本回路では、通常はグリッド電流が「流れない」という前提で考えます。前段とが直結されないでコンデンサで結合されている回路は、グリッド電流が流れてもいいようにはなっていません。このような回路では、バイアスが-0.7Vよりも浅い領域では動作が計算どおりにはなりません。なお、バイアス=-0.7Vという境界はどの球でもほぼ共通しています。
<グリッド電流の実態調査・・・6DJ8差動ppミニワッター>
こんどは、6DJ8差動ppミニワッターを材料にして調査・分析してみましょう。
右のデータは6DJ8差動ppミニワッターの歪率特性およびグリッド電流値です。グリッド電流は、グリッドの手前に入れてある発振止めの3.3kΩの抵抗の両端に生じる電圧を測定することで把握可能です。少々強引ですが、DCVレンジにセットしたテスターを3.3kΩの両端に当てればなんとか測定できます。
測定は、3.3kΩのままの時と、750Ωに置き換えた時の2パターンで行いました。発振止めの3.3kΩの抵抗はグリッド電流の流れを阻害するので、750Ωに減らしてみてどうなるか知りたかったからです。
右のグラフには、歪率特性とグリッド電流の両方を書き入れてあります。赤い線は原回路のままのものですが、黒い線はグリッド抵抗値を3.3kΩから750Ωに変更した時のものです。グリッド電流は常時流れているわけではなく、最大出力付近のしかもロードラインの右上の領域に達している瞬間にしか流れません。そのためテスターなどの電圧計で測定すると実効値がわかりますが、瞬間的なピークの電流値はわかりません。実効値ではピーク値の1/10〜1/100くらいの値が表示されます。そこでオシロスコープを使ってピーク値を調べたのが青い破線です。
グラフ上にグリッド電流が現れるのは出力が0.25W以上の領域です。グリッド電流のピーク値は、出力0.3Wの時で約0.006mA、0.5Wでは約0.09mA、0.7Wでは約0.28mAです。完全にクリップした状態での最大値は約0.5mAとなりました。
下の画像は最大出力付近の3.3kΩの抵抗周辺の状態を測定したものです。
左下の画像は、上が2SK30Aのドレイン側、下が6DJ8のグリッド側の信号波形です。本来、正弦波であるはずのところがグリッド電流が流れたために上側が潰れています。
右下の画像は、2つの波形の差分を取ったもので、すなわち3.3kΩの両端に生じた電圧を表しており、グリッド電流の大きさをも表しています。グリッド電流が全く流れていなければ直線になるはずですが、グリッド電流が流れたために周期的に山ができています。A2級動作におけるグリッド電流はこのような流れ方をします。山の高さは900mVくらいと読み取れますから、この時のグリッド電流のピーク値は、0.9V÷3.3kΩ=0.27mAです。この時の出力は0.6Wくらいではないかと思います。
以上のことから、2SK30Aと6DJ8の直結回路では、初段は電流を出力する能力が低いのでグリッド電流値は少ないですが、一応はA2級動作をしていることがわかります。
発振止め抵抗が3.3kΩ(赤)と750Ω(黒)とでは顕著な差はありませんが、それでも750Ωの時の方が最大出力付近での歪が確実に少なくなっています。初段の出力インピーダンスは、ドレイン抵抗の16kΩと3.3kΩを足した19.3kΩですので、これが16kΩ+0.75kΩ=16.75kΩに減ったからといって大きな効果はありません。しかし、もしこれが数kΩ以下にできるようであればかなり効果的なA2級動作が期待できそうです。そのためには、初段の回路を根本的に見直さなければなりません。
<A2級化はミニワッターで特に有利>
71Aや2A3といった深いバイアス(-40Vとか-45Vとか・・・)で動作させて、非常に大きな入力信号を必要とする出力管の場合は、バイアスの0Vも-0.7V無視できるくらい些細な違いでしかありません。しかし、6DJ8のようにμが高く浅いバイアス(-3Vくらい)で動作させる球の場合は、0V〜-0.7Vの領域の存在感が非常に大きくなります。6N6Pの場合もバイアスは-5Vくらいで浅めなので無視できる大きさではありません。
ミニワッターは、71Aシングルなど一部の例外を除いて、総じて高μ管を浅いバイアスで使っていますからA2級動作の恩恵をたっぷりと受けることができます。特に6DJ8は、その小さなプレート損失ぎりぎりで動作させているためプレート電圧を高くできません。A2級動作が有効に機能するということは、低めのプレート電圧でも同じパワーが得られることを意味します。省電力化としても貢献するわけです。
<差動PP回路におけるA2級化の問題>
真空管による出力段の動作はもっぱらプレート電流の増減によって負荷を駆動しています。そして通常のA1級動作では、
プレート電流=カソード電流
です。A2級動作になると、パルス性のグリッド電流が加わりますので、
プレート電流+グリッド電流=カソード電流(増える)
になります。普通のシングル出力回路やプッシュプル出力回路では、プレート電流さえしっかりと流れてくれればいいので、グリッド電流はカソード電流に加わることは問題にはなりません。これがA1級動作の差動プッシュプル回路では以下のようになります。
プレート電流=カソード電流=定電流
そしてA2級では、このようになります。
プレート電流(減る)+グリッド電流=カソード電流(一定)=定電流
グリッド電流が流れてもカソード電流は一定で増えることができません。グリッド電流が増えた分、プレート電流が減らされてしまいます。
A2級動作の初期の段階では増えるグリッド電流はわずかであり、プレート電流が少々減らされてもその影響は目立たない程度です。しかし、プレート電流を圧迫するほどのグリッド電流を流す動作は意味がなく、実際には波形の頭が潰れたままになります。差動プッシュプル回路では、あまり派手なA2級動作はできません。
<A2級ドライブ方式の検討>
出力管のグリッド電流要求に積極的に応えるためには、グリッド電流が流れてもビクともしないドライブ回路が必要です。出力インピーダンスが低く、しかも直流が取り出せる回路というと以下のものがあります。
- 真空管のカソードフォロワ回路
- バイポーラトランジスタのエミッタフォロワ回路
- FETのソースフォロワ回路
- トランスドライブ
- OPアンプ
- DCアンプ
1.〜3.は考え方はどれも同じですが、真空管アンプではやはり真空管によるカソードフォロワが使われることが多いです。XXXフォロワ回路の電流供給能力はもっぱら素子のgmの大きさに依存します。いかに大型の球をもってきてもgmが低かったらダメです。μが低い球も適しません。gmが4程度でμがせいぜい8の6L6の3結よりも、gmが10ほどでμが17もある5687の方がA2級ドライバとしては強力です。
バイポーラトランジスタはgmもμも真空管よりも桁違いに高いので、電流供給能力としては圧倒的に優れています。FETの2SK30Aはgmが低い上にIDSSの制約ひひっかかるのでお話になりません。gmが高い2SK117や2SK170もIDSSの制約があるので位置づけは微妙です。
古典アンプではトランスを使ったドライブ方式がよく使われました。トランスの巻線抵抗は非常に低いですからよさそうに思えますが、頑張っているのはトランスではなく、前段の球なわけで前段がスピーカを鳴らせるほどのパワーがないと成り立ちません。ここで使うトランスは特性に癖が出やすいハイインピーダンス仕様のものになりますので、別のところで欠点がたくさん出てきます。
OPアンプはきわめて強力な電流供給能力を持ちますので使い方によってはとても有効です。ボルテージフォロワにして単純にXXXフォロワ回路と置き換えるのが最もシンプルです。但し、耐圧があまり高くないのと、OPアンプの音の好き嫌いの問題があります。本格的にやるのであれば、ディスクリートでDCアンプを組む方がいいかもしれません。
差動ppミニワッターでは、電流供給能力が高く、廉価で、場所もとらないバイポーラトランジスタを採用しました。
<グリッド電流の実態調査・・・6N6P差動ppミニワッター>
下の2つのグラフは、6N6P差動ppミニワッターを改造した時のデータです。2SC1815のエミッタフォロワでドライブしています。作例はこちらです。
左下は、100Hzにおける歪率特性と、その時のグリッド電流の様子を実測したものです。本格的なA2級動作になるのは1Wから上です。最大出力におけるグリッド電流のピーク値は3.5mAで頭打ちになっています。
右下は、基本バージョン(かなり控え目なA2級)と応用バージョン(しっかりとA2級動作をさせた)の歪率特性を比較したものです。測定周波数は1kHzです。なお、応用バージョンでは負帰還量をかなり増やしましたので、そのためにすべてのパワーレンジで歪が減っていますが、A2級効果が得られているのは1V以上の領域です。エミッタフォロをつけたからといって小出力でも歪が減るわけではありません。
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