Mini Watters
6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2014
<応用バージョン>


ご注意:

このバージョンは手馴れた配線・実装技術を要求します。配線が立体的かつ錯綜しているので、はじめてアンプを自作される方には少々難しく、左右チャネルが2階建てであるため高域での飛びつきが起きます。複雑な回路にした割には特性的に特筆すべきものがあまりなく、製作される場合は全体としてバランスが取れた基本バージョンの改良型の6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012 V2をおすすめします。


<改良の余地はないか>

差動PP式ミニワッターは、パワーが小さいことを除けば十分に鑑賞に耐えるアンプとして仕上がったと思っていました。しかし、いろいろと思い巡らしているうちにまだまだ改良の余地があることがわかってきました。以前からやってみたいと思っていた改良案としては、初段のFETを2SK30Aからもっとgmが高い2SK117あるいは2SK170に変更して利得を稼ぐというものです。稼いだ利得を負帰還にまわして単純に物理特性を良くしてみたら、一体どんな音になるのか興味がありました。

ミニワッターは、シングル版も差動PP版もともに2段直結方式を採用しています。そのため、あまり強力ではないもののA2級的な動作をさせることでパワー効率を上げています。しかし、なんとなくですが出力段のバイアスが浅い領域でのグリッド電流の要求には十分に応えられていないだろうなあ、ということを感じていました。何故ならば、出力段の両グリッドには3.3kΩの発振止めの抵抗が入れてあるために、この抵抗器がA2級的動作の障害になっている可能性があります。たとえば、1mAのグリッド電流が流れたとすると、3.3kΩの抵抗があるために3.3Vもの電圧効果が生じてしまうからです。

そこで、実際にどの程度のA2級的動作になっているのだろうか、もっと本格的なA2級ドライブをしてやったら何らかの効果が得られるではないか、と思って2013年に年末に実験を始めたのでした。


<A2級動作の検証>

実験データと詳しい解説はこちら → http://www.op316.com/mw/mw-a2-class.htm


<初段の改訂>

2SK30Aから2SK117へ

6N6P全段差動ppミニワッターの弱点としては、裸利得がぎりぎりで余裕がないことが挙げられます。現在の構成で利得を増やそうとすると、初段のドレイン負荷抵抗(18kΩ)をより大きな値にして、初段の電源電圧も高くする方法しかありません。しかし、この方法には2つ弱点があります。1つめの弱点はDCバランスの安定度が低下することで、2つめの弱点は高域側の帯域特性が劣化することです。そこで初段差動回路を、2SK30Aよりもgmが高い2SK117に変更することにしました。初段差動回路に2SK117を使った例はすでに存在します(平衡型6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター)。

初段の2SK117のドレイン電流は1.4mAに設定しました。あまり増やすと初段の消費電流が増えて電源回路の供給が追い付かなくなくなってしまうし、あまり減らすとgmがばらつく領域に入ってしまいます。定電流回路は2.8mAのものが必要です。

2SC1815によるエミッタフォロワの追加

出力段をA2級でドライブする方法にはいろいろありますが、真空管式ではカソードフォロワ、トランジスタであればエミッタフォロワを使うのが一般的です。ミニワッターの小さなシャーシではこれ以上真空管を乗せる場所はありませんし、ヒーター電源も足りません。グリッド電流の供給能力ではトランジスタの方が圧倒的に優れているので、トランジスタによるエミッタフォロワを使うことにします。想定されるグリッド電流の最大値は数mA程度ですし、初段の電源電圧は40V以下なので、2SC1815あたりの小型汎用トランジスタで十分です。但し、hFEは高い方が有利です。エミッタフォロワには多くのコレクタ電流を流しておく必要はなく、本機ではわずか0.5mAです。この電流を欲張っても効果がないばかりか、初段電源の消費電流が増えて電源回路の余裕がなくなったり、2SC3503が熱くなりすぎるなど不都合が生じます。

初段および出力段のロードラインは以下のとおりです。2SK117の静特性曲線は現実の2SK117-BLとはかけ離れていますので、ここで求めたバイアス値はあてになりません。6N6Pについては、大体近い値を示しますがやはり同じにはなりません。


<出力段は変更なし>

出力段の変更はたった1個所、両グリッドに入れる発振止め抵抗値を3.3kΩから1kΩに変えたことのみです。なお、ロードライン上で求めたバイアスは-5.5Vくらいですが、実際に動作させた時のバイアスは-4.4Vでした。球のばらつきもありますので、みなさんが製作したもののデータと私のデータが同じになるわけでもありません。


<負帰還回路の改訂・・・Bass Boostの追加>

負帰還回路には1段のBass Boostを組み込みました。Bass Boost特性は右図のとおりです。

Boostしはじめる周波数は何Hzで、何dBくらいBoostしたらいいかは、お使いのスピーカーによって異なります。本機の設定では、8cm〜10cm径くらい小型スピーカーを想定してチューニングしてあります。

Boost量を控えめにしたい場合は、15kΩを11〜13kΩに変更すればBoost量が減り、0.33μFを0.47μFに変更すればBoostが開始される周波数が下がります。スイッチを使ってこれらの組み合わせを変えられるようにしてもいいでしょう。


<電源回路の改訂>

高圧電源部(出力段用)

基本的に他のミニワッターで採用している電源回路と同じです。47kΩと1.5MΩによって分圧した基準電圧を2SK3067/2SK3767のゲートに与えた簡易型リプルフィルタです。電源ON直後だけですが、47kΩに高圧がかかって瞬間的に発熱するので1/2W型にしてあります。この簡易型リプルフィルタはきわめて強力でこれ以降の電源には残留リプルはほとんどありません。但し、この回路の電源インピーダンスは6Ωほどあるので、10μF/250Vのコンデンサを追加して10kHz以上の帯域でのインピーダンスを2Ω以下に下げています。2SK3067/2SK3767には小型の放熱器を取り付けています。

6N6P差動ppミニワッターの原回路の分圧抵抗は「56kΩ+1.5M」でしたが、本機では「47kΩ+1.5M」に変更しました。これによって電源電圧は約1V高くなり、2SK3067/3767の消費電力は10%程減っています。AC100Vの電圧が1%でも動いたらかき消されてしまうくらいの違いでして、ほんの気分の問題にすぎません。

低圧電源部(初段用)

原回路では、抵抗ドロップ+ツェナダイオードによる簡易シャント定電圧電源で、この回路の電流供給能力は6.6mAが上限です。本機では、差動回路が5.4mA、エミッタフォロワが2mA、合わせて7.4mAを常時必要とします、さらにグリッド電流の分が加わりますので全く足りません。そこで、電流容量が大きくとれるトランジスタ式の定電圧電源を採用することにしました。使えそうなトランジスタで調達できそうなものをあたってみたところ、2SC3425や2SC3503あたりが見つかりました。直列にした2個のツェナダイオード(約16V+約17.3V)によって33V強の基準電圧を作り、そこに2SC3503のベースをつないで簡易型定電圧電源とします。

2SC3503のコレクタ電流の合計は約7.6mAですので、180Vからドロップさせた時のコレクタ損失は、(180V−32.5V)×7.6mA=1121mWとなります。2SC3503の発熱を抑えたいので、コレクタ側に5.6kΩを入れて、この抵抗器に320mWほどの熱を分担させて2SC3503側のコレクタ損失を800mW程度まで下げることにしました。2SC3503には小型の放熱器を放熱器用両面シールで貼り付けていますが、結構熱くなります。

A2級動作領域では、出力管にパルス性のグリッド電流が流れます(右画像、但し上下が逆)。このパルス性の電流は5.6kΩにも流れますので5.6kΩの両端にかなりの振幅のパルス性の電圧が現れます。ですから本当はこんなところに抵抗を入れたくはないのですが、悪影響はなさそうなのでこれで良しとしました。2SC3503に十分な大きさの放熱板をつけられるのでしたらこの5.6kΩは不要です。逆にこの抵抗値を大きくしたい場合は、ほどほどにしておかないとグリッド電流が流れた時にコレクタ電圧が急降下して2SC3503が飽和してしまいます。

どれくらいの電圧降下があるか計算してみましょう。2SC3503の通常時のコレクタ電流は7.6mAです。6N6PがA2級動作をした時のグリッド電流の最大値は3.5〜4mAで、これが2本分ですから7〜8mAとなります。これらを総合すると2SC3503のコレクタ電流の最大値は15〜16mAに達します。この時の5.6kΩにおける電圧降下は90Vにもなりますので、2SC3503のコレクタ電圧は90Vとなり、コレクタ〜エミッタ間電圧は50V台まで下がります。逆算するとコレクタに入れられる抵抗値は9kΩくらいが限界ということになります。

エミッタ側の100μF/50Vのコンデンサは、10kHz以上の帯域での電源回路のインピーダンスを下げるためのものです。同じくエミッタ側に入れた100kΩは、電源OFF後に回路の各部に不要な電荷が残って電圧の逆転が生じないようにするためのものです。


<全回路>

本機の全回路です。なお、本サイトに掲載している画像では以下の2点が異なっていますが基本部分は同じです。

・入力が2系統あってロータリースイッチで切替えになっている。
・スピーカーのインピーダンスが、4Ωと8Ωの切替えスイッチついている。
回路図は、クリックで拡大します。

注意:部品頒布の都合で定電流素子が2本で2.6〜2.7mAから1本で2.8mAに変更になり、ドレイン負荷抵抗が12kΩから11kΩに変更されています。


<使用部品>

これまでのミニワッターで使用した部品や頒布可能な部品だけで構成されており、特殊な部品は使っていません。

電源トランス・・・春日無線変圧器製のH24-0101を使います。この電源トランスは本機の製作用に特注したものですが、誰でも購入することができます。整流出力特性の実測データがこちらにあります。

出力トランス・・・春日無線変圧器製のKA-8-54P2を推奨します。この出力トランスは前身であるKS-8-54Pの改良型で、1次インダクタンスがより高くなって低域のクォリティが高くなりました。もちろん、旧型のKA-8-54Pも使えます。

シャーシ&ケース・・・ミニワッターのために特注で作っているものです。当サイトで頒布しています。詳しくはこちら(http://www.op316.com/tubes/mw/mw1-box.htm)をご覧ください。もちろん、ご自分で工夫するのもよいと思います。

6N6P・・・出力段真空管。オークションで比較的廉価かつ容易に入手できますが、春日無線変圧器でも扱っています(電圧増幅管で分類・・・http://www.e-kasuga.net/bunlist.asp?sid=56)。6N6P-Iはヒーター電流が0.9Aあって電源トランス(H24-0101)の定格をオーバーして使えませんのでご注意ください。真空管の頒布はありませんので自力調達してください。

2SK117-BL・・・初段差動回路。選別ペアが必要です。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。

2SK30A-Y・・・初段定電流回路。ソースとゲートをつないで定電流ダイオードにしたものを2個パラレルにして使います。IDSSの値が2本の合計で2.6〜2.7mAになるような組み合わせを選別します。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。

2SC1815-GR・・・エミッタフォロワ回路。耐圧(VCEO)が50V以上の小型の2SCタイプ、2SDタイプであればほとんどのものが使えます。2SC1815-Yでもかまいませんが、hFEは高いもの(200以上)の方がわずかに有利です。

2SC3503・・・電源回路。耐圧(VCEO)が250V以上で放熱が可能な形状(TO-126あるいはTO-220など)のパワートランジスタが適します。2SC3425や2SC5550も使えます。この種の高耐圧トランジスタはいよいよ入手が困難になりました。

2SK3067 or 2SK3767・・・電源回路。耐圧(VDSS)が400V以上でドレイン電流(ID)が1A以上、形状がTO-220タイプのMOSFETが適します。現在は代替品を頒布しています。

下図はFETおよびトランジスタの接続です。印字面に向かった図と下から見た図です。上から見た図と勘違いされる方が多いのでご注意ください。

1JU41・・・ファーストリカバリダイオード。電源の整流回路。当初採用した1JU42はなくなりましたので、現在は1JU41を頒布しています。いよいよ入手困難なので、頒布品を使うかUF2010、PS2010、PG2010で代替できます。

1N4007・・・単なる逆電圧防止用なので、1N4006、UF2010、PS2010、1JU41など耐圧が300V以上ある廉価なシリコン・ダイオードで足ります。

1S2076A・・・小信号用シリコンダイオード。LED点灯。1S2075、1S1585〜1588、1SS270A、1N4148、などの同等のダイオードもOK。

HZ16-2、HZ18-1・・・ツェナ(定電圧)ダイオード。16V±0.4Vと17.3V±0.4Vを2個直列にして約33Vを得ます。計算上は33.3Vのはずですが、流す電流が少ないので電圧は低めになります。合計が合えばいいので他の組み合わせでもOK。

各種ダイオードの記号と電流の方向と実物のマーキングです。下図左はダイオード(1JU42、1NU41、1S2076A)で、下図右はツェナ(定電圧)ダイオードです。電流の向きが逆ですのでご注意ください。


抵抗器・・・回路図のとおりです。W数記載がないものはすべて1/4W型です。

半固定抵抗器・・・BOURNSの15回転横型で100Ωのものを使います。

コンデンサ・・・回路図のとおりです。すべて通常品です。

平ラグおよびスペーサ・・・20Pの平ラグを2階建てにして使います。1階用には8mm、2階用の継ぎ足しには20mmの樹脂スペーサが適します。中央の穴を固定するナットは誤接触を回避するためにポリ・ナットがよいです。いずれも頒布しています。

1.2mm径銅線、エポキシ系ボンド・・1.2mm径銅線は、アース母線と2SK117の熱結合用に使います。太さのある銅線・すずメッキ銅線が適します。ボンドは「セメダインハイスーパー30分硬化」など一般的なエポキシ系2液混合タイプです。作業がもたもたしなければ5分硬化タイプでもOKです。

部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm


<平ラグパターン>

新規作成用:

平ラグは20Pのものを2階建てにして実装します。製作途中の画像がありますので参考にしてください。なお、2つの平ラグの端子は3個所(黒矢印でマーキングしてあります)で上下に貫通させています。上下貫通部分は、2つの平ラグを20mmのスペーサで結合してから、0.55mmの銅単線でつなぎます。(画像はクリックで拡大します)

注意:部品頒布の都合で定電流素子が2本から1本に変更になり、ドレイン負荷抵抗が12kΩから11kΩに変更されています。

初段の定電流回路で使う2SK30Aは、右上図のようにSとGをつないだ定電流ダイオード接続にします。

大型のアルミ電解コンデンサは、端子側を斜め下に折り曲げた穴に足を入れてからハンダ付けしています。パワーMOS-FETやパワートランジスタも同様です。シャーシの深さに余裕がありませんので、上側の平ラグに取り付ける部品に高さに気を付けてください。深さのうちのりが50mmミニワッター汎用シャーシを使う場合、画像の高さでぎりぎりです。

* * *
改造用:

改造用の平ラグパターンは上記の新規作成用と全く同じで、高圧およびマイナス電源部は12P平ラグの電源部をそのまま活かします。電源部の330kΩは680kΩに変える必要はなく、そのままでOKです。

注意:部品頒布の都合で定電流素子が2本から1本に変更になり、ドレイン負荷抵抗が12kΩから11kΩに変更されています。


<内部の画像>

実験と変更を繰り返しながら作ったのでハンダづけや配線に傷みがありますが、どんな実装になっているのかがわかるので恥を忍んで画像を公開します。この実装がベストとはいえないかもしれません。製作される時の参考になれば。

大型のアルミ電解コンデンサは、端子側を斜めに折り曲げた穴に足を入れてからハンダ付けしています。パワーMOS-FETやパワートランジスタも同様です。シャーシの深さに余裕がありませんので、上側の平ラグに取り付ける部品に高さに気を付けてください。画像の高さでぎりぎりです。


<作業ガイド>

  1. シャーシ追加工の穴あけ・・・ミニワッター汎用シャーシを使った場合に追加で開けなければならないのは、Bass Boost用のスイッチ穴です。それ以外にスピーカーのインピーダンス切り替えスイッチ(6mm径)、入力切替ロータリースイッチ(9mm径)などをつけた場合は、ご自身の設計に合わせて穴あけを済ませておきます。穴あけの位置決めでは、他の部品と接触しないこと、トランスカバーなどを固定するビスの邪魔にならないことなど注意してください。シャーシのボリューム用の穴と入力端子(RCAジャック)用の穴の内側はサンドペーパーがけをして塗装をはがしておきます。

  2. 音量調整ボリュームシャフトの切断・・・金鋸でボリュームシャフトを適当な長さに切断します。ツマミの内側に加工時のバリが出ている場合は、そこにひっかかってボリュームシャフトが入りませんので、細いやすりを入れて削り取ります。

  3. 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
    1. このページ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm)をしっかり読む。
    2. 平ラグのパターンシート(http://www.op316.com/tubes/tips/data/20p-large.pdf)をダウンロードする。
    3. 本サイトの回路図と平ラグパターンを見ながら自分で描いてみて、頭に入れる。
    4. 平ラグの端子穴ごとに作業手順が違うので、どんな手順でハンダづけしてゆくか考える。

  4. 平ラグユニット上の部品取り付けとジャンパー線の配線・・・ダイオードや2SK117の取り付け向きに注意してください。勢いで作業を進めると思わぬミスをやって後で泣きます。ツェナダイオードは熱に弱いのでリード線は短く切らない方が安全です(リード線は長くても動作に支障ありません)。

    JFETのバイアス特性は温度によって変化します。本機の差動バランスを調整するためにはシャーシをひっくり返して裏蓋を開けなければなりません。アンプをひっくり返した状態で動作させると、6DJ8の熱が上ってくるため、2SK117の温度にむらが生じます。むらが生じた状態で差動バランスを調整しても正しい調整にはなっていませんから、アンプを元の姿勢に戻すと差動バランスが狂ってしまいます。差動ペアとなっている2SK117の温度安定を得るために、1.2mm径くらいの太い銅線などを使って熱結合することをおすすめします。2SK117の上にボンドを少したらし、その上に銅線を乗せ、さらにそこにエポキシ系ボンドを追加します。ボンドは自分の重さとねばりでカマボコ状になってやがて固まります。(下の画像)

    (この参考画像は別のアンプのものです)

  5. 音量調整ボリューム上の抵抗器の取り付けと線出し・・・音量調整ボリュームからは全部で6本の線が出ますので、これらはあらかじめ線出しをしておきます。入力端子行きの線は余裕をみて長めにしておきます(捻るとかなり短くなります)。

  6. 電源スイッチのLED部分への部品取り付けと線出し・・・LEDまわりは、並列逆向きのダイオードと直列に入れる抵抗器の配線があります。下に参考画像があります。熱収縮チューブは、普通のドライヤーでは無理で専用のヒーターが必要ですが、45W以上のハンダごての腹であぶるとうまく縮んでくれます。

  7. RCAジャックのアース側のリングの事前加工・・・RCAジャックのアースリングはナット締めの際にくるくる回ってしまって厄介です。そこで、前加工してL/Rの2個をつないでしまいます。右画像は、パネルを流用してRCAジャックを逆向きに取り付け保持し、アースリングの端子部分を折り曲げてすきまにハンダを流し込んでで接着しているところです。このようにつないでしまえば、ナットで締め付ける時に回転したりしません。

  8. シャーシへの主要部品の取り付け・・・ACインレット、ヒューズホルダー、入出力端子、真空管ソケット、真空管ソケットまわりのラグ板、電源トランス、出力トランスをシャーシに取り付けます。音量調整ボリューム、平ラグ上のアンプ&電源部ユニットはまだ取り付けません。RCAジャックは、8〜9mm径の菊座金をかましておくと接触が確実かつナットの締りがいいです。

  9. AC100Vまわりおよびヒーター回路への配線と通電試験・・・ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、電源トランスの100V側の配線を行い、ヒューズを入れて最初の通電試験を行います。結線は下図を参考にしてください。描画上の都合で線を並行させていますが、ハム対策として実際の配線では往復を捻ることをお忘れなく。この時、ついでにヒーター配線の一端と真空管ソケットのセンターピンを細い線でつないでおくといいです。画像では左側のソケットの5番ピンとつないでいます。ヒーターハムが出なくなるように一端をアースにつながなければなりませんので、ここでつないでおけば後でアース母線をソケットのセンターピンに取り付けた時につながってくれます。

    電源トランスの各端子に定格よりも10〜15%程度高めの電圧がきていることを確認します。それがOKになったら、6.3Vのヒーター回路を配線します。電源トランス(6.3V)→真空管ソケットの4,5ピン→真空管ソケットの4,5ピン→LED回路、の順に配線してゆきます。真空管を挿して通電試験を行います。LEDおよびヒーターがほどよく光ることを確認します。

  10. 平ラグユニット取り付けの下準備・・・。

  11. 本章のグレー部分の記述は古い記事のままですので参考にならない点がいくつかありますのでご注意ください。

  12. 電源ユニットの取り付け、電源トランスへの配線・・・2個の出力トランスから出ている黒色の線を1つにしてから電源ユニットにつなぎ、電源ユニットをシャーシに取り付けます。電源ユニットと電源トランスの150V巻き線をつなぎます。出力トランスの1次側から出ている灰色と赤色の線は捻ってから真空管ソケットの1番ピン(灰)と6番ピン(赤)につなぎます。

  13. 電源ユニットの通電試験・・・電源ユニットから引き出したまだどこにもつないでいない線が何かに接触しないように先端にテープを巻くなどして通電試験を行います。電源ON時にテスターを当てておく箇所は「V+〜GND間」がいいでしょう。電圧は電源ON後数十秒をかけてゆっくり電圧が上昇すること、ヒーター回路にはやや高めの電圧(約6.5〜6.7V)が出ることを確認します。アンプ部にまだ電流が流れていないので、マイナス電源には−0.03Vくらいしか出ません。

    この通電試験がOKでない場合は、決して次の作業には進まないでください。違反してトラブルが生じて掲示板でヘルプを請うても助けることができません。なお、平衡型6N6P全段差動PPミニワッターも本機と同じ電源回路を採用していますが、初段電源回路(ツェナダイオードを含む)をアンプ側に置くか、電源側に置くかで電流配分が変わり、試験時のマイナス電源電圧も違ってきます。これは平衡型にチャレンジする方への演習問題です。しっかりと頭を使って何Vになるか考えてください。

  14. 真空管ソケットのセンターピンをつなぐアース母線の取り付け・・・本機の場合、アースは母線というほどのものはないのですが、アースを1ヶ所でまとめた方が作りやすいのと、どのみち真空管ソケットのセンターピンはアースしなければならいので、「コ」の字型に曲げた銅線を使ってアース母線としています。ここで、各真空管ソケットの9番ピンとアース母線とをつなぎます。また、ヒーター回路のどこか一点とアースとをつなぎます。どこでもいいので配線しやすい一か所を選んでください。私は、前寄りのソケットの4-pinとセンターピンを細い銅線でつないでいます。

    6N6Pピン接続図→

  15. 真空管ソケットまわりの部品取り付けと配線・・・まず、グリッドに取り付ける4個の3.3kΩの配線をします。その際、平ラグとつなぐ線も出しておくと後が楽です。下に画像がありますから参考にしてください(緑色の線)。ちなみに頒布している線材には緑色はありません(適当ですなー)。次に、カソードに取り付ける4個の3.3Ωと560Ω3Wを取り付けます。

  16. アンプ部ユニットの取り付けと真空管ソケット側および電源ユニットとの接続・・・アンプ部ユニットを取り付けます。電源ユニットから出ているV+とV-をつなぎます。アースは、「電源ユニット→アンプ部ユニット経由→アース母線」とすると配線がやりやすいです。あらかじめ真空管ソケット側から出しておいた4本の線をアンプ部ユニットにつなぎます。

  17. 最終通電試験・・・ここまでの配線がすべて完了していれば、音は出ませんが真空管を挿した状態ですべての回路に電流が流れる通電試験ができます。但し、上記8.および10.の通電試験がOKであることが条件です。DCVレンジにセットしたテスターで、出力段カソード抵抗(560Ω)の両端電圧が測定できる状態にして電源をONします。電圧が徐々に上昇して21V前後で落ち着けばひとまずOKです。もし19V以下あるいは23V以上だったら必ずどこかに配線の漏れやミス、ハンダの不良があります。

  18. 出力段のDCバランスの暫定調整・・・この状態でしばらく通電して動作が安定しているかどうかチェックしておくといいです。DCVレンジにしたテスターで回路図でいうところの「A点〜B点」間の電圧を測定します。ほとんど0Vの場合もあれば0.02Vくらいが生じていることもあります。100Ωの半固定抵抗器を調整して0.003V以下すなわち3mV以下となるようにします。時間が経つと変化しますし、風が当たっても変化しますので無理して1mV以下に押さえ込もうとしても無駄です。

  19. 入力端子〜音量調整ボリューム〜アンプ部ユニット間の配線・・・音量調整ボリュームを取り付けます。パネルとの間に8〜9mm径の菊座金をかますことでボリュームのシャフト部分とシャーシとの接触が確保されます。音量調整ボリュームから引き出してある線を、入力端子(RCAジャック)およびアンプ部ユニットにつなぎます。この時、入力端子(RCAジャック)への線が浮いてしまわないように、ピタックなど配線の固定具を使ってもいいです。私は5P立てラグの空いた穴を使って固定しています。

  20. スピーカー関係の配線・・・出力トランスから出ている白(0)と青(8Ω)の線は、アンプ部ユニットの端子を経由してからスピーカー端子につなぎます。黄(4Ω)を生かす場合はアンプ部ユニットを経由せずにスピーカー端子につなぎます。

  21. 最終チェック・・・「アース母線」と「アース」とつながっていなければならないすべてのポイント間の導通をチェックします。シャーシ、RCAジャックの外側、スピーカー端子の黒い側、ボリュームシャフト、ヒーター回路など。

  22. 音出しと最終のプッシュプルDCバランス調整・・・これで完成です。音楽など聞きながら、時々シャーシを横に倒して出力段のDCバランスの状態を監視しつつ、最終調整をします。シャーシを完全にひっくり返してしまうと、真空管の熱があがってきて2SK30Aの温度が不安定になるので、横倒しでの調整をおすすめします。


<測定>

本機の歪率特性データです。これまで製作&発表したどのミニワッターよりも優れた特性が得られています。

基本バージョン2012(パワーアップ版)と本機2014とを比べたのが次のデータです。1kHzにおける歪率特性を比較しています。本機では、最大出力が大幅にアップしているだけでなく、微小出力領域においても歪が全体に少なくなっています。

本機の周波数特性データです。


<所感>

本機の特徴は2SK30Aから2SK117に変更したことによる負帰還量の増加と、出力管のグリッド電流に対応したA2級動作にあります。負帰還量の増加は音の重心を下げ、低域側の再現力に余裕を与えました。A2級化はパワーアップに寄与しています。その結果、ミニワッターとはいうものの、家庭でのリスニングアンプとして実用レベルになんとか届いたのではないかと思います。我が家では、メインシステムとしてHARBETHを鳴らしています。

本機の設計を踏まえて再設計を行ったのが基本バージョンの改良型の6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012 V2です。2014と2012で数字が逆転していますが、2012 V2が最新です。


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