アンプ部回路図:
アンプ部の回路図は右のとおりです。前ページとの違いは、
- 初段カソード側に33Ωの抵抗を挿入し、470Ω(暫定値)の抵抗とで微量の負帰還をかけています。
- 初段〜出力段結合コンデンサは、手元にある0.33μFのものを流用しています。
- 出力段の信号ループ用コンデンサには、100μFではなく220μFを奮発しました。
- 出力トランスの1次巻き線の直流抵抗が370Ωもあるため、電圧降下を17V(=48.6mA×150Ω)見込んでいます。
- そのため、B電源電圧は214Vといくぶん高めに設定しています。
部品の調達:
回路の構想がなんとかまとまってきたので、部品の調達といきましょう。使用する球(6EM7です)はすでに用意してあるので、購入するのはもっぱらトランス類と手持ちにないCR類、アンプのケース関係ということになります。
電源トランスは、もう決まったようなもので、東栄製のZT-03ES(100V,110V:200V,220V、容量30VA)を使います。ヒーター・トランスは、6V/2Aでお安いのを探すことにします。問題は出力トランスです。タムラとかTANGOなんていう豪華なのを使うつもりはさらさらありませんので、東栄変成器、春日無線変圧器、イチカワ、ノグチあたりから候補を選ぶことになります。まずは、いちばんお安いのがある東栄変成器。
東栄変成器 |
T-600 |
3k,5k,7k:8Ω |
1.5W |
170g |
60×34×38 |
650円 |
東栄変成器 |
T-850 |
3k,5k,7k:8Ω |
2W |
295g |
70×39×45 |
850円 |
東栄変成器 |
T-1200 |
3k,5k,7k:8Ω |
2.5W |
395g |
70×45×45 |
1200円 |
650円のやつなんてどうなんでしょう、記憶をたどってみてもものすごくちっちゃいトランスだったように思います。こういうのを検討していると、
東栄変成器 |
OPT-5S |
2.5k,3.5k:4,8Ω |
5W |
640g |
85×46×55 |
1750円 |
なんていうのが妙に豪華に思えてきます。1200円にするか、奮発して1750円出すか。今度は、春日無線です。
春日無線 |
OUT41-357 |
3k,5k,7k:4,8Ω |
3W |
20mA |
60×35×35 |
850円 |
春日無線 |
OUT54B57 |
5k,7k:4,8,16Ω |
5W |
60mA |
78×45×48 |
1850円 |
OUT41-357は、1次重畳電流が20mAなので没です。OUT54B57には、2.5kΩ(3kΩ)がないので、16Ω端子に8Ωスピーカーをつなぐような工夫がいります。さて、次はイチカワ。
イチカワ |
ITS-2.5W |
3k,5k,7k:4,8Ω |
30〜18000Hz(-3dB) |
2.5W |
400g |
70×50×45 |
1200円 |
イチカワ |
ITS-2.5WS |
3k,5k,7k:4,8Ω |
30〜30000Hz(-3dB) |
2.5W |
400g |
70×50×45 |
1800円 |
こういうのに比べると、ノグチの最廉価トランスといえどもこんな感じです。
ノグチ |
PMF-6W |
3k,5k,7k:8Ω |
6W(50Hz) |
60〜90000Hz(±2.0dB at 5kΩ,50mA) |
85×58×53 |
3500円 |
トランスって、でかい割に低域さっぱりだったり、安いくせに高域がきれいに伸びていたりするし。だんだんわからなくなってきました・・・というか、どれでもよくなってきたというか・・・。結局、トランスは 以下の構成でいくことにしました。
- 出力トランス・・・東栄 OPT-5S、2.5,3.5kΩ:4,8Ω 1750円×2
- 電源トランス・・・東栄 ZT-03ES、100,110V:200,220V 30VA 2000円×1
- ヒータートランス・・・東栄 J-632、90,100,110V:3.15,5,6.3V 2A 860円×1 合計6,360円(消費税別)
B電源のリプル・フィルター用の高耐圧トランジスタは、TU-870の改造で使った2SC3158が余っているのでこれを使います(右の画像)。端子は向かって左から、「B-C-E」の順です。VCBOが400Vのスイッチング・パワー・トランジスタならば大抵のものがOKです。トランジスタを使わない場合は、5H/100mAくらいのチョークにしてもOKです。
3端子レギュレータは、おなじみのLM317Tを使います。全国どこでも、1個100円くらいでザクザク置いてあると思います。消費電力は、(25V−1.25V)×46mA=1.09Wなので市販の最も小さい放熱フィンで充分です。もちろん、3端子レギュレータなどで無精をしないで、真面目に定電流回路を組んでもいいです。
電源用ダイオード・ブリッジは、耐圧400V以上、定格電流1A以上あれば十分です。手持ちに□□があったのでこれを流用します。
抵抗器類は、W数指定がないものは1/2W型のカーボン抵抗、1W型や2W型のものは酸化金属皮膜抵抗またはセメント抵抗で充分です。但し、負帰還にかかわる抵抗類と定電流回路の27Ωだけは、数本購入したものの中から抵抗値が相対的に揃ったものを選びます。コンデンサ類は、そのほとんどが電解コンデンサで、指定の耐圧・容量以上のものであればOKとします。初段と出力段をつなぐ0.33μFはフィルム・コンデンサで、耐圧は250V以上のものを使います。
シャーシは、どうしましょうか。シャーシは、以前作った16A8(3結)全段差動PPおまけ・アンプの縦型構造が気に入っているので、これをアレンジしたものを考えている最中です。どんなイメージになるのかは、そのうちご紹介できると思います。(今はまだ、構想段階なのでこの先どうなるかわからないのです。)
出力トランスの測定:
アンプの製作に着手する前に、ひまつぶしに出力トランスの周波数特性など測ってみたのが右図です。
東栄のOPT-5Sは、3.5kΩ;4,8Ωと、7kΩ:8,16Ωの両方が表示されています。同じ巻き線を使って、ユニバーサル・トランスとして意図されているようです。
測定方法は全くの手抜きで、1次巻き線に直流を重畳しないでじかに測定していますので、低域特性は実装した時よりも良く出ますが、高域については大きな違いは出ませんから、トランスの特性の傾向がわかります。
結果は見てのとおりで、基本設計どおりの3.5kΩ;8Ωとして使った時の特性は、送り出し側のインピーダンスが低い(600Ω)時は低域寄り、高い(1.6kΩ)時は高域寄りになりますが、超高域の暴れが抑制されていて全体として最も素直です。
7kΩ:8Ωおよび2.5kΩ:8Ωのように、1次または2次巻き線が余るような使い方では、超高域が微妙にのたくります。もっとも、この程度であれば特に気にすることはありません。
そうはいっても、こういうデータを見てしまうと人の気持ちは変ってしまうもののようで、気がついたら当初の設計(2.5kΩ:8Ω)ではなく、3.5kΩ:8Ωに変更になってしまいました。
特性の測定:
周波数特性がどうなるかは、出力トランスの単体での測定で概ねわかっていましたが、超高域のピークが低くなかなか優秀な出力トランスであるといえます。
初段が定電流負荷なので、一般的な電圧増幅回路よりも出力インピーダンスは高くなっており(rpとほぼ同一値になる)、出力管のミラー効果を考えるとどちらかというと不利な設計です。
確証はありませんが、定電流ダイオードの固有容量(数pFくらいあるといわれている)も足を引っ張っているかもしれません。
出力トランスの暴れは200kHzから上なので、本アンプのあずかり知らぬ世界です。実装時に、負帰還抵抗(470Ω)に1000pFの位相補正コンデンサを抱かせてみたのですが、4dB程度の負帰還なので、結局位相補正は不要でした。
歪みはかなり高めに出ています。そもそも直線性が悪いテレビ垂直出力管のシングル・アンプですからいたしかたありません。しかも、初段を定電流負荷にしてしまったため、初段単体は低歪みですが出力段は盛大に2次歪みを出す球であるため、2次歪みの打消しが全く機能です、かえって総合歪を増やす結果になっています。
しかし、東栄の1700円の出力トランスはなかなか優秀で、100Hz、1kHz、10kHzよく揃っており、100Hzにおける最大出力において目減りがわずかしかありません。
左右チャネル間クロストークは、シングル・アンプにしてはまあまあでしょうか。B電源を左右チャネルで分離したにしては、400Hz以下での劣化が目立ちます。B電源のトランジスタ式リプル・フィルタのベースのところのコンデンサ容量を22μFから増量すれば改善可能です。