私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
真空管の3定数
真空管の基本特性は、以下の3つの定数で表わされます。

この3つの定数の性質と関係さえわかっていれば、その真空管がどのような性質や特徴を持ち、回路をどう設計したらいいか、どんな球で代替できるか、どんな球に変えればもっとすぐれたアンプにできるか等がわかるようになります。プレート特性データがなくても、おおよその動作点を決めることすらできるようになります。


増幅率(μ)

右図をみてください。これは6FQ7のプレート特性の実測データです。ロードラインの章をマスターされた方であれば、このグラフがおおよそどんな意味を持っているかはもうおわかりのことと思います。まず、基準となる動作点をかりに
Ep=140V
Ip=4mA
と決めます。図中の赤い大きなのポイントです。今、バイアス電圧はちょうど-4Vです。ここでバイアスをプラス1V、マイナス1Vの範囲で変化させてみます。その時、プレート電流が常に4mA一定になるようにプレート電圧を調整してやります。この様子を図中にプロットしたのが2つの赤い小さなです。

バイアスが-3Vの時のプレート電圧は118V、バイアスが-5Vの時のプレート電圧は162Vになりました。つまり、バイアスを2V変化させた時のプレート電圧の変化はそれぞれ44V、つまり1Vあたりの変化率は22Vであったわけです。このように、プレート電流が一定の状態でバイアスを変化させた時の、バイアスの変化あたりのプレート電圧の変化率のことを「増幅率(μ)」といいます。この場合のμは22です。

単位は特にありませんが、しいていうならば何倍という表現になります。プレート特性図でバイアス1Vおきに特性曲線を描き、各曲線の左右方向の間隔だと考えてください。

増幅率(μ)=プレート電圧変化率(V)÷バイアス電圧変化率(V)
3極管の場合、プレート電流が多くなるにつれてμの値は徐々に大きくなり、プレート電圧が高くなるにつれてμの値は徐々に小さくなる性質があります。その度合いは、球によってまちまちで、オーディオ用に開発された球ほど、変化の度合いがちいさくなっているのが普通です。テレビ球や高周波球では、変化の度合いが意図的に大きくなっているものが多数存在します。

多極管の場合(下図=6AU6)は、通常の動作で使われるようなプレート電圧では、μは異常に高い値になるため、μの値そのものがあまり意味を持ちません。そのため、ほとんどの多極管の特性データでは、μの値は公表されていません。

応用・・・

電圧増幅回路を設計する場合で、十分大きな値のプレート負荷抵抗を与えたようなケース(つまり、横に寝たロードラインの場合)では、その回路の実際の増幅度はμ値に近い値になりますが、μ値よりも大きくなることはありませんね。たとえば、12AX7/ECC83のμはおおむね100ですから、この球で1段増幅回路を組んだ場合に得られる増幅率は、負荷抵抗が無限大の時で100になり、どうあがいてもこれ以上大きな増幅率が得られることはありません。このことがご理解いただければ、この章は卒業です。


相互コンダクタンス(gm)

今度も同じ基準となる動作点を使います。
Ep=140V
Ip=4mA
です。図中の赤い大きなのポイントです。今度もバイアスをプラス1V、マイナス1Vの範囲で変化させてみます。その時、プレート電圧が常に140V一定になるようにプレート電流を変化させてやります。この様子を図中にプロットしたのが2つの赤い小さなです。
バイアスが-3Vの時のプレート電流は6.3mA、バイアスが-5Vの時のプレート電流は2.2mAになりました。つまり、バイアスを1V変化させた時のプレート電流の変化はそれぞれ2.3mAと1.8mAであったわけです。このように、プレート電圧が一定の状態でバイアスを変化させた時の、バイアスの変化あたりのプレート電流の変化率のことを「相互コンダクタンス(gm)」といいます。この場合のgmは1.8〜2.3ミリ・シーメンスです。
相互コンダクタンス(gm)=プレート電流変化率(A)÷バイアス電圧変化率(V)
さて、ここでちょっと面白いことが起こります。オームの法則に、「抵抗(Ω)=電圧(V)÷電流(A)」という式がありました。これを相互コンダクタンスの式と比べてみます。わかりやすくするためにわざと単位だけにしてあります。
抵抗(Ω)=(V)÷(A)
相互コンダクタンス(gm)=(A)÷(V)
分母と分子が逆になっているでしょう。電圧(V)÷電流(A)の結果がΩ=オーム/ohmなのであれば、電流(A)÷電圧(V)の結果は何と呼んだらいいのでしょうか。そう、Ω(ohm)のさかさですから記号は上下さかさまに、読みも左右反対にして、これを(mho/モー)と呼ぼう・・・何と安直な発想!・・・となったわけですが、現在ではモーではなくシーメンス(S)に改められています。相互コンダクタンスというのは、プレート特性図でバイアス1Vおきに特性曲線を描き、各曲線の上下方向の間隔だと考えてください。

3極管の場合、プレート電流が多くなるにつれてgmの値はどんどんに大きくなり、プレート電圧が高くなるにつれてgmの値はどんどん小さくなる性質があります。この変化の度合いは、前述したμに比べて非常に大きくなっています。

多極管の場合(下図=6AU6)は、gmは非常に重要な意味を持ちます。というより、ほとんどgmだけしか意味を持たない、と言ってもいいでしょう。プレート電流が多くなるにつれてgmの値はどんどんに大きくなりますが、プレート電圧が高くなってもgmの値はほんのわずかしか増加しません。

応用・・・

相互コンダクタンスの単位は抵抗値(Ω)の逆数(1/Ω)ですから、これに抵抗値(Ω)を掛け算してやると単位がきれいに消えてなくなります。実際そのとおりで、5極管増幅回路では相互コンダクタンス値にプレート負荷抵抗値を掛けた値がほぼその回路の増幅率になります。

また、gmの逆数を求めると抵抗値(Ω)になりますが、この値はかなり高い精度でカソード・フォロワの場合の出力インピーダンスになります。たとえば、5687のgmは8.5〜11.5ですから5687をカソード・フォロワに使うと出力インピーダンスは85Ω〜115Ωになり、gmが2.6である6F6(3結)の場合の出力インピーダンスは385Ωということになり、gmが1.6である12AX7の場合の出力インピーダンスは625Ωになります。


内部抵抗(rp)

最後は、内部抵抗です。下図に注目してください。今度は、ある動作ポイントにおけるプレート特性曲線の傾きです。バイアスを一定にした状態で、プレート電圧を増減したとき、プレート電流がどれくらい増減するのかという指標のことを内部(rp)といいます。

たとえば、プレート電圧を140Vから10V高くして150Vにしたり、10V低くして130Vにした場合、プレート電流は5mAになったり3mAします。その変化率は、

内部抵抗(rp)=プレート電圧変化率(V)÷プレート電流変化率(A)
で表わされます。そこで計算してみると、
10kΩ=(150V-140V)÷(5mA-4mA)
10kΩ=(140V-130V)÷(4mA-3mA)
ということになりますから、この場合のrpは10kΩです。内部抵抗は、電圧増幅回路では負荷抵抗や次段の入力インピーダンスとの関係で回路全体の利得に影響を与えます。

3極管の場合、プレート電流が多くなるにつれてrpの値は徐々に小さくなり、プレート電圧が高くなるにつれてrpの値は徐々に小さくなる性質があります。プレート電流が非常に少ない領域では、Ep-Ip特性曲線がほとんど寝てしまい、rpは非常に高い値になります。この曲線が少ないプレート電流から立ち上がっている球ほど、大きな出力における直線性が良いことになります。

多極管の場合は、Ep-Ip特性曲線が常に横一直線に近い状態であるため、rpは非常に高い値を示します。

応用・・・

6FQ7をここで検証した条件で電圧増幅回路として動作させた場合、負荷抵抗を30kΩにしたとすると、基本となる増幅率は22でしたが、内部抵抗が10kΩで負荷インピーダンスが30kΩなので、信号は30kΩ/(10kΩ+30kΩ)=0.75倍となって、回路全体の利得は22×0.75=16.5(倍)になります。


「μ」と「gm」と「rp」の関係

この3つの定数はきれいな三角関係?にあります。すなわち、
「μ」=「gm」×「rp」
「gm」=「μ」÷「rp」
「rp」=「μ」÷「gm」
という関係です。今、ここにさまざまな球の3定数データがありますので検証してみましょう。

2A3300B6SN7GT12AX76V6GT6AU6
増幅率(μ)4.23.8520100------
相互コンダクタンス(gm)5.255.52.61.64.14.5
内部抵抗(rp)0.8kΩ0.7kΩ7.7kΩ62.5kΩ50kΩ1500kΩ

2A3の場合、「gm」×「rp」は「5.25」×「0.8」ですからμ=4.2となって、上記データとぴったり一致します。他の球の場合も同様です。真空管データが不十分な場合でも、3定数のうちの2つがわかっていれば残りの1つは簡単に計算で求まりますので、この式はしっかり頭に入れておいてください。ただし、5極管の場合は、内部抵抗が極端に高く、その動作条件はほとんどgmだけで決定されるので、データが省略される場合がほとんどです。


まとめ

真空管の3定数とその単位。 3定数の相互の関係は以下の式で表わされます。 ご注意・・・発表されている真空管の3定数は、どれもある一定の条件の時のものにすぎません。プレート電圧やプレート電流等条件が変われば、3定数も異なった値になってしまいます。単純に発表データだけを見て、真空管を比較できるわけではありませんのでご注意ください。

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