私のアンプ設計&製作マニュアル / 半導体技術編 トランジスタ増幅回路その2 (エミッタコモン1段増幅回路とそのDC動作) |
トランジスタ1段増幅回路
ここでいきなり「トランジスタとは」とか「トランジスタの基本的性質」なんていうこを書いたら誰も読まないと思うので、とりあえず簡単ながらまともに動作する増幅回路例などご覧いただこうと思います。下の回路図は、おなじみ汎用のバイポーラトランジスタ(以下トランジスタという)の2SC1815(GRランク)を1個使ったとても製品になりそうもない簡単な増幅回路です。
この回路のスペックは概ね以下の通りです。何故この入力インピーダンスになるのか、利得はどうやって決まるのかはこれから順を追って説明してゆきます。
この回路を材料にして、トランジスタおよびそれを使ったオーディオ回路の仕組みや設計法について学習してゆこうと思います。
- 電源電圧: 24V
- 消費電流: 約1mA
- 入力インピーダンス: 6.2kΩ
- 利得: 462倍(53dB)
- 出力インピーダンス: 12kΩ
- 特性: 周波数特性はそこそこ良いが歪はとても多い
DC(直流)動作の解析
オーディオ回路の設計では、オーディオ信号を増幅していない静的な状態での動作と、オーディオ信号を増幅している時の動的な状態での動作を分けて考えます。これを、それぞれDC(直流)動作、AC(交流)動作と呼ぶことにしましょう。下図は実験回路からDC動作に関係のある部分だけを抜き出したものです。入力と出力のところについているコンデンサはDCを通しませんから、ないものと思って回路図から除去しています。こういう考え方を開放除去といいます。
トランジスタからは3本の線が出ていますが、回路図上では上に出ているのがコレクタ(C)、横に出ているのがベース(B)、矢印付きで下に出ているのがエミッタ(E)です。12kΩの抵抗のことをコレクタ負荷抵抗あるいはコレクタ抵抗といいます。電源電圧が24Vでコレクタ電圧が12Vですから、コレクタ抵抗の両端には12Vがかかっています。コレクタ抵抗に流れている電流は、オームの法則をから1mAとなります(下の式)。
24V−12V=12Vさて、もうひとつ、ベースのところの電圧が0.63Vと書かれていますね。この0.63Vというのはベースとエミッタの間の電圧ですので、ベース〜エミッタ間電圧(VBE)といいます。トランジスタが正常に動作している時、ベース〜エミッタ間電圧(VBE)は0.6V前後になるという性質があります。コレクタ電流が非常に少ない時は0.5Vくらいまで下がり、コレクタ電流が非常に多くなると0.7Vあるいはそれ以上にもなりますが、1Vを超えるようなことはあまりありません。回路の設計では0.6Vと割り切ることが多いです。ベース〜エミッタ間電圧(VBE)は、コレクタ電流と非常に精密・正確な相関関係があります。このことについてはこの先のページで詳しく説明します。
12V÷12kΩ=1mA
この回路の場合、電源電圧は24Vで固定であり、VBEも0.63Vでほぼ一定なので、5.6MΩには必ず23.37Vがかかります。ということは、5.6MΩに流れる電流は以下の式で求められます。
24V−0.63V=23.37Vこの電流をベース電流(IB)と呼び、コレクタ側の電流をコレクタ電流(IC)と呼びます。エミッタから出てくる電流はエミッタ電流(IE)と呼びます。この3者に間には以下の関係があります。
23.37V÷5.6MΩ=4.2μA
IC = IB × hFEhFEというのは、コレクタ電流とベース電流の比で、これを直流電流増幅率といいます。この回路の場合のhFEは、
IE = IB + IC
1mA÷0.0042mA=240(倍)です。hFEは、トランジスタによって異なりますが、オーディオ回路で使うトランジスタでは、低いもので50くらい、高いもので1000くらいです。GRランクの2SC1815の場合は200〜400ということになっています。hFEはベース電流の値や温度によってかなり変化しますが、ここでは240で一定であるとして話を進めます。トランジスタは、ベース電流を変化させることでコレクタ電流(エミッタ電流も)が変化するという性質があり、この性質を使って回路を組み立てたり増幅させたりします。この回路では、まずベース電流を決めて、それからコレクタ電流が決まるようになっています。hFE=240のトランジスタに4.2μAのベース電流が流れたとき、コレクタ電流は1mAになります。
4.2μA×240=1mAこれで、何故コレクタ電流が1mAになったのかがわかりました。このように、トランジスタではベース電流がコレクタ電流を支配するような動きをします。つまり、ベース電流を変化させるような回路にしてやれば、コレクタ電流を240倍にして変化させることできるわけです。
hFEが変化したらどうなるか
hFEは個体ごとにばらつきがあり、温度などの条件によっては大きく変化します。ということは、この回路でhFEが240ではなくなったらどうなるのでしょうか。そこで、hFEが±20%ほど変化して、200になった場合と300になった場合について計算してみることにします。計算は簡単で、ベース電流=4.2μAで一定ですから、コレクタ電流およびコレクタ電圧は、
4.2μA×200=0.84mA → 24V−(0.84mA×12kΩ)=13.92Vとなり、hFEの変化はもろに回路動作に影響を与えてしまうことがわかります。詳しくは後述しますが、コレクタ電流が±20%ほど増減すると、利得も±20%増減してしまうので※、これでは安定した回路になどなりません。つまりこの回路方式は実験や解説にはよく出てきますが実用性はないのです。
4.2μA×240=1mA → 24V−(1mA×12kΩ)=12V
4.2μA×300=1.26mA → 24V−(1.26mA×12kΩ)=9V※利得の計算はこちらにあります。
結果を表にまとめるとこのようになります。
hFE 200 240 300 電源電圧 24V 24V 24V ベース電流(IB) 4.2μA 4.2μA 4.2μA コレクタ電流(IC) 0.84mA 1mA 1.26mA コレクタ電圧 13.92V 12V 9V 入力インピーダンス 6.2kΩ 6.2kΩ 6.2kΩ 利得 388倍 462倍 582倍 出力インピーダンス 12kΩ 12kΩ 12kΩ この回路方式では、DC動作がhFEの影響を受けて安定しないだけでなく、利得も変わってしまいます。
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